第55話三角関係

 「犬は、視力が弱いんだ。0.2か、0.3位しかないよ」

 

 理久は、まだお互いから視線を外さないクロと翼を前にして、ふと、犬型のクロがお世話になっていた獣医さんが言っていた言葉を思い出した。


 (まさか……クロ……犬型の時は視力が悪くて、人型になった今は視力良くなってたりして。良くなった視力で翼を見たら、俺よりやっぱ翼の方がいいなって……みんなと同じように思った?)


 理久は、凄くイヤな予感にクロの横顔を見ながら内心呟いた。

 だが、そこに翼が言った。


 「俺の家、すぐ近くなんで。アレクサンドルさん、是非理久と一緒に寄って下さい。俺、アレクサンドルさんの事もっと知りたいんです」 


 (ヤバい!本格的にヤバい!)


 理久は焦る。

 翼とは赤ちゃんの頃から知ってる仲だか、確かに翼は犬型のクロが欲しいと熱心だったが、翼が人間相手にこんなに自分からグイグイくるなんて初めて見た。大抵の人間は理久と話していても翼が来るとすぐに簡単に翼の方に気がいってしまうから、初めて見たと言っても大袈裟じゃない。

 翼は、明らかに人型のクロにも興味を持っているのが分かる。

 翼がクロに本気なら、もう理久は負ける気しかしない。

 でも、理久とクロには時間が無い。一刻も早く理久の両親に理久とクロが結婚すると報告して、クロの異世界王国に帰還しないといけない。

 理久は、クロが翼の誘いを勿論、断ると思った。

 しかし…


 「そうなんだ。じゃぁ、少しだけお邪魔しようかな」


 クロは、翼を見ながらそう言った。


 (はぁ?!)


 理久は、心の中で絶句した。

 本当に、翼の所に行ってる場合じゃないのだ。

 理久が戸惑っていると、クロは、やっと理久の方を見て言った。


 「なぁ、理久。ちょっとだけ、お邪魔しよう」


 理久はクロと見詰め合ったが、クロの瞳が、やはり理久に何か訴えているように理久に見えた。


 (やっぱ……クロには……そうしないといけない何か理由があるんだ) 


 理久はそう思うと、時間が無いのにややこしい事になったと溜め息を付きたいのを我慢して返事をした。


 「あっ……うん、そうしよう」


 「よし、決まり!」


 翼は、ニコリとして明るい声を出した。


 外灯が所々着いてはいるが、やはり誰もいない静かな夜の公園の道を、1番背の高いクロを真ん中に男3人で並んで歩き出す。


 「あれ!あそこのマンションが俺の家です」


 すぐに翼は、公園内から見えているマンションをクロに指さし示した。


 「そうなんだ…結構大きいね」


 クロは、まるで初めてそれを知ったような声を出したが、そんなクロを見ながら理久は、クロが犬型だった時、何回か翼のマンションに理久と一緒に行った事を思い出した。

 翼の住むマンションはペットオーケーだったし、翼はもうすでに小さな犬を一匹飼っていたし、何よりそのマンション丸々一棟、翼の父親が所有してる。


 (ごめん……犬型だったクロ。翼んちだったら毎日高級ドックフード、高級ジャーキーが貰えたのに……ワン◯ールだって毎日貰えたのに……俺んちは、母さんが節約命だから…)


 理久は今更だが、心中で本当にクロに詫びた。

 やっぱり、翼に飼われた犬の方が待遇は圧倒的に良いし、幸せかも知れない。

 たが、そんな事を思っていた理久に、クロが突然顔を向け尋ねた。


 「どうした?理久…」


 クロの声は、優しい。それに、クロの理久を見詰める青い瞳も真摯で優しい。


 「あっ…何でも無い」


 恋をすると、他の人もこんな風にしょっちゅう不安になったりするのかな?と思いつつ、理久は、やはりクロの瞳を見ると安心して答えた。


 翼の方は、横目でそんな理久とクロを見ていたが、急に夜空を見上げながら呟くように言った。


 「理久……お前にアレクサンドルさんみたいな……友達がいるなんて初めて知ったぞ。俺は……理久、お前の事なら、知らない事なんて無いと全部知ってると思ってたのにな…」


 「えっ?」


 理久が、戸惑ったような声を上げた。そして翼を見ると翼も理久をじっと見ていて、理久が見た事が無いような寂しそうな顔に見えた。いつもあんなに自信に溢れてる翼なのに…と、理久は不思議そうにした。

 そして次にクロの顔を見ると、

又クロは理久の目を見ていて、何かを理久に言いた気だった。


 (クロ……俺に何が言いたいだろ?)


 理久は、疑問を深めた。


 


 


 




 


 


 


 

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