第3話 思考:強制、友情

THE CHARIOT:正位置


俺たちは、天野めぐみの家をあとにしたあと、森島凛の家に向かった。


「知っていると思うが、森島凛は...いやその父親はおそらく厄介な存在になるはずだ。」

「はい、占いを信じ込んでいるというのが、どれほどのものかによりますよね。」

『占いくらいなら私が本物の予言をしてあげるのに。』


(神様が予言した場合、事実が残酷すぎて耐性がないやつにはきついだろうな。)


そんなことを話しているうちに、目的地についた。


「はい、どちら様ですか?」

「水沢警察署の一之瀬と、アシスタントの佐々木です。今調べている岩川修司さんが亡くなった事件についてお聞きしたいのですが...」


扉から顔を出した森島は、辰夫さんが話しかけると、少し部屋の中を見て言った。


「えっと、今父が"仕事"をしていまして...別の場所でもよろしいですか?」


そう言われたので、俺たちは喫茶店に入ることになった。


『"父の仕事"っていうのが何か気になるわね。』

(確かに、まあ、おそらく占い関係だとは思うけどな。)


他の人に知られないようにするため、"仕事"

としているのだろう。そこまで難しく考える必要は無いはずだ。


「岩川先生は、とても気さくで、いい人でした。私にも丁寧に接してくれて、仕事がとても楽しいと思えました。」


森島は柔らかい表情を浮かべて言った。


「岩川さんは、マリーゴールドのハーブティーをあなたに進められたと聞きましたが、どうして勧めたんですか?」

「実は...父に、自分の尊敬する人にハーブティーを勧めるといいと言われて...尊敬する人といったら、岩川先生と思ったからです。」


『なんで、マリーゴールドにしたのかが気になるところよね。ハーブティーと言ったら、ペパーミントのほうが良くないかしら。』


神様が少し愚痴っぽく言っているが、確かになぜマリーゴールドにしたのか気になったため、自分で聞いてみることにした。


「なぜマリーゴールドのハーブティーにしたんですか?」


すると、少し驚いたような表情をしたあと、何事もなかったかのように話し始めた。


「特に深い意味はありませんが、強いて言うなら、私の好きな花がマリーゴールドだからです。」


『リクト、今...』

(ああ、一瞬だが声のトーンが変わったな。)


よくある話だが、動揺すると人間は声が変わりやすい。そのため、俺は話を聞くとき、いつも声に注目して聞いていた。


「ありがとうございました。何かあったら、またお知らせしますね。」


そういって、俺たちは喫茶店を後にした。


「なにか気になることはあったか?」

「マリーゴールドのハーブティーを勧めた理由を聞いたとき、少し動揺していたのが気になりましたね。」

「本当か?あまりそうは思わなかったけどな...」


(気づいていないというのか?)


確かに、動揺したのは一瞬だが、辰夫さんにも気づかれない程にも隠せていないと思っていた。


「まあ、本当に一瞬でしたからね。」

「そうか...とりあえず次は木原雄斗だな。」

「そうですね、木原はアリバイがハッキリしているので、ないと思うのですが、」


木原雄斗は、大学時代の後輩だ。強く憧れていたと言っているが、岩川の技術に嫉妬していたら...犯人ではないと言い切れない。


『そうねぇ、人間の嫉妬心ほど恐ろしいものはないしね。』

(とにかく、直接会って確かめるぞ。)



木原の家に着き、辰夫さんが軽く挨拶を済ませると、急に頭を下げた。


「刑事さん、どうか、犯人を見つけてください!...いや、自分も容疑者に加わっている以上、なんとも言えませんが...」

『.....リクト、犯人がここまで言うことって無いと思うのだけど。』


俺も神様と同意見だ。...これが演技ならとんでもないが、おそらく本心だろう。


「木原さん、詳しく教えてくれませんか?」


辰夫さんがそう言うと、少しホッとした表情で語り始めた。


「岩川先輩は...本当に尊敬できるいい先輩でした。僕が失敗したときも、色々教えてくれて。それなのに、なんで.....」

「事件当時の詳しい状況を聞かせてくれませんか?」


すると、落ち着いた表情で話し始めた。


「あの日は、弟の花井裕太と僕の家で飲んでいました。僕の仕事が忙しくて、久しぶりにあったのもあり、会話がよく弾みました。」


(あれ、花井ってことは...)

「弟さんは、婿養子に入られているんですね。」

「あ、はい。裕太の奥さんから言われたそうです。特に婿養子を嫌がる理由もなかったので、2年前に。」


...この話を聞く限り、嘘はついていないと思った。おそらく白だが、気になるマリーゴールドについても聞いてみた。


「マリーゴールドが現場に?...たしかに先輩はマリーゴールドが好きでしたが、これと言って話は来ていませんよ。」

「ハーブティーが好きだったことは知っていましたか?」

「はい。ですが、カモミールのハーブティーのほうが好きだった印象がありますけど...」

「なるほど、わかりました。お時間、ありがとうございました。」


そう言って話を終わらせると、俺と辰夫さんは警察署に向かった。


「今のところ分かっているのは...」


○天野めぐみ

元婚約者だが、持病であるの乳がんの治療による金銭的な問題で、岩川の母と少しもめて婚約が破談に。マリーゴールドについては、岩川の病院の看護師である森島凛から勧められたということまで知っていた。どこも違和感なく答えていて、怪しいそぶりもないため、白の可能性が高い。


○森島凛

父に尊敬する人にハーブティーを勧めるといいといわれたため、岩川に勧めた。なぜマリーゴールドのハーブティーにしたかというと、自分の好みだと言っている。そのとき怪しいそぶりをしたが、辰夫さんは気づいていなかった。父の仕事のために場所を移したことも考えると、父が絡んでくることは間違いないだろう。


〇木原雄斗

犯行時刻には、弟の花井裕太と酒を飲んでいた。久しぶりに会って、会話が弾んだといっている。マリーゴールドのハーブティーについてはそれほど知らないが、どちらかというとカモミールのほうが好きだった印象がある。最初に頭を下げてきたため、白の可能性が高い。


「...こんな感じでしょうか。」

「そうだな。個人的には、天野めぐみが怪しいと思っている。理由としては、やはりアリバイがないことが一番だが...陸斗くんはどう思う?」

「そうですね.....」


天野めぐみは、本当にやっていなくてただアリバイを証明できないだけだと思う。個人的に"怪しくない"と思ったからだ。そう考えると...


「やっぱり、森島凛でしょうか。占いがあってややこしいというだけかもしれませんが、一番本人の情報が少ないのは、森島です。」

『そうね、得体のしれない人ほど怖いものね。それにあからさまに怪しいし。』


そう、一瞬動揺していたが、辰夫さんは気づいていなかった。単なる注意不足なら考えやすくていいんだがな...


「そうか...まあ、一通り話は聞いたし、そろそろ家に帰るか。」


そういわれたので、俺らは家に戻ることにした。

家に着くと、一ノ瀬家の前で彩花が待っていた。


「おかえりなさい!お父さん、陸斗くん!」

「ああ、ただいま。今日は朝から家を空けて悪かったな。その代わり事件は進みそうだが。」


(仲睦まじく会話しているな。)

『まあまあ、あなたにはこの神様がいるじゃない!』


姿は見えないが、神様は今世紀最大のドヤ顔をしているということだけはわかった。


(ああそうだな。あ、神様。完全記憶ありがとうな。だいぶ役に立った。)

『ええ、これくらいのことでサポートできるなら、いくらでも力になるわよ!』


神様は俺に褒められて、ものすごくうれしいらしい。そんなところで自分の家に帰ろうとしたとき、彩花が俺のほうを向いていった。


「家、大丈夫?怒られそうならうちに泊まる?」

「...大丈夫だ。気遣いはありがたいが、ちゃんと言ってから言っているからな。」


(まあ、嘘なんだけどな。)


確かに親には言ったが、おそらく自分のストレス発散用具いじめる相手がいなかったんだし、いつもの3倍は怒られることを覚悟して、家のドアを開けた。

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