第4話 一輪の花

家に帰ってひとしきり怒られたあと、俺はもう一度事件について考えることにした。


(神様、いるか?)

『ええ、いるわ。どうしたの?』

(一人で考察してもいいが、他の人の意見も聞いたほうがいいなと思ってな。)


今までは自分一人でやっていたが、せっかく神様がいるなら、二人で進めたほうが効率がいい。


『なるほどね。そういうことならもちろん協力するわ。ちょうど暇だったしね。』


神様の許可を得たところで、俺はいつものようにノートとペンを取り出した。


「とりあえず、怪しいのは森島凛だよな。」

『そうね、他の二人よりも明らかに動揺していたわね。』


占いに洗脳されているということは、どんなに周りからものを言われても、それを考える脳を持てなくなっているということだ。

それにしても、辰夫さんがそれほど怪しんでいないということが気になっているが...ひとまず置いておいていいだろう。


『それにしても、なんで森島凛は岩川さんを殺しちゃったのかしら。天野めぐみに嫉妬していたとしても、もう婚約はなかったことになってるんだから、殺す理由なんてないはずじゃない。』

「.....確かにその通りだな。」


神様に言われて、俺は動機について考え始めた。


「天野めぐみは、まず殺す理由なんてないだろう。自分が愛していた人を殺すなんて、ふつうは考えられないことだからだ。...まあ、特殊な性格ならないとは言わないが、昨日の反応を見ていると、そんなことはないと思う。」


動機で考えると、真っ先に白になるのは天野めぐみで間違いないだろう。


『木原雄斗も、おそらくないでしょうね。先輩の技術に嫉妬して殺してしまったと考えるとないとは言い切れないけど、天野めぐみと同じように、昨日の反応を見ているとね。』


そうなってくると、やはり怪しいのは森島凛ということになる。しかし...


「ここまで怪しいと逆に違う気がしてならないな。」


当然、そう考えてしまうわけだ。


『でもそうすると、森島凛の動機って何?なんかあったかしら。』


神様から言われたように、森島凛の動機を考え出した結果、


「.....よく考えるとないな。」


と、予想外の結果になってしまった。

確かに森島凛の父親は占いを信じきっていて危険だが、彼女本人のことを考えるとそうでもない。父親の言うことに従順なことを考えると無害ではないが、どちらにせよ、本人が危険だと思ったことはなかった。


『森島凛にとって憧れの人である岩川さんを殺す理由が見つからないわ。岩川さんに対して憎しみの感情を持っているわけでもなさそうだし。』


...そこばかりは、自分の両親と同じように、理由もなく人を痛めつけてくるようなやつではないと信じるほかない。


『だとすると...』

「誰かに命令されてやった可能性が出てくるということか。」


誰かが殺してしまいたいほど岩川修司が憎んでいたが、自分で殺すのは気が引けて命令した、という所か。


「それこそ、命令するのにもってこいなのは森島凛だな。」

『この間の喫茶店でもそうだったけど、父親に関することには逆らえない感じよね。』


今までの流れから見ても、犯人は森島凛で間違いないだろう。

そうなると、おのずと父親が命令したと見るのが自然だろう。


『まあ、誰が実行犯かは森島凛で間違いないだろうし、あとは彩花ちゃんのお父さんに報告するだけじゃない?』

「いや、そうとも言えないな。」


誰が犯人かは目星がついたら、次は根拠となるもの、つまり証拠を見つける必要がある。


「一通り考えがまとまったんだ。次は現場にもう一度行って証拠集めだな。」



*******

THE FOOL:正位置


殺害現場の路地裏に着くと、たくさんの追悼品が置いてあった。


「ここだな。何か手掛かりにあるものがあればいいんだけどな...」

『そういえば、凶器って見つかってないの?』

「ああ、傷跡がどう見ても刃物で刺されたものだったらしいが、実際に凶器は見つかっていない。」


そう、俺がここに来たのは、凶器を探すためでもあった。


『うーん、こういう時、よくあるのはダイニングメッセージにヒントがあるとかよね。そう都合よくはないと思うけど。』


現場にあったのは、被害者のわずかな遺留品と、一輪のマリーゴールドだ。


(マリーゴールドにヒントがあると思っているが...よくわからないな。)


そう思いながらも、俺はマリーゴールドが置いてあった場所をくまなく探すことにした。

すると、一枚の紙切れが茂みに埋まっているのを見つけた。

 

【マリーゴールドの後継者:森島凛、岩川修司

    我らが神に栄光あれ。  大1098回目の神託】


「神様、これ、心当たりあるか?」

『どれかしら.....いえ、無いわ。私の知り合いにこんなことをする神はいないし、どことなく人間が勝手にやっている感じがするわ。』


神様が分からないのなら、本当の神託とは言えないとみて間違いないだろう。


「マリーゴールドの後継者ってどういう意味だ?」

『マリーゴールドは、キリスト教だと聖母マリアの黄金の花といわれているけど、後継者という意味はないわ』

「そうだな。”マリーゴールドの後継者”という言葉自体に意味があるというより、何かの言葉を”マリーゴールドの後継者”に置き換えているという感じか?」


占いでは、占い結果をその人に当てはめて考える。例えば、”あなたは勝利する”という結果だとしたら、人によって”何に対して勝利する”のかは違うということだ。


『なるほどね。まあどちらにせよ、占いの結果のようなものね。見方によればお守りにも見えなくはないけど。』

「なんにせよ、ますます森島凛に近い証拠が出てきたな。本人のものか、父親のものかはまだわからないけどな。」


そのあともいろいろ探したが、結局凶器は出てこなかった。おそらく犯人が持ち去ったということで間違いないだろうが、個人的にもっと手掛かりが欲しかったため、少しがっかりしたのだった。


*******


家に帰ると、再び推理タイムだ。


「あとは、この紙についてはっきりさせたら、いよいよ辰夫さんに連絡すればいいな。」

『マリーゴールドに隠された意味は何なのかしらね。』

「こういう時によくあるのが花言葉だが、一般的なのは嫉妬、絶望、悲しみだぞ?もともと関係ないと省いていたが。」


マリーゴールドの一般的な花言葉は、嫉妬、絶望、悲しみだ。最初森島凛だと思ったときは、愛情に嫉妬して殺害したというテンプレート的な殺人かと思ったが、だとしたら犯人が分かりやすすぎると思った。

才能の差に絶望して殺したと考えれば、木原雄斗という説も考えられなくはないが、これも犯人につながる証拠がダイレクトすぎるため考えから外した。

天野めぐみについては、個人的に完璧な白だと思っているため、詳細は省こう。


『あ、思い出したけど、花言葉って花の色にも関係してくるのよね。』

「ああ。現場にあったオレンジ色は、予言だな。」

『...予言って、ものすごく占いに関係がある言葉だと思うのだけど。』

(...言われてみればそうだな。)


オレンジ色のマリーゴールドは、予言という意味がある。対象者の未来を予言してもらうというのが占いだ。そうすると.....


予言マリーゴールドの後継者が、森島凛と岩川修司だったということか?」

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