第2話 はじめの運命、その先は

STRENGTH : 正位置


「なんだ...これ?」


血の海には人が...いやの塊が浮かんでいる。なんとも説明し難い無残な姿で。


「嫌だ...!助けて陸斗くん....!!」


目をうるうるさせて俺に話しかけている彩花は、今にも意識が消えそうな顔をしていた。


「彩花!鞄で目を隠しながら他の大人を頼りに行け!」

「嫌!それじゃあ陸斗くんと離れちゃうよ...!」

「.....悪いが、俺は警察に通報したあと調べたいことがある。俺のことだから知ってるだろ?」


そう、俺は昔から気になったらとことん追求する性格だ。男なら彩花を無事に送り届けろとか言うかもしれないが、あいにく俺はそういう性格じゃない。


「.....うう、分かったよ...。だけど陸斗くん、終わったら私に連絡してね!まだ犯人がいるかもしれないんだから!」

「はいはいわかったよ。彩花こそ気をつけろよ。」


うん、と言って彩花は帰っていった。

よし、じゃあ警察に通報して...っと。それじゃあ警察が来るのを待つ間に.....


『...!....ば!ねーえー!!』

「うわっ!なんだ?女の声?」


姿は見えないが、どこからか謎の女の声が聞こえてきた。


『あ、やっと気づいた!も〜なんで中々気づいてくれないのよ〜』

「誰だ?どこから話しかけてるんだ?」


ド直球と言われるかもしれないが、仕方ないだろう。急に知らないやつから話しかけられたんだから。


『さっきもどこからか声が聞こえた感じしなかった?』

「はぁ...あ、言われてみれば。」


そういえば、死神の声かと思ってたな。


『でしょ!それが私。神様です!!』

「.....神にしてはアホすぎないか?それに俺は神なんて信じてないしな。」


そうだ、神なんているわけないんだ。いたら、こんな生活には.....


『佐々木陸斗、星川中学校2年3組、現在14歳。孤児だったところを佐々木夫婦に引き取られて育てられてきた。しかし、徐々に子育てが煩わしくなり、暴力を振るうようになった。...って、ところかしら。』


この話を聞いて俺は唖然とした。なぜなら...


「.....なんで、お前、誰にも言ってないのに...俺が孤児だってこと知ってるんだ!」

『まあ、神様ですから。』


そう、俺は5歳まで孤児院で暮らしていた。


(そうだ、心温まるような思い出が今でも思い出せるほどたくさんある。それを...それを.....!)


『感情的になるのはやめなさい、一時的な感情で起こる過ちは二度と取り返しが付かないから。』

「お前、俺の心が読めるのか?」

『まあ、神様ですから。』

「...それしか言えないのか、はぁ...」


でも、ここまで俺のことを知っていて嫌味を言ったりしていないことを考えると、案外信用していいのかもしれない。


「そうだな、とりあえずお前を神様だって思うようにしよう。それで?話しかけてきたってことは何かあるんだろ?」

『うん、信用してくれて嬉しいわ。それであなたへの要件だけどね、事件解決を手伝ってほしいと思って話しかけたんだけど...』

「俺もそう思っていたところだが...」


俺が調べたいことはもちろん事件についてだ。普通の人でもそう思う人は多いと思うが、俺は事件の真相まで全て知りたくなる性格のため、警察を問い詰めて自分で推理していた。


『でしょ?そこで私から提案なんだけど、私も事件解決のサポートをしてあげる。』

「具体的には?」

『私の力で警察官の記憶をそのままあなたに転送してあげる。そうしたらいちいち警察を問い詰める必要もなくなるでしょ。』


...確かに、そのほうが手っ取り早いな。


「...分かった、提案を飲もう。ただし、俺とこうやって話せるようにするのは事件が起こったときだけな。」

『ええ、それでいいわ。よろしくね、リクト。』


一通り話がつくと、パトカーのサイレンが近づいてくるのがわかった。


(それじゃあ警察も来たところだし、俺も現場を細かく見に行くか。)


#1 Marigold successor


神様が送ったデータをまとめるとこうだ。


事件が起こったのは今日、4/20。

死体があった場所は水沢市のある路地裏。第一発見者は俺。見るも無残な姿で死んでいた。(ギリギリ身元がわかるレベル)

また、現場には1輪のオレンジ色のマリーゴールドが添えられていた。

死亡推定時刻は23:00〜24:00。刃物で滅多刺しにされ、死因は出血死と見られている。


被害者は岩川修司(36歳)。都内にある〔岩川歯科クリニック〕で歯医者をしていた。


容疑者は3人。

天野めぐみ(30)岩川の元カノで、結婚まで考えていたが自分の持病が悪化して結婚どころではなくなったため破談に。

23:00〜24:00の間は一人で寝ていたため、アリバイを証明できる人はいない。


木原雄斗(34)大学時代の後輩で強く修司に憧れていた。現在は〔きはら歯科医院〕の歯医者をやっている。

昨日は弟のである花井裕太(32)と22:50〜深夜1:00まで木原の自宅で飲んでいたため、二人ともアリバイが証明されている。


森島凛(26)岩川の勤めている歯医者の看護師で、父親は占いをかなり信じ込んでいる。その父親が信頼している占い師に占ってもらったところ、岩川の病院で働くといいとすすめられ、一年前から勤務している。

犯行時刻には父親と自宅で映画鑑賞をしていたという。


『なるほど、これ、犯人見つけるの難しくない?よくこんなの考えようとするわね。』

「別に。俺からしたら難しいからって理由で事件を放り投げるほうが気持ち悪いな。」


ふーん、とあまり伝わっていなさそうな声で神様は相槌をうった。


『これ、普通に考えるとアリバイが証明されてない天野めぐみから考えるのが妥当じゃないかしら。』

「そうだな...よし、まずはそっちから探ってみるか。」

『うん、早速出発...と言いたいところだけど、今何時かちゃんと考えてよね?』


俺は腕時計を見ると、そこには短針が8を指していた。


「やばい、彩花に連絡してない ...」

『それにその時間じゃまた傷が増えて悪化するわよ。特別に傷が早くなる特殊効果でもかけてあげるから調査はまた明日ね。』

「.....ああ、そうするか。」


*******


「"悪い、連絡するの遅くなった。無事家に帰ってきたぞ。"...っと。」

 ♪

「早いな、もう返事帰ってきた。えっと...」


"本当、ずっと心配してたんだからね!まあ、とりあえず無事で良かったよ。"


「まあ、6時に学校出て帰ってきたの8時だもんな。あ、それと...」


(.....そういえば、こういうときは彩花を頼ったほうがいいな)


"余計な心配かけて悪かった。ところで、事件についてもっと詳しく知りたいんだがお前の父親に話つけてもらったりできないか?"


実は、彩花の父、一之瀬辰夫は警察官だ。前にも同じようなことでお世話になった。おそらく今回の事件についても調査しているはずだ。


"うーん、出来ないことはないと思うんだけど...ちょっと確認してくるね。"


仕事が早くて助かるな。


"OKだって!明日の朝ちょうど調べに行くらしいからついてくる?"


"ああ、急に言って悪かったな。"


"そんなこと無いよ!じゃあ、明日の8:00に私の家に集合ね!"


了解、と返事をしたところで俺は事件について考えようとして、その日は結局寝てしまった。


*******


「今日はよろしくお願いします、辰夫さん」

「ああ、本来なら無理な話だが、前にも陸斗くんには助かったことがあったからな。今回も期待...するのはおかしいかも知れんが、気になることがあったら遠慮なせず言ってくれ。」

「はい、ありがとうございます。」


.....どうやら随分期待されいるらしい。俺はただ自分の知りたいだけなんだけどな。


『ちょっと、私のこと忘れないでよね。』

(...神様か、別に忘れてはいないぞ。そうだ、こうなった理由分かってるか?)

『もちろん、だって神様なんだから!』


相変わらずな反応だなと思いつつ、俺は辰夫さんに連れられて容疑者への聞き込みに行った。


「そういえば、これまでの事件の経緯分かってるか?」

「知ってます。少し知人から情報が来ていまして。」


まあ、その相手が神様だなんて言えるはずもないけどな。


「知っているなら話が早いな。まずは天野めぐみから調査していこうと思う。」

「容疑者の中で唯一アリバイが証明できない人ですよね。」

「ああ、その天野の自宅に行く。お前にはアシスタントとして来てもらう。」

「分かりました。色々とありがとうございます。」


(本当、急に言ったのにすぐ対応してくれてすごく助かってるな。)

『やっぱり天野めぐみが怪しいわよね。』


色々と話していると、急に神様が話しかけてきた。


(そりゃあな。だが話してみないとわからない。この時点じゃまだわからないことだらけだからな。)

『そうね〜、あ、一時的に完全記憶できる状態付与しておくわね。そしたら覚えなきゃって焦らなくていいでしょ?』

(確かに便利だな、お願いするよ。)


なんやかんや話しているうちに、天野めぐみの家にたどり着いた。


インターホンを押すと、特におかしい様子もなく普通に出てきた。


(流石に警戒し過ぎか...?)


「はじめまして、水沢警察署の一ノ瀬辰夫です。こちらはアシスタントの佐々木です。天野めぐみさんですか?」

「はい、天野めぐみです。はじめまして。」


辰夫さんが挨拶すると、天野も挨拶を返してきた。


「この間の岩川修司さんが亡くなった事件についてお伺いしたいのですが」

「分かりました。どうぞお入りください。」


そう言われたので、俺たちは家に上がらせてもらった。


「もう調べられていると思いますが、修司さんは私の元婚約者でした。ですが、私の持病の乳がんが少し悪くなってしまって...」


(持病があることは知っていたが、乳がんだったのか.....)


「そうだったんですか...症状は大丈夫なんですか?」

「はい、3ヶ月前に手術して治ったんですけど、再発の可能性もあるので定期検診にも行きます。」


『ふーん、人間って大変なこと多いわね。』

(当たり前だ。ただでさえ体が脆いんだ。お前たち神様にはわからないと思うけどな。)


本来体の脆さなんて感じることは無いが、自分の体にできた傷を考えると、皮肉にも痛いほど脆さが伝わってくる。


「失礼ですが、婚約が破談になった理由はなんですか?」

「うちは、3年前に両親ともに他界してしまって...乳がんの手術を受けると結婚に貯めていた費用がなくなってしまって。修司さんはそれでも私を思う気持ちは変わらないと言ってくれたのですが、修司さんの母がお金のない私のことを気に入らなかったみたいで...」


『控えめに言って最低よね、そういうやつ。金よりも中身を見てあげるのが基本だと思うけど?』


.....本当、そのとおりだと思う。

人は、自分のことを認めてくれる人を欲しいと感じる生き物だ。血が繋がっていなかろうと、愛する人の身内に認めてもらえないのはとてつもなく苦痛だろう。


「そうでしたか...辛い気持ちにさせてしまって申し訳無いです。」

「いえいえ、大丈夫ですよ。」


(話を聞いている限りだと、人を殺すような性格には見えないな。)


「佐々木、なにか質問があれば。」

「では.....現場に1輪のオレンジ色のマリーゴールドが添えられていたのですが、心当たりはありますか?」


そう聞くと、なにか思い出した様子で話しだした。


「そういえば...修司さん、よくハーブティーを飲んでいて、その中でもマリーゴールドティーが好きだと言っていました。」

「なるほど、ちなみにこのことを知っているのはどれくらいですか?」

「同じ病院の森島凛さんに進められたと言っていました。他は...私は分かりませんね。」


それでも、有力な情報は手に入れられた。容疑者3人の中で一番未知数なのは父の占いがある森島だからな。


「調査のご協力、ありがとうございました。新しくわかったこともあるので、整理したいと思います。」

「私も、早く犯人が知りたいです。また協力できることがあったら、いつでも協力します。」

「ありがとうございます、それでは。」


そう言って、天野めぐみへの調査は終わった。


「陸斗くん、なにか分かったことはあったか?」

「個人的に天野めぐみは違うと思います。動揺しているところもありませんでしたし、本当にアリバイが証明できないだけだと思います。」

「そうか、とりあえず次の森島凛を見てからもう一度考えよう。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る