第20話 龍との長い夢のつづき

 お針子さん達のお昼ごはんを分けてもらい一緒に食べ、温かい甘いミルクを飲むともうお腹はいっぱいだ。お針子さん達は、それからお昼寝をする。意外に針仕事は疲れるのだ。

 わたしもいつのまにか、みんなと一緒に寝てしまった。


「凛、驚かせてしまったね。

 ごめんよ。そんなに驚くなんて、思わなかったから…」


「でたぁー。

 悪夢の続きですかぁ。」


「ひどいなぁ 凛。

 僕はいつでも、大変さ。」


「迷惑ついでにひとつお伺いします。

 あなたは、国王陛下様の体を乗っ取ろうとしている訳でしょうか?」


「ぷぅ。なにそれ。そんな事しないよ。

 ひどいなぁ。

 ラウル国王殿はラウル国王殿だ。

 尊敬する事はあっても、僕が乗っ取れる筈もない。」


「だって、陛下様のこと器って言ってたでしょ。」


「違うよ。

 器、即ちラウル国王殿は僕であり、僕はラウル国王殿であると云う事、水の様に僕の全てはラウル国王殿に混じり、またラウル国王殿の全ても僕を充たすと云う事なんだ。

 どちらかがどちらかを取り込むと云う事ではないんだよ。

 宙と魂の‥」

「んんん 解んないよ。

 どうして、どうして合体しないといけないわけ。」


「凛には、合体の方が理解しやすいんだね。

 ならば いいよ、それで。

 それが、条件だからさ。

 ロズワルド国の国王殿の器と龍族の持つ 絶対的な力との共有だ。

 それはラウル国王殿がラウル国王殿に生まれる随分前に契約は結ばれたのさ。」


「そんな昔の事に

 どうして、異世界人のわたしまで 関係してくる訳?

 おかしいでしょ

 わたしは、無実よ。

 いえ 無関係よ。

 どうして、付きまとうの。」


「ふう〜ッ

 君は、全てを忘れてしまった。僕との約束も希望も‥。


 凛は、僕の鱗を胸に抱いて輪廻しているから、僕は君を間違えようもない。

 君が欲しいと言ったから‥

 自分を見つけやすいようにって。

 凛の左胸にあるだろう。

 僕の鱗。」


「えッ えッ これは

 ただの ホクロです。

 ちょっと 大きめの‥

 ホクロなんですってば。」


「りん様、りん様。

 起きて下さいませ。大丈夫ですか。」


 いよいよ、悪夢に拍車が掛けられた。

 わたしは、真昼の夢にうなされていたのだ。

 約束って何だろう。希望って…

 その前に龍って なに?

 誰?と言うべきなのか。

 夢の続きを見れば、全てを教えてもらえるのだろうか。

 怖い。ものすごく怖い。追及心を恐怖心がはるかに上回る。

 私は洗濯場を後にした。

 ちょっとばかり早いけれど、ロイドさんの所へ向かうことにしたのだ。

 きっとロイドさんは、書庫に居るはずだ。

 ちょっと遠回りだけれど、安全な北側通路から西側に抜ける通路に向かおう。安全なとは、勿論 陛下様の執務室からなるべく離れた経路と云う意味だ。

 ここで会ってしまったのならもう仕方ない。

 自然に足速となるのも、仕方ない。

 あの廊下を曲がれば、と思った時には駆け足になっていた。

 そしてそれは、廊下を曲がろうとした瞬間だった。

 ドン

 なにかと、ぶつかった。


「きゃ  いったぁ」


「大事ないか?」


 陛下様だった。

 なんでー どうしてー


「よかった。

 凛を探しておったのだ。」


 そうでしょうよ。朝っぱらから たたき起こして、理由も告げず放置していたのだから。

 にしても、こんな所でこんなタイミングで鉢合わせとは、陛下様 恐るべし。


「凛よ。

 余に 話す事があろう。」


 こう云う時の陛下様は、本当に怖いのだ。これが、王の威厳と云うものなのか。

 決して誤魔化しのかない、凄みがある。

 わたしは、観念して ただ 頷くしかなかった。

 わたしは、項垂うなだれたまま陛下様とロイドさんの所へ向かった。

 書庫に入ると、ロイドさんは静かに微笑んで立っていた。


「お待ちしておりました。」


 こう云う時のロイドさんもまた、本当に怖いのだ。

 全て お見通しといったところだろう。

 今更ながら、陛下様とロイドさんには隠し事が出来ないことを痛感した。

 わたしの知ってる全ては、つまびらかにされた。

 そして 丸投げした先には、ほっとしている自分が見え隠れしていた。


 さぁ どうでますか。

 陛下様は。




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