モデラーのサガ(というサブタイトルのクライマックス)


「哲にょ部長、犯人がわかりましたよ」


「マジですか!?」


「ここに皆を集めてください」



「犯人が分かったって?」

「誰だよ、まったく……」

「ちょっと走って来ていいか?」

「この中にいるって事?」

「そういう事になるよね」

「ちょっと走って来ていいか?」



「犯人は紛れもなくこの中にいます!」


 その一言で皆の顔がこわばる。


「まず、犯人の動機ですが、これを見てください」


「そ、それは……」


「そうこれは犯人の物です」


そこに取り出したのは、Pow兄貴が雑誌の為に製作してる【不二峰子ふじみねこ】のフィギアだった。


「って事は犯人は……」


「そう、Pow猫谷さん、あなたです!」


「ちょっと待って、何で兄貴が牛ちゃんを?」


「雑誌の作例……締め切りがありますよね? そして【不二峰子】のフィギアは手にチョコレートを持っている。つまりこれはバレンタインの特集に載せる作例という事。そして雑誌の2月号の発売日は1月。そこから逆算すれば今が締め切りギリギリだとわかります」


 Pow兄貴の形相が変わった。……様に見えたが元々強面なのでわからない。


「締め切りに追われていたPow兄貴。そこに牛太郎副部長が現れネタを披露した。どんなネタかはわかりませんが、兄貴のツボだったのでしょう。不覚にもウケてしまった。そして手が震え、筆塗りしていた峰子の目を失敗してしまった」


「まさか……そんな事で人殺しを? 時間がないって言っても、塗装し直せば済むんじゃないか?」


「MAX師匠、それは正論ですが、Pow兄貴にはもう一つ理由があったんですよ」



 うつむき加減のPow猫谷がぽつりぽつりと語りだす……

「牛太郎は、あいつは、俺の峰子ちゃんの顔を台無しにしたんだ……締め切りとかそんなのはどうでもいい。だが、俺の峰子ちゃんをけがしたのだけは許せなかった……『マヨネーズ飲んでゲップせずに根室本線の駅名を言います!』なんてネタで……」


「まさか、兄貴が……」


「凶器は軸打ちに使う真鍮線。証拠隠滅でこの【不二峰子】の軸に入れてあるのでは?」

 ……黙ってうなずくPow兄貴。



「それからサクラ総統。あなたも共犯ですね!」


「なんだって??」


「サクラ総統がたまたまPow兄貴の部屋を訪れた時、爆笑している声が聞こえたのでしょう。その直後、牛太郎副部長の断末魔が聞こえてきた。本来ならばその時点で通報すべきですが……証拠隠蔽に手を貸してしまったようですね」


「証拠隠蔽、ですか……」


「返り血を隠すためにサクラ総統、あなたはPow兄貴を部分塗装しましたね?」


「そこまでバレちゃっているなら仕方ない。隠しましたよ、返り血。赤を綺麗に発色させる技術があれば、逆に赤を完璧に隠す事も出来ますからね。そこに最高の素材があるんだ! 塗らない訳にいかないだろ!?」



「そしてMAX師匠、あなたもその場に居合わせた……」


「師匠までっすか?」


「いくらサクラ総統が塗装の達人とは言え、やはり塗装箇所は不自然に浮いてしまう。そこでMAX師匠、あなたがコピック塗りの応用で色味の境界線をぼやけさせ、自然な仕上がりに持って行った!」


「仕方なかったんだ……目の前に未完成品があれば手を出してしまうのがモデラーのさが。それを否定出来るモデラーはいないだろう……」


 本当にその通りだ。彼等のいう事は、きっと魂に刻まれたカルマみたいなものだろう。今回の事件で本当に断罪されるべき人はいないのかもしれない。


 ――ひとりを除いて。



 結局、Pow猫谷が殺人、MAX転寝と桜丼信之は共犯という事で罪に問われ、3人とも今は府仲刑務所に服役している。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る