後日談(というサブタイトルの本当のオチ)

 あれから2ヶ月程経ったある日、哲にょ部長が事務所に現れた。服役中の3人に面会し、その時の話を持ってきてくれたのだ。


「皆さんはお元気でしたか?」


「ええ、3人とも。多少やつれた感じもありますが……」


「それにしても、痛ましい事件でしたね」


「本当に、あんなことになるなんて。いまだに信じられないっすよ……でも出所したらまた皆で動画とりますよ!」


「ええ、楽しみにしてますよ! 秘義伝承のコーナー、私もよく観てましたし!」


「ありがとうございます! きっと実現させますので!」


 また皆で並んで撮影している所を想像しているのだろう。ものすごく晴れやかな表情だ。だけど……



「あ、あと哲にょ部長」


「なんでしょう?」



「――今回の真犯人はあなたですよね?」



「な……何で俺が?」


「あの後、椰子本プラモデル部のメンバーに聞き込みをしたのですよ。チョリッス板垣さんや右井おさむさん他メンバー全員にね」


「……」


「部長、あなたは牛太郎副部長に『このネタ間違いなくウケるから!』とPow兄貴の控室に行かせ、MAX師匠やサクラ総統を呼び出して巻きこみましたね? 論見通り牛太郎副部長を亡き者にして、その罪を3人のプロモデラーに背負わせた。その為に部長権限で休憩時間を延ばし、犯行時間を意図的に作って」


「くっ……そこまで……」


「部員の『哲にょ部長と牛太郎副部長がネタで言い争っていた』『休憩時間に電話していた』という証言が無ければ、多分ここまではたどり着けなかったでしょう。一番の決め手は『マヨネーズは部長のネタ』という証言ですね」


 ――哲にょ部長は椅子に浅く座り、猫背になりながら話し始めた。


「牛ちゃんは……俺が作ったネタを盗んだんだ。いきなり生放送の場でネタを披露しやがって。大ウケだったよ。既成事実にしやがったんだ。そうなると『俺が作ったネタ』と言ったところでスポーツ紙の隅にちょこっとだけ載る程度にしかならない」


「だから犯行に及んだ……と」


「Powの兄貴が締め切り間近なのを知っていたから、俺は控室を使って休憩時間に作業するように促したんだ。材料揃えておきましたって付け加えてね」


「その材料の真鍮線をあらかじめヤスリで研いで尖らせておいたのですね?」


 多分、あらかじめ『これで人刺せそうだよね』とか冗談交じりに誘導しておいたのだろう。


「……そして牛ちゃんには『兄貴にドッキリを仕掛ける』と嘘を言って控室に突入させました」


「そしてその後は先ほど話した通り……」


「ええ、MAX師匠とサクラ総統にそれぞれ『話がある』と電話して自分の控室に来てくれるように言いました」


「部屋割りも部長の権限で?」


「俺の控室に来るとき必ずPow兄貴の控室の前を通るように部屋を割り当てました」


 ――そして事件は起こった。

 魂を込めたものを穢された怒り

 自分の技術を生かせる素材

 未完成のモノを目の前にした高揚感


 蓋をあけてみればその中身は、モデラー達の心をもてあそんだ“断罪されるべき”卑劣な犯行であった。


「しかし……それで俺を罪に問う事は出来ないはずだ!」


「ええ、そうですね。ぎりぎり殺人幇助ほうじょが成立するかどうか?ってくらいです」


「だろ? 俺は何もやっちゃいないんだ! 牛ちゃんが勝手に殺されただけだろ?」


「ま、証拠もないですし。それに私には逮捕する権限はありませんからね」


「ふ……ふふ……脅かしやがって」


「でもこのネタをマスコミに流したらどうなります? デマだろうが何だろうが食いついてきますよ。そして炎上してあなたの芸人生命も終わる」


「何が言いたい……」


「いやね……最近、昔馴染みの諭吉さんに会ってないな~と思いまして」


「悪党が……」


そう洩らすと哲にょ部長は小切手をとりだし、一枚切ってよこした。


「好きな金額を書け。ただし6桁までだ」


「毎度あり!」


「絶対に口外するなよ?」


「もちろんです。私の口は諭吉さんで塞がっていますから」


 相当イライラしているのだろう。事務所の椅子を蹴飛ばし、ドアを力いっぱい叩き閉めて出て行った。


 もちろん言いませんよ……私の口からはね。


 哲にょ部長の足音が遠ざかる……私は机の裏に隠しておいたICレコーダーを取り出し、録音内容を確認してから電話をかけた。




「あ、もしもし、週刊文瞬ですか? 買って欲しい音声ファイルがあるのですが? え? いくらで? ですか。それはもう……」



 ……諭吉さんの部分はカットしておかないとな。



 ちなみにPow猫谷は晩年、罪への意識がそうさせたのか、獄中で牛太郎フィギアを作り、毎日拝んでいたという。


                    完






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