一日目、夜

「ところで君はどういう風に寝るんだ?」

「天蓋付きベッドに羽毛布団、そしてビーズクッションを三つ用意していただき」

「どこのお姫様だ」

「その横で立って寝ます」

「使えよせめて」

 結局僕はアップルパイを食べなかった。

 アップルパイを焼くことができるニコだが、材料を買いに行くことはやはりできないらしく、僕も灼熱の道をもう一度歩いてまでアップルパイが食べたいわけでもなかったので大人しく眠ることにした。

「睡眠方法は設定が可能です。初期設定では、マスター指定の場所に横になって目を閉じる、という方法が登録されています」

「なるほどね。それより君はジョークも言えるんだな」

「私のプログラマーお手製の爆笑ジョーク100選が搭載されていますので」

「ユーモアにあふれた人なんだね」

「セリフの五回に一回はジョークを挟みます」

「溢れすぎだよ」

 ニコはロボットとはいえ女性の容姿をしているので、なんとなく僕の寝ている布団に寝かせるのは忍びない。押し入れから寝袋を引っ張り出してきてそこで眠ってもらうことにした。

「じゃあおやすみ」

「おやすみなさいマスター」

 ニコは設定通り寝袋の上に横になって目を閉じる。

 もしかすると危険なものを拾ったのではないか、という思いはあった。

 たとえばこのロボットにはカメラや盗聴器が内蔵されていて、僕の監視を行っているだとか。「おい、他人のロボットに何してんだよ」と屈強な男が殴りこんでくるロボ人局もたせだとか。そんな様々な妄想が僕の頭に浮かぶ。

 ……まあでもいいか別に。失うものなんて特にないしな。

 僕はくたびれた薄い敷布団に寝転んだ。隣で眠るニコの表情はロボットとは思えないほど穏やかだ。自分以外の寝顔を見るなんて何年ぶりだろう。

 僕は電気を消す。

 このロボットは電気を消すこともできないのだろうな、と思うと少し可笑しかった。

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