第3話 『 Secret 秘密 』

3.


 おかしいわよね、学生時代の友達なら動物園で私たちを

見かけた時に何故声を掛けてこなかったのかしら、とは

疑問に思ってたけれど。


 恋人だったのなら、普通の同級生よりはずっと仲良くしてた

間柄のはず。


 円満な別れじゃなかったのかもしれない。


 少なくとも白木さんのほうはずっと翔平さんのことを

忘れてなかったみたいだから、翔平さんから振った可能性が

高い?


 私の戸惑いを他所に白木さんは学生時代、翔平さんと付き合ってた

頃のエピソードを懐かし気にいろいろと語り始めた。


 プリクラの中の2人。

 いつ取り込んだのか? 持ってるスマホに保存されていた。

 

 楽し気でふたりは活き活きしていた。

 プリクラの中のふたりは若くてキラキラしていて・・幸せそうだ。

 そこには私の見たことのない翔平さんの表情が写っていた。


 夫はこんな表情のできる人だったのだ。


 カラオケBOXで撮られた写真もあった。

 スマホの中の夫はノリノリで歌っている様子が伺えた。


 数枚の画像から、ふたりの距離が透けて見える。

 知らない夫の姿や話が聞けてうれしい反面、なんだかモヤモヤした。



  「ふたりで過ごした時間は、本当に楽しかった・・ホントニ」


 白木さんは当時を懐かしむように切なげに語った。

 この先、彼女からどんな話を聞かされるのだろう、少し

私はドキドキして待つ。


 「今の彼はどんな感じですか? 」


 予想外の質問に私は少したじろぐ。

 とりま、質問にしつもんで返した。


 「夫の今ですか!

 そうですねぇ、やさしくて頼もしいところもあって・・

娘にもやさしくて良い父親だと思います」


 すかさず、彼女が呟いた。


 「いいなぁ~!

 私ね、ほんとにあの時のこと後悔してるんです」


 あの時?

 別れた原因がつまびらかにされるのか? ・・されちゃうのか?

 聞きたいような聞きたくないような感情が腹の底から

せり上がってきた。


 「それは・・ドウイウ ? 」



 「哀川くんと付き合ってて、何も不満なんてなかったのに・・

ううん、不満どころか大好きだったのに。

 あの日に、一度、いちどだけだったの元彼に会ったのは。


 あれはクリスマスイヴの日のことで、昼はふたりで買い物に行って

ケーキを買い、その夜、クリスマスイヴを彼と過ごしたの。


 哀川くんとは25日にクリスマスを一緒に楽しむことに

してたのね。


 イヴの日のことを哀川くんに内緒にしてたのは私が悪かったんだけど

まさかね・・クリスマスの日に会う約束してた哀川くんが前日のイヴに

家を訪ねて来るなんて、夢にも思ってなくて。


 元彼には私が一方的に振られたって経緯があったから、最後に

ちゃんとした話合いがしたかったのね。


 たまたまイヴの数日前に街でバッタリ会ったから、まぁそういう

方向で会うことになったんだけども。


 でもけじめをつけたら、その後は哀川くんの元に返るつもり

だったのに。


 


 

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