第4話 『 Secret 秘密 』

4.


 なんで哀川くん、イヴの日に会いに来ちゃったんだろう

って。


 情けないことにずーっと私、そんな風な想いに囚われて

いて抜け出せないんですよね。


 哀川くん、ドアの前までは来てたみたいなですけど、イ

ンターホーンも鳴らさず、メッセージだけを残して帰って

しまったんです。

 短いメッセージでした」


 「どんな? 」



 「僕は咲子の一番にはなれなかったんだな」って。


 それはそれはきれいなピンクのシクラメンがドアの側に

置いてあって、メッセージはドアのポストから投函されて

たの。


 -気が付いたのは翌日で私、訳が分からなくて、連絡して

も哀川くん出ないし、約束した次の日、彼をひたすら深夜まで

待ってました。-


 待てど暮らせど来てくれないし、連絡しても出てくれな

くて、ようやく大変なことになってるんだと認識しました。


 後でいろいろ考えて出した結論なんですけど、哀川くん

は私が元カレと一緒にいるところか、元カレを自宅に招き

入たところ? 偶然どこかで見て知ってしまったんだと思う

んです。


 ・・じゃないと、辻褄が合わないっていうか」


 「夫は白木さんがその元カレと付き合ってたことは知っ

てたんでしょうか? 」



 「もちろん。

 元カレに振られた時にすごく相談に乗ってくれたのが

哀川くんだったの。

 親切にしてもらううちに、哀川くんのことがすごく気に

なるようになって、私から交際を申し込みました」


 へぇ~、ほへぇ~、なんかドラマみたいな出会いってホ

ントにあるんだって、感心しちゃったのは、白木さんには

内緒の話。

・・って思ってたのに、私ったらぁ。


 「そんなドラマみたいなことってホントにあるんです

ね」

 って思わず口に出してた。


 誰とも付き合ったことが無く、見合い結婚した私からす

ると別世界の話でため息が出た、いやっ、実際には出ない

けれども気持、きもちね、そんな感じ。


 心の底から残念そうに昔のことを語る彼女の話を聞い

て私は思った。


 そっか、約束通りにイヴの日、夫が白木さんの家を訪ね

てなかったら?

 あれね、元カレとのことを知らずにいて

翔平さんが約束通り25日に彼女を訪ねて楽しい時間を過ごして

いたなら、今頃彼女が翔平さんと結婚していたかもしれないって

ことよね。


 じゃあ、私はどうなっちゃってたんだろう。

 ある意味白木さんは私に幸運を譲ってくれた人ってこと

になるのかしら。


 幸運を譲ってくれた?

 翔平さんを譲ってもらったんだ、わたし。



――――――――――――――――――――――――――――――――



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る