56. これは借りだよね

56. これは借りだよね




 そのまま私とキルマリアははぐれてしまった、アリシアさんたちと合流するために未開のダンジョンを進む。


 しかし私には迷いがあった。それは私のスキルがまったく役に立たないこと。ただでさえ『スカウト』のジョブの私は戦闘向きじゃない。それなのに……。そんなことを考えているとキルマリアが突然前方から飛んできた弓を短剣で弾き落とす。きっと罠だろう。


「おお!もしかして罠とか踏んじゃったかも?それより……見えてるんだよね!あたしにはお見通しだよ!」


 そう言いながらキルマリアは通路の角から飛び出してきた魔物たちを斬り伏せる。その動きは軽やかで素早く、とても戦い慣れていることを感じさせるものだった。やはりキルマリアの能力はすごい。キルマリアはきちんと自分の役割をこなしているのに。私は……


「楽勝!やっぱりあたし最強!」


「……。」


「あれ?どしたのエステル姉さん?いつもなら『うるさい』とか『私の指示を無視しないで』とか言うじゃん?なんか変なものでも食べた?」


 私は黙って首を横に振る。キルマリアも私の様子がおかしいことに気が付いたのか不思議そうな顔をしている。


「どした?エステル姉さん。何か調子狂うんだけど……」


「……キルマリア。私、今何も出来ないの。索敵も罠解除も……この未開のダンジョンの魔力が強すぎて。だからごめんなさい。」


 私が謝罪すると、キルマリアは一瞬驚いた表情をするが、すぐに笑顔に戻り話し出す。


「あー。なるほどね!それでさっきから元気なかったわけだ!うんうん!わかるよ!だってここヤバいもんね!なんつーかこう……肌にビリビリッときちゃう感じ?」


 そしてそのまま私の肩に手を置いて話を続ける。


「大丈夫だって!エステル姉さん。この最強アサシンのキルマリアちゃんに任せなさい!」


「キルマリア……」


「ほら!あたしに続け~!」


 そう言ってキルマリアは私を引き連れたまま先へ進んで行く。


「ちょっと待って!キルマリア!一人で先行しないで!」


「えぇ?何言ってんの?エステル姉さん?どうせスキル使えないなら一緒じゃん!それにエステル姉さんの悩みってあたしからしたら贅沢だと思うけどな?」


「えっ?」


 キルマリアの言葉を聞いて思わず足を止める。私の悩みが贅沢?どういう意味だろう?そう思いながら、振り向いたキルマリアを見ると満面の笑みうかべていた。そしてキルマリアはそのまま言葉を続けた。


「だってさ?エステル姉さんは完璧人間じゃないじゃん?でも1人で何でもやろうとする。確かにそれがリーダーとしての責任感かもしれない。でも、エステル姉さんはあたしやルシル、ミルフィ姉さん。そして今回はいないけどリーゼを含めたパーティーのリーダーでしょ?」


「それは……」


「あのね?エステル姉さん。皆それぞれ長所はあるし欠点もある。それを補ったり助け合ったりしてこその仲間だし、仲間ってそういうものじゃない?今回はエステル姉さんを助ける番。ただそれだけっしょ!」


 そう言ってキルマリアは再び歩き出した。彼女の背中を見ながら考える。私は今まで自分の役割だけを考えて行動してきた。それは決して間違いではないと思う。


 でも……仲間のことももっと信頼するべきだったんだ。私はそれが出来ていなかったのかもしれない。ありがとうキルマリア。……なんか恥ずかしくて悔しいから私はいつも通りにキルマリアに言う。


「うるさいわね。私に説教する前に普段の自分の行動をなんとかしなさい。それと前を見ないと危ないわよ。」


「やっぱエステル姉さんはそうじゃなくっちゃ!まぁ安心しなって!こんな時のためにあたしがいるんだから!これは借りだよねエステル姉さん?」


「なら私のほうが沢山貸してるけど?あとで利子をつけて返してもらいましょうかね?」


「えっ……そんなぁ!ぴえん!」


 私たちは互いに笑い合うと再びアリシアさんたちとの合流を目指して進み始めたのだった。

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【王都最強のクラン誕生!】~戦えないやつはいらん。と追放された『スカウト』は【スカウト】されたので、個性派メンバーと共に超絶サポートします~ 夕姫 @yu-ki0707

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