眠れない夜の散歩

瑞葉

眠れない夜の散歩

 心臓が暴れるような気持ちになって眠れない夜。

 僕はそっと一階の寝室、和室を抜け出した。

 靴をひっそりと履き、玄関のドアの鍵を開ける。

 音がしないようにドアを開け閉めして、しんと冷えた外に出た。

 時刻は夜中の三時ごろか。

 通りを渡ったコンビニにでも行くつもりだ。何か買うという当てはないけれど。

 財布の中には二千円しかない。


 僕は親からお小遣いをもらっている。

 二十三歳にもなって情けないと思う。


 信号機の赤色が、絵の具のように、雨に濡れた道路に映っている。見惚れていると青色に変わり、光の絵の具も青色に変わった。

 空気がしんしんと冷えて、六月なのに雪でも降りそうだな。


 コンビニに入ると、白髪頭のおじさんがぼんやり遠くを見ながらレジ番をしていた。


 そこまで買いたいわけでもなかったが、高校の頃読んでいた漫画雑誌を買ってレジに行った。

 おじさんは無言でレジを打ってくれた。

 雑誌の表紙の漫画は、僕の知らないものだった。


 世の中に置いてきぼりにされたような夜。


 外に出て身を震わせていた。すると、街灯の下、ちらりと雪が舞ったように思えた。

 空を見上げてみる。

 気のせいかな?


 早くうちに帰ろう。

 世の中から置いてきぼりにされたっていいじゃないか。帰る家がまだある。

 部屋に積まれたバイト求人誌を、帰ったらまず見てみるつもりだ。漫画雑誌はその後だ。


 

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眠れない夜の散歩 瑞葉 @mizuha1208mizu_iro

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