第6話 潜入

 紫の妖雲は更に厚みを増し、辺りは薄闇に包まれている。漂う不気味な気配を振り切るように決意を固めた雁斗は、まず何ができるかに求める。


「で、どうしたらいい!?」


 は雁斗に答えるわけでもなく、腹部にあるパネルを操作している。


「テレパシーモード…オン。目標:闇人間の正常化、残された人々の救出、闇の波動生成装置の破壊。」


 どこから聞こえるのか、方向性のないの音声を感じた弓香が反応した。


「えっ? 声が頭に響いてくる…。」


 雁斗と照司にも同様であった。


「おお、弓香さんの声も!」


「これで離れていても通信ができるだギ。人々を救出しつつ、建物内のどこかにある闇の波動の装置をその光で破壊してくれだギ。」


 これはいい。とばかりに雁斗は意気を上げる。


「ようし! 行こう!」



 正門を抜け敷地内へ潜入すると正面の建物に続く通りを中心に左右へ芝生が広がり、ベンチや花壇が設けられている。

 その空間には何体か例の闇人間がうろつき、建物の門扉の両脇には門番のように一回り大きい体躯の化け物が仁王立ちしている。


「なるべく気付かれないように行動するだギ。あいつらの爪で引き裂かれると闇人間に変えられてしまうだギ。光の波動をまとったオマエ達は闇人間になることはないが、ダメージは受けるだギよ。」


「気を付けて動きましょう。静かに行動するのよ。」


「なら気付かれる前に一気に仕掛けないか?」


「そうだね。よし、照司くんはその狙撃の腕で一番遠い門番を狙ってくれ。俺は広場の左側を。ねえさんは右側に展開して十分距離を縮めて仕留めよう。」


「任せろ!」


 照司が意気込む。弓香も続く。


「いいわ。」


「せーので行くぞ!」


 合図と共に雁斗と弓香は左右へ走り出す。照司は門扉右側の門番に狙いを定め引き金を絞ると見事に命中させる。

 雁斗は走りながら十分に距離を縮めた手前の闇人間に照射すると続けざまに次の獲物を捕らえる。

 弓香も同じように距離を縮めた相手を目掛けて弦を引き絞る。2体、3体と続けざまに命中させていく。

 光と共に人間の姿に戻った人々は散り散りに施設の外へと逃げて行った。

 二人が広場の全ての闇人間を解放すると、二体目の門番も還元した照司が駆け寄ってくる。

 三人は施設の入り口で合流した。


「うまくいったね!」


「チョロいもんよ!」


「まだ油断できないわ。この中にはもっとたくさんの闇人間がいるはずよ。」


「もう時間がないだギ。闇の波動の力がどんどん高まっているだギ。あれが放出されればこの一帯は闇に覆いつくされ、全ての人間が闇人間と化すだギ…。」


「急ごう!」


 施設入口の扉を開けようとするが鍵がかかっている。


「開かないや…。」


雁斗は閃く。


「こういう時はあれでしょ!よく映画で見た。」


 そう言って扉の取っ手目掛けて銃を放つ。

 閃光が走るが何の衝撃もない。光は扉に吸い込まれるように消えた。


「光のエネルギーは闇の波動にしか影響を与えないだギ。モノは破壊できないのだギ。時間が…もうないだギ!」


「早くしないと!手分けして別の出入り口を見つけましょう!」


雁斗はいち早く提案する。


「そうしよう!話はできるのだから、みんな別行動で!」


照司が応える。


「よし!なら俺は建物の左側を確認する!」


弓香も続く。


「私は右側を探索するから雁斗はそこの階段をお願い!」


「じゃみんな気を付けて!何か見つけたら報告し合おう!」


 それぞれ目標を定め展開する三人。

 照司が建物の左側面に回ると10メートル程先に扉を視認するが、その周囲に二体の闇人間が彷徨っている。狙いを付けてその二体を続けざまに撃ち抜く。


「二体還元!扉がある!開いてる…、入るぞ!」


弓香も報告する。


「こちら側にも扉が見えるわ。向かってる。」


 照司が扉を開くと真っすぐに廊下が通じている。

 その廊下の半ばをうろつく闇人間がこちらに気付くやたちまち照司に走り寄る。


「うわあああ!」


 照司は慌てて引き金を引くが、光線は闇人間をかすめて後方へ消える。

 迫り寄る闇人間。

 ボルトを引き直し、大きく息を吸って今度は正確に的を貫いた。


「あっぶねっ!」


「大丈夫かい!?照司くん!」


雁斗の声が響く。


「ああ、問題ない。廊下にいた闇人間を排除した。あ、部屋の中に人がいる!」


 闇人間が立っていた側の部屋には数名の人間がいた。照司が還元し人間の姿へ戻った男がその人々を外へ連れ出した後、照司へと話しかける。


「君が助けてくれたのか?ありがとう。みんなは見つからないようにこの部屋に隠れていたんだ。私は隠れる前に襲われたようだが…、助かった。隠れている仲間はこの先にもいる。奴らもだ。この施設を占拠して闇の波動の装置を起動した。おそらく2階の所長室にあるだろう。君のその装備なら闇の装置を破壊できるかもしれん。」


「向こうですね。行ってみます。」


「本当にありがとう。君のような若者に託してすまないが、頼む、みんなを助けてくれ。」


「任せてください!チョロいもんですって!」





 一方、弓香が開いた扉は倉庫への入り口だった。

 広い空間に整然と並んだ背の高い棚にはビニールに包まれた機械の装置や段ボール箱などが保管されている。

 足音を殺し、棚の間の通路を確認すると、四本の通路それぞれに1体ずつ闇人間が徘徊していた。

 棚の陰に背を預け一つ深呼吸をし、もう一度息を吸い込み大きく目を見開くと同時に素早いすり足で通路へ繰り出した。

 美しく張った背筋に大きく両手を水平に引き分けた優美な構えは、闇人間がその立ち姿に気付いた時には完成していた。


「会。」


 優雅な構えから繰り出された一閃が闇人間の体を射抜く。

 射抜かれた闇人間が人間の姿へ変化する過程も終わらぬ内に次の動作へ移行する。

 隣の棚へ移動し、同じように深呼吸をし、素早いすり足と共に次の獲物を射抜く。


 華麗な所作が四度繰り返され、その全てが同じ結果となる。


 大きく息を吐きだすと弓香はつぶやいた。


「階中。」






 建物右手の階段から2階へ上がった雁斗はバルコニーに蔓延る闇人間を何体か還元しつつ警戒しながら更に奥へと歩を進めた。


「みんな、様子はどう?」


 照司が報告する。


「1階で隠れていた人たちを救出した。闇の装置は2階の所長室にあるらしい。そこへ向かってみる。」


「わたしも1階にいる。倉庫から入って研究室に隠れていた数人を外に逃がせたわ。」


皆、順調に事を進めている。目的とする場所も判明した。


「よし、みんな!所長室を目指してそこで集合しよう。」


提案した雁斗に照司は応える。


「了解! ん? 闇人間が見えた!対処する!」





 第6話 了


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