第5話 使命

 抜け道の林へ向かう道中、三人は雁斗の身に起こった出来事について話していた。


「あんた相当ショックだったのね。そんな幻覚を見るなんて。」


「幻覚かもしれないけどホントにリアルだったんだって!」


「その変なロボットだって、そこに行ったら何もなかった、ってオチだろな。」


「私もちょっと興味持っちゃった。そのロボット見てみたい。」


 があったはずの場所に雁斗が近づく。


「こっち。こっちだ。」


 雁斗の体験を疑いつつも追及の念と好奇心と共に三人は林の中へ足を踏み入れる。


 そこには確かにあった。


「あった!!」


 照司と弓香もを確認した。


「なんだこれ! 変なロボットだなぁ!」


「なんか気色悪いわね。まぁ可愛くもあるけど…。」


 しかしは全く動かない。

 雁斗はを手に取りポンポンと軽く叩いてみる。


「動かないなぁ。」


「やっぱり幻覚か。そのへんちくりんな外見で惑わされたのかねぇ。」


 雁斗はが話した言葉を思い出す。


「そう言えば最後にパワー不足とか充電がどうとか言ってたな…。」


「バッテリーならあるぜ!俺のガン用だ。でもこんなロボットにコネクタが合うはずも…、ってこいつもXT60コネクタかいっ!!なんて都合の良いロボットだ…。」


 そう言って照司はバッグから充電済みのバッテリーを取り出し、に繋げる。

 XTコネクタとはラジコンや電動ガンなどで一般的に使用される、コンパクトバッテリーとモーター側を繋ぐオスメスタイプのコネクタである。30、60、90など大きさの違いがあるのだが、照司の持っていたバッテリーはと同じタイプのものであった。


「後は電圧が足りてれば…」


 言い終える前に三人の体に衝撃が走る。

 来た!雁斗はもう慣れたように身構えるが他の二人はどうしているだろうと考える時間も束の間に視界が戻る。


 何が起きたのか理解できない弓香と照司。


「なに今の!? 何が起きたの!?」


「なんだこれは!?」


 見たか、自分の体験は現実だったんだと雁斗は二人にドヤ顔で言いやる。


「ほら、これだよ!さっきと一緒だ!ね、幻覚じゃなかったでしょ!」


「ギ・・・ギ・・・」


 が立ち上がり動き始めた。


 照司が驚く。


「わ!動いた!」


 弓香は起きている状況を理解しようと固唾を飲んで後方から様子を伺っている。


「ギ・・ギギ・・・充電完了・・ギ。」


「しゃべった!つか充電はやっ!」


 と、更に驚く照司。弓香は感心している。


「なかなか高性能なロボットじゃない。」


 聞きたかった質問を雁斗がぶつける。


「ねぇ、さっきのは何だったの!?あの人は?」


「人間を元に戻せたギ。大成功だギ。」


「なんであの人あんな格好をしてたの?」


「あの人間は呪われたんだギ。黒の闇にだギ。」


「黒の闇?」


「時間がない。みんなを守ってくれだギ。その武器は希望となるだギ。」


 全く理解ができない照司はたまらずに問い詰める。


「なんだ?呪いからみんなを守ってくれ?みんなって誰だよ!」


「お、オマエもいいもの持ってるじゃないか。貸すだギ。」


 そう言って照司のライフルを取り上げると雁斗の銃にしたのと同じように細工をする。


「おい!何すんだよ!」


「照司くん、いいから見てて。」


「ほい、そっちのオマエも貸してみるだギ。」


「え!?あたし?の弓矢…?」


 弓香の弓矢にも同じように施す。


「ほれ、できただギ。」


 照司と弓香がそれぞれの得物を手にすると、途端にまばゆい光で包まれる。


 照司のスナイパーライフル・マクミリーは更なるバレル長と高倍率変倍スコープを備え、緻密に施された青のカラーリングが近未来を想像させるスタイリッシュなライフルへと変貌した。


 弓香のカーボン弓・漣が変化したものは弓というよりもアーチェリーに形状が近い。持ち手から上下にやや前方へ繊細な機械的構造が張り出し、そこから天使の羽をあしらった薄い桃色のリムが美しく後方へ弧を描く。その先端は蜘蛛の糸のように細くも強靭なストリングで結ばれている。


 雁斗も持っているライフルの箱を開けてみると、光を放ち化け物を人間へと変えたあの光線銃の姿になっていた。


 たまらず照司は言う。


「うほー!かっこいい! この倍率スコープ、どこまでも見えるぞ!!」


 弓香も続く。


「うわ、軽い…。なんてやわらかい弦なの。これで矢を飛ばせる…?」


「その弾と矢というものは必要ないだギ。放とうと意識して放てば放たれるだギ。」


 二人は狙いを空に向けて言われた通り意識しながら引き金と弦を絞る。

 同時に二本の閃光が尾を引くように空へ向け垂直に伸びる。紫色に淀んだ空を貫く光の柱は残像だけを残してすぐに消えた。


「おお!すごい!」


「きれい…。」


「時間がないだギ。こっちへ来るだギ。」


 そう言っては林の逆側へ走り出す。


「ちょっと!待ってよ!」


 三人も「それ」の後を追った。




 林の先には開けた風景が広がる。俯瞰するとわかるのだが、山に囲まれた広い敷地の奥に低層で広大な面積を持つコンクリート建築物が建ち、その周りにもいくつかの小屋やコンテナが配置されている。正門の先には中庭が広がり、建物までのアプローチロードが敷かれている。


 何かの施設だろうか。一行はその敷地へと向かっている。


 見覚えのない風景に照司が訝る。


「こんな場所あったか?」


「見たことないわね。」


 敷地へ近付くと大きな門が迎えるが、その入口は開いている。


「ここはハカセの研究所の一つだギ。黒の闇がここを乗っ取っただギ。」


 苛立ちながら雁斗は言う。


「だから何なんだよ、その黒の闇って!」


 そう言うや否や門の辺りから唸り声が聞こえた。あの化け物だ。こちらに気付き猛然と襲ってくる。


「撃つだギ!」


「えー!なんだアレ!」


「キャァ!」


 驚く照司と弓香へ説明するのは後回しとばかり、雁斗は素早く狙いを定め引き金を絞った。

 光線が化け物を貫く。凍り付くように動きが止まった化け物は光に包まれた後に女性の姿となった。


「私は…、いったい…、そう!逃げなきゃ!」


 たちまち一目散に敷地から離れるように駆け出した。

 雁斗が体験した話の内容を思い出し、多少とも理解が得られた照司と弓香が言う。


「これがさっき言ってた化け物ってやつか?」


「人間が変えられてしまっていたのね…。」


「この施設の中で、見つかった研究員たちが闇人間に変えられてしまっているだギ。闇人間はその光で元の姿へ還元してくれだギ。まだ無事な人がいたら逃がしてあげて欲しいだギ。」


 何やら危険な匂いがプンプン漂う状況に、雁斗は思わず後悔の念を口にする。


「こんなことに巻き込まれるなんて…。」


「へっ、面白そうじゃないか。助けてくれって言ってるんだし。」


「あんな姿に人が変えられてるなんて…、かわいそう。助けられるなら助けてあげたい…。」


 雁斗の頭によぎった後悔の念は照司と弓香の言葉により一瞬で駆逐された。


「俺も…、俺も誰かを守りたい。しかも、大好きなこの銃で誰かを守れるなら…、やらないなんて考えられない!!」



 一同は身に起こった不思議な現象に戸惑いつつも、好奇心と正義感に自然と心突き動かされるのであった。

 日常とかけ離れた想像もできない状況の真っ只中、使命感に心震わせる三人を見ては呟いていた。


「やはりハカセ…、見る目あるだギ。」





 第5話 了


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