第13話

 一心は頭を抱えた。犯人だと思われた憲重が、レイプ未遂。14年前の事件はどうも引っ掛かる。憲重の周りにまだ浮かんでいない影の人物がいるのかもしれない。

もう一度、関連者のリストを見直した。

少なくとも全員に事情は聞いている。

「大曲時世さん子供産みはったんじゃ?」

静に言われてはっとした。

「おう、そうだ、子供がいた。洗ってない。歳のころは、20歳、女の子だけど洗う必要あるな、遠辺野兼信のとこ行ってくるわ」

完全に頭になかった。静に言われなかったら気が付かなかった。やばいやばい。

 夕方、あの店に行ってみる。店に入ってすぐ兼信が出てくれた。

「あのさ、なくなった時世さんが産んだ子供どうなったか知ってる?」

「いえ、あの時は親が育てるって言ってました。その後会わせてもくれないから、行かなくなって、あとは知らないです。」

「親何処に住んでるか分かるか?」

「確か、名古屋の鶴舞3丁目です。電話は・・」

手帳を出して見せてくれた。一心はそれを書き写して、礼を言って事務所に戻る。

そして、両親に電話を入れる。暫く呼び出し音の後、女性が出た。

「あの、東京で探偵をしている岡引と言います。大曲時世さんのお母さんですか?」

「はっ、あんた何番にかけたの?」

返事をし、番号を伝える。合っているが、自分は山岸だという。5年前に中古でこの家を買ってそれからずっと住んでいるという。

丁寧にお詫びをして、切る。

嘘つかれたか?しかし、何のメリットもない。川の事故の調書を引っ張り出して、親の名前を探す。子供を引き取ると記載されて、住所は兼信から聞いたものと一緒だった。

引っ越したか?それとも死んじまったか?まさか、まだ、60代だろう。

 同じ大学だった、蒼井蓮に電話してみた。

「東京の岡引と言います。探偵をしてまして、実は20年前川の事故で亡くなった、大曲さんのご両親に連絡を取りたいのですが、遠辺野兼信さんに聞いた電話は別の名義になってまして、・・」そう言うと

「ちょっと待って、今調べるから」カチャカチャと音が聞こえる。パソコンにでも登録してるのかと思いつつ待つ。

「あ〜、あった。良いかい言うよ・・・」

違う住所に違う番号だった。礼を言って切る。そして、その番号にかける。

現在は、使われていないと機械が答える。

くっそーと思うが、諦めている場合じゃない。そこへ美紗が顔を出した。

「大曲竜人と留美子夫妻は14年前に死んでる。記事を検索したら出てきた」

「事故か?」

「そ、名古屋で事故らしい」

「で、子供はどうした?」

「書いてない」

こうなったら警察しかない。丘頭警部に電話を入れ、14年前の名古屋の事故で亡くなった大曲竜人と留美子夫妻が育てていた子供の行方を聞いた。ぶつくさ言いながらも、時間をくれと、受けてくれた。感謝感謝だ。


 2日後警部から電話が入った。警部は笑いながら「高くつくわよー、横浜の桂林仁志さんが引き取ったわね。電話は・・・」

一心は、一助の親戚か?と思いつつも電話を入れる。本人が出た。子供の事を聞くと、2年ほど面倒を見たが、見切れず親戚に預けたという。その名前と電話を聞く。

そしてまた電話をかける。もう夜の9時になる。そこも本人は亡くなっていて妻がでた。

お悔やみを言った後、事情を話して子供の行くへを聞く。

主人が亡くなって育てられなくなって、施設に預けたと言われた。その名前を聞く。

目黒の施設だった。お礼を言って切る。

へとへとだった。行くのは明日にして、今日は早いが寝ることにした。


 一心が起きたのは10時。10時間以上寝たことになる。朝食もそこそこに、目黒へ出る。探して、道路を行ったり来たりし、人に場所を聞いて、やっと見つけた。もうすぐ昼だ。門を入りインターホンを鳴らす。探偵と名乗り、事情を話す。

ややあって、玄関が開いた。応接に通され、待っていると、施設長と名乗る人物が現れた。

「大曲時世さんのお子さんを探していて、青柳智美さんからこちらにお世話になっていると聞いてきたのですが」

「はい、確かに居ました」

「えっ、居ました?ですか?」

「はい、養子に出ました」

「え〜、何というお宅でしょうか?」

「それは、ちょっと言えません。色々事情があるので、知られたくないという事情をお持ちの方も多いもんですから。申し訳ないです」

「あの〜警察が来てもダメですか?殺人事件の捜査で?」

「いや、それはちょっと違いますね。それであれば、他言無用ということでお話しすることになると思いますよ」

「そうですか、わかりました。面倒をかけました」

「いえ、お力になれず申し訳ありません」

本当によ。と内心思いながら。やっぱり丘頭警部の力が必要だと思い、まっすぐ浅草警察に向かう。こんなに疲れる人探しは初めてだと疲労感を覚える。

警部は不在で、受付に戻ったら岡引に至急電話するように伝えてもらう。

後は寝て待てだ。午後2時を回っている。腹も減った。

 十和ちゃんのとこでラーメンを食べる。十和ちゃんは元気そうだ。

事務所で昼寝をしていると、警部から電話が入る。事情を話して、一緒に施設へ行ってもらうことにした。明日の話になった。

今日は一日何にも進まなかった。滅入って日本酒をコップ二つ飲んで寝た。


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