第13話の2

 起きたら、まだ7時だ。考えたら寝たのは多分9時だった。

約束の10時前に警部が姿を見せる。挨拶をして外へ出る。天気がよくてスッキリする。

「2日間無駄足踏んで、残ったのは疲労だけ。今日は何かを掴みたい」

「一心、その子何か今回の事件に関係あるのかしら?」

「いや、分からん。ただ、一番の容疑者だと思った憲重が、どうやら犯人じゃないみたいなんだろ?」

「そうね、じゃないと思うわ」

「後、誰か被疑者いるのか?」

「言えないけど、詰まってる」

「やっぱりな。何かあるのか?」

「ない」

「ははは、じゃ、俺とおんなじだ・・」

「そういえば、今日は覆面なんだな」

「まさか、施設に赤色点けていけないでしょう」

「そりゃそうだ」

門を潜り玄関のインターホンを鳴らす。少し間があって、応答がある。警部が警察と名乗る。

玄関が開いて、応接に案内される。

昨日と同じように施設長が顔をだす。俺を見て、来たかと言った困り顔を見せる。

「昨日のお話しをお願いします。美術館で展示された方の殺害事件の捜査できました」

警部がいうと施設長は名簿を広げて見せてくれる。

大曲彩香という名前だった。

「で、今何処に?」

「養子に出ました。」施設長の言葉を聞いて、またかとガクッとくる。

「先のお名前分かりますか?」

「はい、ですがくれぐれもご内密に、特に、そちらの探偵さん!」ぎろりと俺を睨む。

「大丈夫ですよ。俺何回となく警察に協力して、事件解決してんだから、心配いらない」

「岡引探偵事務所は、浅草警察でも一目置く有名な探偵です。施設長の立場はわかっています。ご心配は無用です」警部が言ってくれて、施設長の表情が和らぐ。

「この方です。と名前を指し示している」

「えっ!これ本当ですか?」

「あら、一心知ってるの?」

「あ〜、これ、一助の恋人!三条路彩香」

「あら、良かったわね。直ぐ会えるじゃない」

「いや、そんな問題じゃない。一助は、養子で岡引一助だけど、実の親は、桂林徹、妻はみさきなんだ」

「あら〜、偶然て恐ろしい・・」

「だから、一助は親を殺害した犯人の、兄の娘と付き合ってるんだぞ!どうするんだ?俺あいつに言えない・・折角、好き合ってるのに。可哀想」

「何言ってんの!大丈夫よ、愛が勝ってね。あ、それじゃどうもありがとうございました」

俺は名前を聞いた後の記憶がない。どうしたら良いんだろう。そればかり考えていた。

「あ〜、調べなきゃ良かったあ」半泣きの俺。本当にどうしたら良いんだ。


 事務所に戻った一心は静を外に連れ出す。

久しぶりに二人でカフェに入る。神妙な一心に静も何かを感じているようだ。

「何?お話」静が切り出した。

「一助が20年前の川の事件の後、殺害された桂林徹とみさきの子供だって知ってるよな?」

「え〜知っとります。で?」

「彼女の三条路彩香って良い子だよなあ」

「へ〜、そない思いますけど」

「彼女は養女だったんだ。たぐっていったら、大曲時世と遠辺野兼信の娘だったんだ」

静の眉がピクリと動く。

「あんさん、一助の彼女だからて、調べおしたのどすか?」

「違う、逆だ」

「逆って?」

「お前に言われてから、大曲時世の娘がどうなったかを追ったんだ。もしかして、今回の事件に関わりあるかもと思って、そしたら辿り着いてしまった。調べなきゃ良かった。どうしたら良いんだ。教えてくれ!俺は一助に言えないぞ」

「あんはん、腹おくくりやしたらよろし!」

「どうやって?」

「一助はあんさんのお子でっしゃろ。しゃきっとしなはれ。親の責任はたさいでどないしはりますのん」

きつい言葉と裏腹に、静の目からは涙がこぼれている。辛いのは一緒だった。

「帰って言おう、二人呼んで。なっ!」

「へい」


 1時間後事務所に二人が並んで座っている。俺は意を決して口を開く。

「実は、今回の事件でただ一人調べてない人に気付いて、調べたんだ。大曲時世さんが、自分の命と引き替えに産んだ女の子だ。時間はかかったけど、分かったんだ。・・・

二人ともしっかり聞いてくれ。それが、彩香ちゃんだった。」

「え〜」大きな悲鳴をあげる一助。

「彩香ちゃんは知ってた実の親のこと?」

「はい、施設にいた時に聞かされましたから。でも、それがどうして事件と?」

「いや、事件とは関係なかった。だって彩香ちゃんが事件に関係あるわけないでしょう。調べた結果がそうだった、というだけなんだが・・」

「彩香、俺も養子で今は岡引一助なんだが、同じく施設にいたんだ。そこまでは話したことあると思うけど。俺の実の親の名前は、桂林徹とみさきなんだ。」

彩香ちゃんの顔がみるみる青ざめてゆく、

「え〜そんなあ、そんな事って。・・」

4人とも言葉を失った。どの位時間がたったのか・・・


「だけど、二人には直接関係無いし、なっ、そうだろ。一助!変わらないだろ・・」

一助は返事をしない。できないのか、俯いて涙を見せている。

「さようなら」いきなりそう言って彩香ちゃんが席を立って、階段を駆け降りる。

呆然とする一助。

「ちっと、時間置いたらよろし。一助も気い落ち着けてゆっくり考えよし。何が大事でどうしたいか、な」

頷いて部屋に戻ってゆく。

「こんなんで良いのか?彩香ちゃん行っちゃったぞ」

「大丈夫や!このくらいのこと、乗り越えられへんで一生付き合ってなんか、いかれしまへん!大丈夫や」

奥の部屋で啜り泣く美紗の声が微かに聞こえた。

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