第12話

 一助は登美子の遺体が発見され、遠辺野憲重が犯人だと確信して、尾行を続けていた。一心から4遺体とも凍傷とか冷凍焼けがあり、過冷却水による殺人事件だと知らされた。

 同じ方法で、自分の両親と4人の女性を殺害した、許せない、と怒りが腹から込み上げてくる。俺は絶対に許さない。

 真夜中の0時を過ぎてまだ、男二人と連んで黒のワンボックスを走らせている。品川をぐるぐる回っている。一助はバイクなので渋滞時は外側線の歩道側を走ればそう離されることはない。一定の距離を確保していた。

 憲重に仕掛けた盗聴器から、攫う女を探しているような話が聞こえた。

少し人通りが疎になってきた所で、一人の女性が歩いている。やる気だ、と思い、一心に無線を入れる。

 伝えている時に、二人が走っている車から飛び降りて、背後から口を塞ぎ、もう一人がお姫様抱っこの様に女性を掬い上げ、車に乗せる。そして車は急加速してその場を離れる。

「一心!攫った。女一人さらった!横浜方面へ向かった。俺のGPS追ってくれっ!」

そう言って一助も急加速してワンボックスを追いかける。


 20分走って浜の倉庫街に入る。一助はライトを消して尾ける。ぐるぐる回って、シャッターの少し開いている倉庫の前に停まって、一人がシャッターを車が通れる高さに持ち上げて、通過を待つ。そしてシャッターを下げようとしたところへ、一助はライトを上向きにして突っ込んだ。

 入口の所で驚いた表情の男に蹴りを入れて、倉庫の中に入る。丁度、嫌がる女を無理やり引き摺り出していることろだった。一助は女と男の間にバイクごと突っ込んだ。両側へ転がる女と男。女は悲鳴を上げながら逃げようと走る、が、目の前に一助に転がされた男が立っている。睨み合っている。じりじり男が女に近づく。

 一助は、バイクをターンさせ男を一人弾き飛ばして、憲重に飛びつく転がって殴り合いが始まる。二人が立ち上がって向き合うと、憲重が腰から拳銃を抜き出す。一助は構わず飛び込んで足を払う。転がった拍子に銃が転がる。一助はそれに飛びついて、さっと立ち上がる。もう一人が背後から迫るのを、足元に1発撃つ。腰を抜かす男。

 一助は、憲重に近づく。憲重は後退りして壁際まで追い詰められる。

「何だよ〜てめえ、何で邪魔しやがる!」

「うっせー、女4人も殺したくせに、それに14年前、俺の両親を殺した!」

「はあ?・・あの夫婦お前の親だったのか?

だけど、俺は捕まって、刑期終えたんだ。もう、関係ねえー」

「だから?、俺がお前を殺す!仇だ!」

「ば、ばかやろうっ!何が仇討ちだ、江戸時代でもねーのに」

「死ね!お前は死ね!生きてたら、また人殺しする」

「何言ってんだ?俺あれ以来人殺しなんかしてねえ!」

「嘘つくな!浅草の美術館の写真の女。遺体が発見された。もうじきここへも警察が来る。だから、その前に両親の仇を討つんだ!」

憲重が逃げようと動く。

ばんばん、憲重の足元で弾丸が跳ねる。

憲重はへたり込む。


 パトカーのサイレンが近づいてきた。そして一心の声が響いた。

「一助!止めろ!撃つなよ、事件は解決したんだ。憲重を逮捕したら事件は解決なんだ。親の仇ってなんだ?俺、聞いてないぞ!」

「一心、俺の、実の父親の名前、桂林徹って言うんだ。母親の名前はみさき。」

「えっ、あの20年前の川の事故の桂林か?」

「だから、仇を討つんだ。手を出さないでくれ!お願いだ。撃たせてくれ」

残りの男二人は、静に声を出す間も無く叩きのめされて、床に伸びている。

丘頭桃子警部が入ってくる。部下に女性を救出させて、男二人も連れ出させる。

「一助くん、銃を下ろして、後は警察に任せて」叫ぶが一助は動かない。

「待ってくれ!俺は殺人なんかしてないぞ!」憲重が叫ぶ。

「あんた、女性を誘拐したでしょ。それが証拠、言い訳出来ないわよ!」

「違う!だちと女さらってレイプしようって話になって、それで品川をうろついて、あの女を見つけてさらったんだ。殺す気なんかない!」

「佐藤!女性に車内での様子聞いてこい!」警部が部下の佐藤刑事に叫ぶ。

少し間があって「車内で服脱がされそうになったり、身体触られたりしたけど、殺されそうにはならなかったと言ってます」

「遠辺野憲重、本当なのか?レイプか。ゆっくり事情を聞かせてもらう。その前に一助銃を下ろせ!警告だ」

警部を横目で見ると一助に銃口が向いている。目は真剣だ。一助の指に力が入ったら撃つ気だ。

 一心が動こうとした時、静が一瞬早く一助と警部の間に割り入って、大きく手を広げる。

「あきまへんえ、警部はん!一助は撃ちしまへん!絶対に。探偵やから、岡引の家族やから、絶対に撃ちしまへん!ちょっと待っとくれやす」

張りのある自信に満ちた迫力ある声。警部は気圧され動けなかったようだ。

時間が沈黙する。


 一助は我慢できずに「うわー死ねーっ!」叫ぶ。

ばんばんと銃声が響く。

一瞬の静粛が時間を停めて、数呼吸して動き出す。

憲重は腰を抜かして漏らしている。

一助は右手を真上に上げて銃を握っている。天井に向けて撃ったのだ。

そして銃を捨て、振り向いて静に抱きつき、うわーと大声で泣く。静は背中を撫でてくれる。

「よく我慢したな、一助、よく憲重を追い詰めた。でかしたぞ!一助」

一心も涙声だ。


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