第6話

 事務所に戻ると来客があった。

憲重の高校の同級生の唯井博人(ただい・ひろと)と東岸壮子(そうがん・とうこ)のふたりだった。電話でくる様に頼んであったのを忘れていた。すかさず美紗に怒られる。

「一心!来てってお願いしといて、本人が居ないってどういうことよ!」かんかんである。

「あ〜、御免なさい、事件の関係で横浜でちょっと長くなっちゃって」

二人はあまり気にしていない様子だが、とにかく美紗が怒っている。

話を聞こうとすると、「もう、とっくに全部話は聞きました。今、帰るところだったんです!」三角の目は母親そっくりだ。

「そうですか、御免なさいねえ。また、聞きたいこと出たら、お願いします」

「それも、もう私が、お願いしたから!」

「あっ、そう、家の娘、怖くて」

二人はクスクス笑って帰って行った。


「で、どんな話だった?」

「お〜、一言でいえば、情緒不安定。何か気に入らないことあると、突然、誰も手を付けられないほど暴れるらしい。普段は静かなんだけど。そう言ってたよ」

「で、事件の後は?」

「初めは、落ち込んでいて、兄の彼女には随分良くしてもらったのにって、泣いてたらしいの、でも、卒業して暫くして、たまたま浅草であった時に、少し話をしたら、誰かをやたら憎んでるって言ってて、それから暫くして、殺人事件起こしちゃった」

「兄の方は知らないのかな?」

「憲重が言うには、兄は自分の責任だって随分悩んでたって。自殺しかけたことも有ったって言ってたようよ。でも、酒飲んだらあいつが悪いみたいにいうので、自分もだんだんそう思うようになったらしいのよ」

「横浜の近所のおばさんの話と一緒だ。兄さんは結婚してて、3年後くらいにラーメン屋始めるって飲食店で頑張ってた。兄は事件に関係ないわ。だけど、弟は、分かんないなあ、怪しげな連中との付き合いもあるみたいだから、少し尾行するか、盗聴器かだな」

そう一心が言うと、すかさず美紗が、数馬を呼ぶ。

「数馬、遠辺野憲重に盗聴器だ、そして少し尾けろ」

「写真と住所?」

美紗が奥へ行ってそれを渡すと、サッと飛び出して行った。

「あれ?金谷登美子の学校の同級生とか会社の同僚とか話訊いたか?」

「一心、電話かけっぱで行くから、母さんが代わりに、品川まで会いにいったで」

また静に怒られそうである。

「あちゃー、やばい、防弾チョッキ着ないと殺されるな」

タッタッタッタッ、階段を上がる軽やかな足音。

「誰が、殺されるんどすか?外まで聞こえておましたけど」ぎろりとボクサー目線が一心を襲う。

「い、い、いや、そのう、悪いなあって思って」

ソフアの隣に静が座って、きっと顔をこちらに向ける。

「会社の、お友達二人にお話を聞いてきやした。最近、居酒屋で飲み会した時に、昔話で、『いかだが岩に乗り上げた時、私が体勢崩れたふりして、時世を落としたのよねえ』と言わはったらしいわ。おおこわ」

「何!その話、遠辺野の兄弟は知ってんのか?」

「それは分かりまへん。金谷はんがどんだけお喋りしたんか?ということやっしゃろ」

「そうか、なら金谷の大学のお友人関係だな」

「富永陽介、蒼井蓮、傑つむぎ、要りん、この4人に話を聞こう。連絡頼む」

「へいへい、あてがしまひょ」

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