第2話 死亡回数九十九回とかどうなってんだ

 人生とは、そう簡単に上手くいかないものである。



「本日で九十九回目のご死亡となります~! おめでと~」

「なんでだよおおおおぉぉぉぉっっっっ!!!!」


 何もない世界に、俺の絶叫がこだました。


 生まれて一分の死から九十八回。幾度も幾度も、死んできた。それも、同じ理由で。


 姉の、イリゼ。


 すべての死の原因がこいつだ。ときには、新しい炎魔法を見せてあげるといわれ焼かれ、ときには料理を作ると言って見守っていたら焼かれ、服が汚れてしまったときは洗うと言われて水の量が多すぎて溺れた。

 他にも百種類あるんじゃないか、なんていう死に方をした。老衰したことないんだが??


 でも、悪気はないのだろうし、運良くよけたときにもう土下座するほどの勢いで(というかしてる)、泣きながら謝ってくるので、怒りにくい。


 そのたびに、同じ人生をくり返している。別に時間軸をそのままにして、別の世界に転生してもいいのだがこのまま殺されたままでも、しゃくに障る。


(……それに、別に毎回転生してるから、痛みさえ我慢すればそんなに気にしてないんだよなぁ……)


 涙と鼻水でぐちょぐちょになったイリゼの顔を思い出しながら、頭をかく。

 でもやっぱり、こう何回も死ぬとさすがに嫌気がさしてくる。どうにかこのループから抜け出したいものだ。


 そんな気持ちをくみとったのか、後ろから苦笑混じりの声がした。


「ごめんよ~。なんとか上層部と取り合ってみたけど、やっぱ個人のステータスはいじれないってさ」

「どうすんだよ……これじゃ一生老衰できない」


 ため息をつきながら後ろを見ると、見なれた青年が笑顔でふわふわ浮いている。

 俺の担当神とかいう奴。こいつと出会ってから、二十年くらいはたっただろうか。

 もう自分の年齢も覚えてない。今回死んだのは……十三歳だな。一番歳とったんじゃんないか?


「まぁ、もうちょっと頑張ってよ。せっかくここまで頑張ってるんだからさ。それに、君の死に方毎回毎回……くふ、面白すぎて、っふ、ふふ」

「後者が絶対本心だろ」


 笑いを必死にこらえる神をにらみつけて、盛大にため息をつく。


「でももう、諦めた方がいいのかもな……。ここまでくるのに、すごい時間がかかったんだ。この先もあると思うと……」

「ええー! お願いだよ、もう少し! あの子を制御できるの君しかいないんだ!!」

「制御……?」


 どういう意味だろう。

 いつになく焦った神の様子に、俺は仕方なく耳を貸す。


「正確には、膨大な魔力を制御できるの、が君しかいないんだ。同じ転生者だし、1番近くにいる『弟』って存在なんだからね」

「まて。あの魔力を制御できるのか?」

「うん――って、どしたの?」


 プルプルと肩を震わせる俺に、神は不思議そうな顔をする。その様子を見て、俺の怒りは頂点に達した。


「それを早く言えええぇぇぇ!!!!」


 俺の絶叫が空間にこだました。



 もういいぞ、俺の拳。



 ✂ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー✂


「あ〜、痛い……なにもあんな強く殴らなくても」

「俺の拳はスッキリしたと言っているぞ、よかったな」

「何も良くない!?」


 俺は神の願いを二つ返事で聞きいれた。ある条件を提示したのだ。

 それは、なにかイリゼの力に対抗できるものを用意しろ、というもの。


 神は倒れていた地面から立ち上がり、パンパンと手を叩く。


「はーい、じゃあ、と~ってもレアなスキルをあげます~」

「あぁ、レアスキルか」


 俺が生まれた世界では、個人最低一つはもっているという『スキル』。運動神経が爆上がりするスキル、色々な言語が読めるスキルなど種類は様々。生まれたときからそれは持っており、ものすごく頑張れば新しいスキルも獲得できる。


 そのスキルの中でもとくにすごいのが『レアスキル』。使い方によっては最強にもなりうる、まぁいわゆる『チート』ってのに近いがな。……絶対引きたくないダメスキルも持ってる人が少ないって意味で、『レアスキル』にいれられているが絶対ほしくない。


 ちなみに、イリゼのスキルは『魔力強化』。これが、イリゼの魔法がヤバすぎる理由だと思う。てか、絶対そう。ちなみにこれも『レアスキル』だ。


「そう。次で人生百回目記念としてね。ちなみに、スキルは僕が決めます~」


 にまりと笑ったその顔を見て、嫌な予感にほおを引きつらす。


「お、おい。変なものにするなよ、できればすぐ死なないような奴とか……」

「なるほどなるほど、死ななきゃいいんだね。じゃあ、あれがいいかな~」

「待て、なにをする気だ」


 近づいてくる青年らしい大きな手に、俺はたじろく。身長差がある。威圧がすごい。

 そのくせ、この神の薄っぺらい笑顔ときた。これほど不安になる要素はない。


 なんとか手を頭に近づけさせまいとする、俺の必死の抵抗もむなしく、むんずと頭を捕まれる。


「――――」


 その瞬間。聞き取れない、少なくとも人間の言葉ではないものが、頭に直接響く。ぽわっと全身が光る。

 少しまぶしくて閉じた目を開けると、やはり笑顔の神が立っていた。


「今、なにして……」

「んー? スキル、あげたの~。言ったでしょ? あ、スキルがどんなのかは転生して、現世で行うステータス確認でわかるよ。――はい、転送準備おーけ~、じゃ、今度こそ死なないようにしてよ」

「え、ちょ、ま――!」


 ふわっと体が浮く感覚がする。落ちる直前。その視界に見えたのは、神のちょっと楽しそうな笑顔だった。

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