人生百回目、もう死にたくないので姉を見守りつつ人生まっとうします。
ヒペリ
第1話 早くね?
異世界転生。今では、ファンタジーの中でも特に人気を誇る、ジャンルの一つだ。
俺も例外ではなく、異世界転生というものに憧れていた。そして、それがついにかなったのだ。
「――ぅあ」
目を開けると、あたり一面が炎で彩られていた。みかん色に、鮮やかな赤色。まっさらな空色。風に揺られ、パチパチと音をもらすそれの堂々たる姿に、俺は言葉を失う。
ただただ、キレイだった。
え? 炎? え、ちょっと待って、キレイとか言ってる場合じゃなくない? せまってきてるぞ。え、これどうすんの。
「きゃあぁぁっっ! イリゼ様が、イリゼ様が!」
「水! 早く水を持ってきて!」
「誰かぁっっ!」
耳に聞こえてくるのは、女性たちの叫び声。そういえば、転生先はどこかの国の王族だと聞いたが……。使用人さんたちだろうか。
それに、この状況はなんだ。阿鼻叫喚じゃないか。てかイリゼって誰だよ、俺の名前か? 女子なんだろうか、今度の人生は。
「ご、ごめっな、くろーど、ごめんなさい……!」
炎が熱すぎて目をつむったまま聞こえた声は、まだ小さな女の子の声だった。
涙でつっかえて声が出ないらしい。途切れ途切れに聞こえる言葉は、謝罪のようだった。誰に謝っているんだろう。親に叱られてでもいるのだろうか。
てか、燃えてね? 俺。
生まれて……一分くらいだろうか。
俺は、死んだ。
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「――って、どういうことだああぁぁぁっっっ!!!!」
「わぁ、起き抜けからうるさいねー。おかえり。てかなんか帰って来んの早くない?」
周りは、さっき見たばかりの真っ白な空間。上も下もわからないこの空間は、妙な浮遊感に包まれている。そんな不思議な空間になれず、ふらつきながらも俺は立ち上がる。
そして、ふわふわ浮いている青年を俺はキッとにらみつけた。
「それはこっちのセリフだ! どういうことだ。生まれた瞬間死んだぞ。五分もたってない」
「えー……マジ? あはは、ウケる」
「ウケねぇ」
灰色の髪に、水色の目。白い服に黄色いわっかが頭にうかんでいるそいつは、ニコニコの薄っぺらい笑顔を浮かべる。そして、ぱちん、と指を鳴らしなにやらタブレットを取り出した。
青年・神がタブレットをタップすると、大きな画面が空中に現れる。
そこには、俺の無様な二度目の人生(終了済み)が語られていた。
「ふっ、くふふ、なるほど、うん、残念だっく、だった、ね」
「おい」
「あ、ちょっと待って、胸ぐらつかまないで、ちょい、ごめんて」
笑いを隠す気のない神をなぐってやりたいが、今はそんな場合ではない。
はぁはぁと青い顔で息を整える神を再度にらみ、問う。
「で、これはどういうことだ」
「た、たぶんあの子のとこいっちゃったからだよ……」
「あの子?」
「ん~とね、死ぬ直前とか、女の子を見なかったかな? 赤い髪に、青い瞳の三歳くらいの女の子」
「……正確には覚えていないが、確かに見た気がする」
あの少女のことだろう。
俺がうなずいたのを見て、神はうんうんとうなずく。
「だよね~。その子ね、魔力量多すぎていろんなもん壊すんだよ。人間も例外じゃなくて。けっこう巻き込まれて人亡くなってるっていうか」
「こわ……なに、無自覚系かよ」
「そそ。この前なんか山一個壊しててさぁ~、隣国との国境がなくなってた」
「草」
「いや、笑えないから」
笑顔でばっさり言うと、神は少し神妙な顔つきになる。にあわん。
「そろそろ、潮時かと思ってんだ。誰か殺すたび、自分が死ぬたび、あの世界の時間を巻き戻して人生やり直させてあげてたけど、もう何回もしすぎて。そろそろ上層部がキレそう。てかもうキレてる」
「笑っていうことじゃねぇ」
あはっ、と舌をだした神に突きだそうとした拳をぎゅっとにぎる。やめろ拳、まだ早い。
「ま、ってことでどうする? 他の世界に転生……って選択肢もあるけど」
「そんなことできるのか」
「そこは個人の自由だしね。それに僕、神だし」
「その前に、そいつの魔力量をどうにかできないのか、神」
「はっ、僕ごときにそんなことできると思う?」
「さっきの自信はどこへいった」
自嘲を自信満々に浮かべた神に、俺は呆れてつっこむ。
とりあえず、神側がすぐにどうにかできる問題ではない、ということがわかった。上層部とかいってたから、その偉い人たちならなんとかできるんだろうが……。
キレてるんだったらちょっと難しいかもな。
「……なぁ、もしもう一回あの世界に転生して、死んだらまた転生できるのか?」
「できるよ~。逆にしてくんないと天界に人がいすぎて困る。仕事が増えるんだよ」
「それは……大変そうだな」
「そして僕のゲーム時間が減る」
「どうでもいいわ」
少しでも同情した自分がおろかだった。だから落ち着け、俺の拳。もうちょっとだから。
「まぁ、だったらもう一度行ってみる。どんな世界かも知らずに他のところに行ってしまうのは、惜しい気がするしな」
「了解~。さっきと同じ時間にしちゃうと、また死んじゃうだろうから少し前にしておくよ。せいぜいあがきな」
「それ言ってみたかっただけだろ」
「決まったと思ったのに……」
転送前、最後に見た神の不服そうな顔はなかなかに良い景色だった。
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