第26話

 



 昨晩の出来事から一夜明け、珍しく早起きしたミルアと何しようか?と話し合っている。


「そうだね…王都を散策したい気持ちもあるし、組合に行ってマンドライーターの素材分の買取報酬も受け取りに行かないといけないし…」


「どっちも行こう」


「うん、時間もあるし。そうしよっか。…それと、昨日はごめんね?」


 昨日とは…まぁ、僕のタチの悪すぎる冗談でミルアの過去を刺激してしまい、泣いてしまった事だ。

 恐らく、過去に何かがあったと思ってはいるけど聞けずにいる。…本当に聞いていいのだろうか、その思いのせいで中々踏み出せずにいる。


「…うん。あれはレオが悪い」


「うぐ…僕も悪いと思ってるから」


「……聞かないの?」


「ん?」


「私が、なんであんな事を言ったのか」


「聞かないよ。ミルアが自分から話したくなったら話してね」


 僕も似たようなものだからね。


「…ん、ありがと」


 どういたしまして、そう言おうとした直後に部屋の扉がノックされ元気な声が聞こえてきた。


「ご飯出来ましたー!」


「朝から元気だね…」


「尊敬する。よく朝からあんなに元気になれる理由が分からない」


 …ミルア、君は朝が弱過ぎるんだよ。今日はあんまり寝ぼけてなかったけどいつもは酷いからね?


 まぁ、それはそうとして…毎回ララさんが声をかけてくるタイミングやノックのタイミング…全て会話が終わった後か丁度間が空いた時に来るな。流石に偶然だろうね。


「朝ごはん食べよっか」


「ん」


 この宿の料理はとても美味しいので楽しみだ。ちなみに、今更すぎるが…この宿は2階が泊まるための各部屋、一階が食堂となっている。

 一階の食堂はこの宿に泊まってる人以外も利用できるため利用客は多い。…本当、お疲れ様です。




 ミルアと一階に行き宿泊者用のテーブルに向かい、ララさんが来るのを待つ。


 周りがガヤガヤと騒がしい。普通の会話はもちろん、時折「うまっ!?」や「美味しいな」と言う声も聞こえてくる。


「お待たせしました!どうぞっ!」


 ララさんがやって来て、テーブルにパンが入ってる籠とこんがりと焼けたお肉と…これは何かのフルーツか?それがスライスされたお皿、水を置いた。この料理は毎日違うため予想は出来ない。


「おはよう、ララさん」


「おはよ」


「おはようございます!」


 ララさんが額に汗を浮かばせながら元気の良い挨拶を返してきた。


 ララさんの他にも働いてる人は居るのだが…それでも忙しいのだろう。


「ララさん、大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ!慣れてますので!」


「頑張って下さい」


「頑張りますよー!レオさんもミルアさんも頑張って下さい!」


 そう言ってララさんは他のテーブルに向かって行き、お皿を片付けてる。



「…ララの体力って凄い」


 ミルアがポツリと呟いた。


「だね。あんなに素早く動いてるのに…汗はかいてるけど、息切れはしてない。それに…よくよく見れば分かるけど動きが最小限だね」


 テーブルとテーブルの間を両手にお皿を持った状態でスルスルと動き回っている。バランス感覚、俊敏力、反応スピードが優れてる。……石級ストーン、いや鉄級アイアン冒険者より確実に動きが良い。ララさんすげーな…


「…ララってもしかして凄い?」


「かもね」


 そんな事を言いながら僕とミルアは朝食を食べ続けた。その間、ララさんは止まることなくずっと動き続けていた。



 ◆




「「ごちそうさまでした」」



「じゃ…行こうか」


「ん!」


 朝ごはんを食べ終えてやや上機嫌なミルアと一緒に宿から出て、まずは冒険者組合へ行くことにする。



「…今日も賑やか」


「これぞ王都って感じだね」


 大通りには沢山の人が行き交ってる。種族問わず子供からご老人まで様々だ。


「冒険者も沢山、でも…全員レオより弱い」


「それは分からないよ。実力を隠してる人も居るようだね…」


「そう?」


 ミルアの中で僕はどんな強さを持っているのか気になってきたぞ?相当、補正されてると予想する。


「うん、例えば……あの人見えるかな?向こうに居る外套を被ってて微かに剣の鞘が見えてるご老人なんか」


 近くの石垣に座って何かを食べているようだ。ぱっと見引退した冒険者の感じがするが、僕の勘っていうのかな?それがうるさいくらいに訴えてきてるのだ、強いって。


「…そう?普通のお爺ちゃんにしか見えない」


「いや、強いよ。…なんとなくだけど、僕では勝てないよ」


「え……むむむ。あれ?どこに行った?」


「ん?…あれ、本当だ」


 いつのまにかご老人は姿を消していた。…何処かに行ったのだろうか?


「…まっ、いいか。行こっか」


「ん」




 冒険者組合へと着き、受付に行ってマンドライーターの素材の買取報酬について聞いてみるとすぐに対応してくれた。


「言ってくださった通り、氷漬けのマンドライーターが墓夜の森で見つかりました。現在、高ランク冒険者に取りに行かせています。そして、こちらがレオ様が持ってきてくださったマンドライーターの花びらの買取報酬となっております。金貨73枚となります」


「っ、そんなにですか?」


 思わず聞き返してしまった。金貨73枚って、そんな額の買取価格なんて初めて聞いたぞ。


「はい。やはり魔法耐性というのは防具として重宝されています。ですので今回、金貨73枚という価格になりました」


「そうでしたか。…ありがとうございます」


「こちらの方も変異マンドライーターを見つけ、討伐してくれた事には感謝しております。また、お願いします」


「そんな連続で特異型には会いたくないけど…また見かけたら倒さそうなら倒します」


「お願いします」


「じゃ、ミルア行こっか」


「ん」


 金貨73枚が入った革袋を盗まれないように仕舞って組合から出た。



「さて、と…王都散策と行こうか」


「うん。適当にぶらぶらと歩く?」


「そうしよっか」



 面白そうなものがあったら寄ってみよう。

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