第25話
「んじゃ、ミルア。行ってくるよ」
「…?」
日も既に暮れ、夜の空には綺麗な青色の月が浮かんでいる。
「時間的に11時頃、ほら、ララさんとの約束」
「うん、分かってる。行ってらっしゃい、部屋の鍵は開けておく」
「ありがとう。じゃあ、行ってくるよ」
特に何も持たず僕はミルアに一言告げてから部屋を出て、一階へと向かう。
宿内はもちろん静かだ。そのため、僕の歩く足音だけが空間に響く。
明かりは消え、月明かりだけを頼りに歩く。
そして、一階へと降り食堂に到着すると、ゆらゆらと燃えている蝋燭をそばにララさんがテーブルで腕を枕にして寝ていた。
「…これは、申し訳ない事をしたかな?」
今の時間、いつもならララさんは既に寝ていたのかも知れない。
僕はララさんに近寄り羽織っていた外套をそっと被せる。流石に風邪を引いちゃうかもしれないからね。
しかし、外套を被せたと同時にララさんがバッ!と勢いよく起き上がった。
「ふぁっ!?気配!……あ、あれ?レオさん」
「起こしてしまいましたか?」
…気配。そんなに僕の気配って分かりやすいのかな?気配消しの練習しよっかな?
「っいえ、大丈夫です。…あっ!すみません、わざわざ来てもらったのに私、寝てしまって」
「ララさんは悪くないですよ。僕がララさんに聞きたいことがあると言ってしまったせいなので…」
「んー!起きろっ、私。よしっ」
パチンッとララさんが両手で自分の頬を叩いた。
「それで話?聞きたいことって何ですか?答えられることなら答えますよ!…あ、プライバシー関係はダメです」
「当たり前ですよ……僕が聞きたいことは、その…女性に対する常識なんですよ。…なんか、こんな時間にこんな馬鹿みたいな質問して…本当にすみません」
「へ?…え、じょ、女性に対する常識ですか?えぇと」
冷静になって考えれば考えるほど僕は何してるんだろうと思い始めた。
「女子に対する…例えば、どういう事に関して?」
「ミルアとの会話なんですが…ミルアと話してる時に彼女がまぁ…だらしない顔をしてそこから少し会話が続いた後に僕がミルアに対して、僕の寝顔を見たかったら僕より早く起きることだねって言ったんですよ。僕がいつもミルアより早く起きてるので」
「はいはい、まだ不思議な点は見つかりませんね」
「その次に、ミルアに向かって…たしか、『ちなみにミルアの寝顔は毎日のように見てるから』って言ったらジト目を向けられたんですよ」
「……それは圧倒的にレオさんが悪いですねー」
ララさんが
「えぇ…やはりそうなんですか?」
「はい。そもそも女性、というより誰かと付き合ってる、結婚してる。そういう人は相手の方には綺麗に、可愛く見てもらいたいんですよ」
「へー」
「だから寝起き、もしくは寝ている時の顔っていうのは無防備な状態なので見られたくないんですよ。…まぁ、普通に恥ずかしいからというのもあります。私の場合は前者の方です。…それを毎日。私なら軽く数回は恥ずか死にますねー」
恥ずか死…ララさんっぽい言葉に少し笑いそうになったけど我慢した。
「…そうなんですか」
「そうなんですよー。…まぁ、私の勝手な憶測なんですが、ミルアさんはレオさんに寝顔を見られてるのは嫌ではないと思いますよ?まぁ、それは置いといて…元の話に戻りましてー、女性に対する常識ですね。これは人によっては変わるので確定ではありませんよ。
あくまで私が思ってる事なので」
人によって変わる、か…
「あ、その前にどっちで教えて欲しいですか?行動、言動、どちらでも大丈夫ですよ」
「…行動ですかね?」
「分かりました!まず、私に仮に、ですよ?仮に…彼氏、夫が出来たとします。…絶対出来ないですが」
…闇
「その人にされたくない事は、まず下着類です!下着類の洗濯、それと汗を吸った衣服もです、その二つの洗濯とかは絶対にさせたくないです」
「…まぁ、普通しないと思いますよ?流石に」
「…する人はいるらしいですよー。他にも、言動とかにも気をつけた方がいいですね。少しオシャレをした日、髪を切った日なんか、女性は気づいて欲しい場合が多いので褒めた方がいいです!」
「はい」
「…まぁ、女性に対する常識なんてさっきも言ったように女性によって千差万別なので一般的常識を除いたら、相手の方が彼女をちゃんと観察して学んでいかないと行けないですねー。レオさんもですよ?」
「つまり、自分で見つけろと」
「はい!」
参考になるような、ならないような……
「分かりました。頑張ってみますよ」
「頑張って下さい。…応援してますから」
グッと両手に握り拳を作ってララさんがそう言ってくれた。…が、何かが気になった。けど、その違和感は僕には分からず、そのまま「おやすみなさい、ララさん」と言って別れた。
去り際にララさんが「おやすみなさい、レオさん」と返してくれたが時間のせいもあるのか、いつもの元気は無かった。
「……浮気」
「っだからぁ……そんなに浮気をするような男に見えるなら、本当に浮気するよ?」
「え…す、するの?」
「そんなに浮気、浮気って言うならね」
もちろん冗談である。
自分でもタチの悪い冗談だな、と思いながらミルアの反応を待っていると、ミルアは固まった後小刻みに震え出した。そして、途切れ途切れに呟き始めた。
「ぁ、そ…の、ご…めんなさい……だから、浮気しないで…わ、私」
「っ!うそうそ、嘘だから泣かないで」
涙目になり、やがて僕に縋るようにそう言ってきた。
「うそ?…浮気しない?…私、捨てないでくれる?」
「うん、捨てないし浮気なんてしないよ。僕はここに居るから」
今にも泣きそうなミルアを優しく抱きしめミルアの耳元で囁く。
「ほんと?」
「うん、本当」
「…離れないで、何も言わずに居なくならないで」
ミルアの過去に何かあったのか、僕は気になったけど聞く事は出来なかった。でも、ミルアの過去には何かがあったのだろう。
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