第18話

 



「…思ってた数倍大きいんだけど」


「同感…商人じゃなくて大商人」


 イラード商店はかなりの広さだった。しかも、客もかなり出入りしてる。


「まぁ、入ろう」


「うん」


 中に入り店員さんを見つける。普通に買い物をするのもありだが…イラードさんが居るのなら会いたい。


「すみません」


「はい、どうされましたか?」


「イラードさんは居ますか?」


「商談の方ですか?」


「いえ、イラードさんの知り合いみたいなものです」


「はぁ」


「詳しく言えばイラードさんがこの王都にやってくる時に護衛として雇ってもらった者ですね。レオ、と言います」


「っ!あなたでしたか。…イラード様より伺っております。こちらへ」


 おや?先程までの対応とは全然違う。…イラードさんが何か伝えていたのだろうか?



 店員さんについて行くと明らかに偉い人が居るであろう豪華な扉前に着いた。


「イラード様、レオ様が」


「入れ」


「失礼します」


 …今、途中で覆いかぶさるように言ったよね?最後まで言わせてあげてもいいんじゃないの?



 中に入ると机を囲むように3人座っていた。真ん中がイラードさんなのは分かるけど…残り二人、一人は大人の女性でもう一人が少女……あっ、もしかしてイラードさんのご家族の方かな?


「おぉ、お久しぶりです」


「お久しぶりです、イラードさん」


「久しぶり」


「無事にミスリル冒険者になられたようですね。おめでとうございます。…おっと、紹介が遅れましたね、こちらは妻のイーシアと娘のサラネです」


「主人を助けていただき、本当にありがとうございます。妻のイーシアです」


「…サ……サラ……うぅ」


 あ、イーシアさんの後ろに隠れた。…恥ずかしがり屋なのかな?


「うふふ、娘のサラネは人見知りで恥ずかしがり屋ですから、ごめんなさいね?」


「大丈夫ですよ。こちらも自己紹介がまだでした。…僕の名前はレオと言います。そして、こっちが妻のミルアです」


「ミルアです」


「レオさんにミルアさんね」


「お二方、今日はどのようなご用件で?」


 イラードさんが微笑みながらそう聞いてきた。


「墓夜の森に依頼で行くことになりまして、道中の食料や道具などを購入しようと思いまして、そこでイラード商店を思い出したので、こうして来ました」


「なるほど。それなら一つ、オススメの商品がございます。少々お待ちを……確か、この辺りに」


 イラードさんが立ちあがり、何かを探し始めた。一体何をしているのだろう?と思っているとイラードさんは一つの鞄を取り出してこちらに持ってきた。


「それは?」


「これは魔法の鞄。ある一定の量までなら、どんなものでと入れることが可能な鞄ですな。これさえあれば、中に食料、武器、明かりなどをわざわざ持たなくすむ便利な道具です。これを貴方に差し上げます」


「っいえ、そうはいきません…そんな凄いものを貰うのは」


「実は、そちらの鞄は容量が少ないのですよ…ですから新しいものを購入しまして、そちらは不要になったのですよ。このまま放っておくのも勿体無いと思っていたところ、丁度よく貴方様が来られたのですよ」


「そうだったんですか」


「えぇ、ですから命の恩人でもある貴方様に差し上げたいのですよ。それと、有名になったら是非宣伝の方を」


「商人ですね」


「ははは。これが商人ですね」


「…なら頂きます。そして、必ず有名になりますよ」


「それは楽しみですね。私の勘が告げてますよ、誰もが知るような男になると、ね」


「買い被りですよ」


「商人の勘は当たるものです」


 現在進行形で商人であるイラードさんがそう言うのなら本当に当たりそうだ。


「では、大切にして下さいね」


「もちろんですよ」


 イラードさんから魔法の鞄を受け取り肩に掛ける。


「似合っておりますよ」


「ありがとうございます。早速旅に必要なものを買って入れてみようかな思います」


「でしたら、我がイラード商店のベテランに案内させましょう」


「いいんですか?」


「えぇ、これもサービスの一環ですので」


「では、お言葉に甘えて」


「今呼びましたのでもう少ししたら来るかと」


 …いつ呼んだのだろうか。全然気が付かなかった。何か、そういう時のための道具とかがあるのだろうか?


「ミルア」


「うん?」


 いつの間にかサラネちゃんと仲良くなってるミルアに一言かけたのは良いけど…本当、いつの間に?


「…えぇと?そろそろ行くよ?買い物だけど」


「分かった。ばいばい、サラネ」


「ばい、ばい…」


 サラネちゃんが小さく手を振る。ミルアも微笑んで小さく手を振りかえす。


「これは驚きましたな。あのサラネがこうも心を開くとは」


「心を開くですか」


「えぇ、初対面なら会話は必ずと言っていいほど成立しませんし、仮に喋っとしても性格上…会話が始まらないので…ですから、初対面であるミルアさんといきなり話せるところを見せられると…親としては感激です」


「ミルアの…なんですかね?優しいところというか…そういう所が彼女に通じたんでしょう」


「これを機にサラネにはお友達を沢山作って欲しいのですが、まだ自分から話しかけることは難しそうですな」


「時間をかけていけば出来ますよ。最初の一歩が肝心ですからね」


「そうですな、私としては優しく見守りますよ。ははは、それにしてもレオ殿はきっと良い親になりますよ」


「…そうですかね?」


「えぇ、今の会話を聞いていれば誰だってね」


「なんか、恥ずかしいですね」


 いずれ…僕も子持ちになるのかな?相手は…って、考えなくても一人か。


「レオ、どうしたの?じっと私を見つめて」


「なんでもないよ」


「そう?」


 今はまだ大丈夫かな?20歳…超えてから子供とかの事は考え始めよう。今はまだ冒険者として自由に生きていたいからね。


「イラード様、お待たせしました」


 約5年後の事を考えてるといつの間にか一人の店員が扉前に居た。…気配は少し感じていたが音は一切聞こえなかった。


「よく来てくれましたね。こちらのレオ殿と奥様であるミルア殿のご要望にお応えしてください」


「かしこまりました。レオ様、ミルア様なんなりとお申し付けください」


「頼りにするよ。じゃあ、まずは――」




 買い物中は特にこれといった事はなかった。…でも、ミルアは楽しそうにしていた。こういうところは女性に多いなと個人的に感じた。


 あと、一つわかったのは…イラード商店は品揃え豊富だったという事だ。



 購入したものを全て魔法の鞄に入れて――全部入ったことには驚いた――僕とミルアはイラードさん一家と案内をしてくれた店員さんに一言言ってから、本来の目的であるマンドライーターの討伐をするために王都アルフィリアを出発した。


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