第17話

 


「今日は何しよっかな。ミスリル冒険者の試験がもっも後になると思ってたからね」


「依頼受ける?」


「う〜ん……うん、そうしよっか」



 というわけで冒険者組合へ行きましょう。



 ◆



「むっ。お主、ワシを助けてくれ」


「大賢者様?…えぇと、なんですか?この状況」


 冒険者組合の中に入ると、大賢者様が一人の男にプラ〜ンと首根っこの服を吊られて宙を浮いていた。…苦しくないのだろうか?


「む?お前は誰だ」


 大賢者様をぶら下げてる男がそう聞いてきた。


「初めまして、僕は昨日ミスリル冒険者になりました、レオです」


「おぉ、お前がそうか。こっちに来てくれ」


「へ?」


「少し聞きたいことがあってな。そんなに時間はとらん」


「…まぁ、分かりました。えぇと、ミルア…こいつも一緒でいいですか?」


「いいぞ。こっちだ」


「…ワシをこんな風に出来るのもお前だけだぞ」


 そう言った大賢者様の言葉に少し驚いた。


 …一体この人、何者なんだろうか。




 男について行ったら一つの部屋に着いた。そして、部屋の中にある革の椅子にミルア、僕、大賢者様。対面に男という感じに座った。異議を申し立てたいところだ…なんで僕が真ん中なのかを。


「自己紹介を忘れてたな。俺の名前はシュケイル=ディルハード。全ての冒険者組合の総合ギルマスだ」


「「っ!!」」


「驚いたか?」


「驚きますよ…それは」


「はははは。…そろそろ本題に入ろうか。レオ、と言ったな?昨日ミスリル冒険者になるための大賢者が試験を受けさせたと聞いている。そこまではいい、だが…その後だ。

 …試験が終わった後にレオ、大賢者と遊びに行ったか?」


「行ってませんよ」


「だからそう言ってあるだろ。少し試験が長引いただけだとな」


 …大賢者様も昨日の出来事は隠したいようだ。心底めんどくさそうな顔でギルマスに言っている。


「レオ、嘘をつかなくてもいいぞ?どうせ大賢者が脅して口合わせをしろ、って言ってきたんだろ」


「いいえ?大賢者様は脅してはこなかったですね。むしろ、脅すような事をするんですか?」


「するぞ?普通にな」


「……」


「お前も組合に勤めてみるか?勤めた翌日には脅してくるぞ」


「おいシュケイル。流石のワシでも働き始めの職員には脅すようなことはしないぞ」


 働き始めの職員に"は"…つまりそれ以外の人は…ふーん、なるほどね。


「うちで働いてる組合は全員経験してるぞ」


「一年もやっておるからな。ワシよりめんどくさい奴は経験しておるはずだ」


「そうかもしれんが、怖さや何をされるのか不安という点なら圧倒的にお前の方が上だぞ」


「知らんわ」


「…おいクソババアが」


「ぶち殺すぞ餓鬼が。あぁ?」


 …僕とミルアは何を聞かされてるんだろうか。


「…ミルア、帰る?」


「うん、喧嘩に巻き込まれるのはごめん」


「ちょいちょい待て、お前ら。まだ話は終わってない」


「「えぇー」」


「えー、じゃない」


「…一つ聞きたいんですがギルマスと大賢者様の関係ってなんなんですか?」


「腐れ縁ってやつだ」


「馬鹿か貴様。こいつとは…なんなんだ?知り合い以上、友達未満だ」


「酷いな…まぁ、否定はしないが」


「しないんですね」


「するわけがないだろ。こいつくらいだ、ワシを雑に扱うのは。…あぁ、だがお主も雑とまではいかないが他の奴らとは違うな」


「ん?大賢者、どういう意味だ」


「…なに、昨日の試験でこいつは他のやつらとは違う言動や行動をしてきたからな」


「なるほどな。レオ、大賢者の名前知ってるか?」


「え?イ〜〜や?知らないですね」


 答えそうになったがなんとか誤魔化せたはず…バレてない、バレてない。うんうん、ギルマスがジーと見てきてるがバレてない。


「もういいだろ、シュケイル。ワシもこのやり取りに疲れてきた」


「…分かった。どうせ何をしてたのかは予想できるしな。二人ともわざわざすまなかった。…大賢者、お前は王から呼ばれてるから行け」


「ちっ、めんどくさい。……はぁ、行くか。時間は?」


「1時間後」


「もっと早く言え」


「忘れてた」


「死ね」


「やれるもんならやってみろ」


「…お二方、僕とミルアは帰りますので」


「おう」


「うむ」


 互いに睨み合っているギルマスと大賢者様を置いて僕とミルアは部屋から退出した。…


 部屋から出て、扉を閉めた瞬間…思わずため息を吐いてしまった。…なんか、中から暴言が微かに聞こえる。


「…レオ、大丈夫?」


「うん、精神的疲労がね」


「仕方ない、あれは…」


 ミルアも先程のやり取りを思い浮かべてるのか遠い目をしてる。きっと僕も似たような目をしてるのだろうなぁ…


「レオ、本来の目的を達成しよ」


「だね。依頼依頼…気持ちを切り替えていこう」


「うん」



 ◆



「では、こちらのマンドライーターの討伐の依頼を受注するということでよろしいでしょうか?」


「えぇ、お願いします」


「分かりました。お分かりかと思いますが依頼失敗時には依頼のランクに応じて罰がありますのでご注意を」


「はい、ありがとうございます」


「では頑張ってきてください」


 僕はマンドライーター討伐が書かれた依頼書を仕舞ってミルアと一緒に組合から出た。


 マンドライーターは肉食植物の魔物だ。災害ランク5の魔物でその体は大きく、真ん中には巨大な口を持っており強靭な蔓で攻撃してくる。

 動かないことが嬉しいところだ。これで動くとなると災害ランクは7を超えると言われてる。

 蔓で冒険者や市民を掴み取りそのまま捕食するので恐れられている魔物だ。


 僕も戦ったことはない。でも、レイドさんが教えてくれた。…いや、教えてくれたというより自慢だったかな?あれは…


 まぁ、それは置いといてマンドライーターの何が危険で何処か弱点なのかを僕はレイドさん経由で知っている。だから、安全に…とまではいかないけど比較的簡単には倒せるはずだ。


「場所は…墓夜の森か。少し遠いけど行こっか」


「うん、二人きりで冒険っ。楽しみ」


「警戒心持とうね?」


「大丈夫、ちゃんとある」


 大丈夫かな…


「まずは食料とか必要なものを買おう。それからだ」


「それなら良い場所がある」


「知ってるの?」


「レオも知ってる。イラード商店」


「あぁ、あの人か。…うん、いいね。イラードさんに早速お世話になろう」


「うん」





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