第19話

 



 僕とミルアは一つ勘違いをしていた。それも大きな勘違いを…それは、


「…暇、いつになったら墓夜の森につくの?」


 目的地である墓夜の森までの距離を考えていなかったことだ。


「うーん、このペースだと明日のお昼かな?」


 イラード商店で購入した地図を見ながらミルアの質問に返事を返すと小さく「うぇ…」と聞こえた。


「…遠い」


「ごめんね、ちゃんと調べなかった僕が悪い」


「ううん、それを言うなら私だって」


「いやいや、僕の方…ってこのままじゃ埒があかないから、どっちも悪い」


「うん、平和的解決」


「まっ、ゆっくり行こっか。期限とかも幸いないようだし」


「うん。天気もいいし」


 ミルアの言う通り空は快晴だ。雲一つない。あっ、鳥が飛んでる。…空。


「空を飛べたら楽なんだけど」


「空…飛べるのは分かるけど使う機会がなかったら使えない。練習するっ」


「怪我しないように気を付けてね?飛行練習中に落下して打撲とかっていうのは夫として嫌だから。大事な妻の体に怪我っていうのはね?」


「ふふ、レオも自覚が出始めたら。もう夫や妻っていうのに抵抗がない」


「…本当だ。気が付かなかった。慣れかな」


「慣れ」


「慣れ、か…悲しくはないね」


「そこで悲しいと言われたら私はどうすればいい?…あっ、そっか。嬉しくなるようにすればいい」


「何をするつもりかな?」


「ご想像にお任せします」


 …血を抜かれる、それが最初に想像したことだ。次に…って言わないからな?


「レオ、実は我慢してる」


「急にどうした」


「きっと想像したことは…ふふふ」


「ちが…くないけもど、一番じゃないからね」


「想像はしたと」


「まぁ、男だからね」


 仕方ないだろ?そんな意味を込めて言う。


「気になったんだけど、レオって溜まった時はどうしてるの?娼館?」


「っぶね……ミルア?」


 ミルアの質問がいきなり過ぎるのと内容も相まってこけそうになった。


「ん?何」


「いや、何じゃなくて…行ったことないんだよ」


「え…」


 え、何?そのヤバいやつを見るような目で僕を見てきて…


「つまり、童貞?」


「もう少しオブラートに包んでくれない?直球で言われると僕としても心にくるものあるから」


「あ……ごめん」


「やめて?謝らないで」


「でも、大丈夫。近いうちに初体験迎えることができる」


「当分大丈夫なんで…」


「…私の方も大丈夫。今はレベル上げと進化に専念したい」


「僕もだよ」


 強くならないと…もう目の前で大事な人を奪われないようにするため。


「レオ、また顔」


 ミルアが心配そうな顔をして僕を見てきた。咄嗟に表情を元に戻した。


「…ごめんね。どうしてもね。…今日、何処かで野宿になると思うから、そこで全て話すよ」


「いいの?」


「うん、いつまでも、ってって訳にはいかないからね?それに、ミルアも辛いでしょ」


「…うん」


「だから話そうって。ミルアも嫌かも知れないけど」


「大丈夫、レオの苦しみを少しでも和らげれるなら」


「あはは、ありがとうミルア」


「これも妻の役目」


 あまりな…なんでもない。…胸を張って何処か嬉しそうにしている。あれかな?妻の役目って所が嬉しかったのかな?


「妻の役目…ふふふ」


 そうっぽいな…口元がニマニマしてるぞ。


 そういうところをなんとかすれば……いや、これもミルアらしいっちゃらしいか。


「ミルア、口元」


「むっ……むむ。恥ずかしい」


「ミルアらしいから気にしなくてもいいよ?それに、見てて面白いし、心が安らぐし」


 こう…平和だな〜と感じる。


「だらしない顔を見られるのは恥ずかしい。レオだってそうでしょ?」


「んー、大丈夫かな?」


「寝起きとか大丈夫なの?」


「うん。…それに、見られる事はないよ?ミルアより早く起きるし。ミルアは朝弱いでしょ?」


「う…そうだけど」


「僕の寝顔を見たかったら僕より早く起きることだね。ちなみにミルアの寝顔は毎日のように見てるから」


「……」


 何故かジト目で僕を見てくる。…何か言った?


「レオって常識ないよね」


「酷くない!?」


「厳密には女性に対する常識」


「……否定しないけど」


 なにせ、知り合いの女性…が少なかったから。


「学んだ方がいい。うん、絶対に」


「…絶対。そこまで言われたら学ぼっかな〜って誰に学べばいいんだよ」


「私」


「…違う常識を教えられそうだ」


「酷い」


「僕の直感がそう告げてる。…ミルアに好都合な常識ばかり教えられるってね」


「………遠いな〜」


「ミルアさーん?」


 ミルアにジト目を向けるが本人はこちらを見ずに遥か前方を見ている。冷や汗垂れてんぞ。


「誰に教えれば…ミラさんと行きたいところだが遠いしな」


「新しく作る?女性の知り合いを王都で」


「作るって言ったって……あっ、二人いた」


「…二人?私はてっきり一人かと」


「一人はララさん」


 宿の元気っ娘だ。王都を出発する前に追加宿泊分のお金を渡して、二日くらい居ないと言っておいた。元気よく返事してくれた記憶がある。


「私も彼女を思い浮かべたけど…もう一人は?」


「え?大賢者様」


「絶対やめた方がいい」


「どうして?」


「…大賢者様が女性の常識を知ってるとは思えない」


 それは大賢者様に失礼じゃない?あの人だって女性なんだし、見た目的には少女だけど…


「絶対ララに教えてもらった方がいい」


 ズイッと体を近づけ背伸びをして顔まで近づけてそう言ってくる。圧を感じる…


「い、一回大賢者様に聞いてみても?その結果次第でララさんに聞く」


「…いいけど、どうなってもしらない」


「……それは、僕が大変な目に遭うってこと?」


「多分、死ぬ事はないけど…」


「うーん、実感が湧きそうで湧かない…」


 昨日の大賢者様との行動のせいだろう。あれで言葉遣いが幼かったら完全に子供なんだよな〜。


「それに、そもそも大賢者様と話せるの?」


「あ……無理だね」


 んー、残念。ついでに何か教えもらおっかな?って思っていたんだけど。


「ならララに聞くしかない」


「だね。帰ったら聞いてみよっか」


「うん」



 …今更ってわけでもないけど、中々に凄い会話内容だったなぁと思った。


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