第10話
「ミルアはどうする?」
今夜、ミラさんと飲む約束をしている。そして、大体の時間もなんとなく分かるため僕は支度しながらミルアも一緒に来る?という意味合いを込めて聞いた。
「いい、宿で寝ている。…というより、お酒飲んだ事ないから怖いのが本音。飲むならレオと二人きりの方がいい」
「あはは、分かったよ。それじゃ、待っててね。いつ帰ってくるか分かんないけど…」
「うん、先に寝てると思う。部屋の鍵はレオ、持ってる?」
「うん、ちゃんとね」
「行ってらっしゃい」
「うん、行ってくるよ」
硬貨が入った袋と部屋の鍵、剣とちょっとした外套を羽織って宿から外出した。
◆
「…あっ、レオさん。こっちですよ〜」
「あれ、早めに仕事が終わったんですか?」
「そうですね〜、珍しく」
ミラさん曰く、冒険者組合の仕事はブラックとの事だ。
「よいしょっと、マスター。いつもの」
この店のマスターとも顔見知りだ。寡黙な人だが優しい。
マスターはコクリと頷くとカクテルを作り始める。
「…レオさん、早速なんですがミルアさんとの結婚方法を教えて下さい」
ミラさんが一口お酒を飲んでから会話を始めた。
「いいですよ?…他の人に言わないならね」
「もちろんですよ」
「なら言います。信用してますしね。…一つ聞くんですけどミラさんは吸血族に血を差し出す事をなんて言うか知ってます?」
「はい、確か求婚ですよね?それが何か……え、もしかして」
「そうです。僕はミルアにその事を知らずに血を上げたんですよ。…元々ミルアも死にかけてたのでどっちにせよ血を差し出すのには限りはなかったんですがね。…で、血を差し出して、ミルアがそれを飲んで、夫婦ってわけです」
「…知らなかったんですね」
「恥ずかしながら」
「でも、ミルアさんが受け入れたのはある意味良かったんじゃないですか?レオさんはミルアさんの事、どう思ってるんですか?」
「今は普通の異性としてですよ。まだ、好きという感情はないですね」
「そうなんですね」
「いつもの、お待ち」
「おっ、マスターありがとな」
マスターに礼を言う。マスターはコクリと頷いた後、グラスを吹き始めた。
一口飲もう……うん、美味しい。
「…でも、好きになるんでしょうね」
先程の会話の続きを始める。
「これからずっと一緒に居るんですか?」
「えぇ」
「なら好きになるでしょうね。きっと。あんなに可愛らしい女の子がそばに居るんですよ、更にその子はレオさんに好意を抱いている、予言します。3ヶ月以内には好きになるでしょう」
「割とありえそうな期間ですね。…でも、まずは鮮血の大賢者様に会いに行かないと」
「大変ですね、でもミスリル冒険者になるためですよ」
「あはは、頑張りますよ」
どんな事をするのか不安だけど…期待には応えたい。
「レオさんって何気に街の人気者ですよね」
「え?なんですか、いきなり」
お酒をちびちびと飲んでいるといきなりミラさんがそんな事を言ってきた。
「レオさんは街の人たちにも優しく接してますし、新人冒険者さんにも危険な事や豆知識など、色々教えてるじゃないですか」
「まぁ、そうですね」
「街の人たちもレオさんとすれ違ったら挨拶とかしてくるんじゃないんですか?」
「う〜ん、たまにされますね」
「ほら、やっぱり人気者ですよ。新人冒険者もレオさんを尊敬してます!って人は私の知ってる限りでも軽く15人は居ますよ?男女問わず」
「それは嬉しいですね。…でも、僕より上のランクの人は何人も居るじゃないですか」
「ミスリルですけどね。アダマンタイトやオリハルコンの冒険者は一部を除いて各地を翻弄してますよ」
「それでも歴は僕よりも圧倒的に長い人も居ますよ」
「そうですね。…あっ、そうそう。鮮血の大賢者様にはランクはありませんよ」
「そうなんですか?」
「あの人は冒険者でもなんでもありませんからね。王都アルフィリアを守護する守護神って立ち位置ですね。それに、あの人の実力的にはオリハルコンでも当てはまりませんよ」
「…僕は鮮血の大賢者様の実力は話でしか知りませんから何とも言えないです」
「それを言うなら私もですよ?私も聞いた話をこうやって伝えてるだけですから……鮮血の大賢者様は何歳生きてるのか分からないらしいですよ」
「女性ですよね?」
「えぇ、まぁ…大賢者様に、それに女性に年齢を聞く馬鹿は国王様でも無理ですよ。あの方を怒らせたらそれこそ国一つ軽く滅びますから」
「わぉ…」
「だからレオさん、間違っても年齢関係のことは言ってはダメですよ」
「流石に常識はありますよ」
早死にはしたくないからね。…目的の為にも。
「レオさん?怖い顔をしてどうしましたか?」
「っ、いえ…なんでもありませんよ」
過去を思い出すとどうしてもなぁ………あいつを…
「レオさん、時々似たような顔をしてますよ?」
「…すみません。少し過去の事が」
「レオさんの過去ですか……いえ、聞きませんよ?」
「いつか話します」
「無理しなくていいですからね?」
話せないことはないんだが…話すと多分、顔がまたミラさんからしたら怖くなるし、僕自身も怒り、悲しみがふつふつと湧き上がる。
あいつの事について調べた事はある。…でも、何も得られなかった。あいつの容姿や持っていた武器が思い出せないから調べようにも事件関連の事しか調べられなかった。
「レオさん!もっと飲みましょう!!」
「そうですね。…でも、ミラさん。お静かに」
ここは一応酒場とかではないので基本的には会話以外聞こえてこない。
つい、大声を出してしまったミラさんはマスターと来ている客からの全視線を受けて、恥ずかしそうに俯いた。
「マスター、おかわりを。ついでに…何かおつまみを」
僕はミラさんの姿を見て静かに笑った後、マスターに追加注文をした。
その日はどちらも軽くほろ酔いする程度でお開きになった。
「……お酒臭い」
「な…」
翌日、ミルアにそう言われて俺が固まり、ミルアから避けられた事は…まぁ、また別のお話だ。
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