第11話


 



 なんだかんだ…1週間が経過した。短かったような長かったような。でも、知り合いには全員王都に行くことは伝えることは出来た。それと、ミルアとの仲も言った。…まぁ、全員驚いた後祝福してくれた。


 これは余談なのだが…ミラさんと飲み行った翌日、ミルアから『お酒臭い』と言われたあと、ミルアは僕から完全にお酒の匂いが消えるまで近寄ってこなかった。…そして、分かったのは快適魔法の一つ、消臭デオドラントを使えばお酒の匂いは取れる事だ。


 少し話は外れるが…この世界の魔法には位が存在している。下から見習い級、初級、中級、上級、超級、聖級、王級、神級となっている。

 冒険者の魔法使いで例えるなら、ミスリル以下が初級から中級でミスリルやアダマンタイトの冒険者は上級から超級、オリハルコンが聖級らしい。

 王級なんて今までの歴史で二、三人居ただけ。…神級なんてもってのほか、本当に存在してるのかすら分かんない。しかし、この世界には神が存在している。その神様が神託で存在を証明しているため存在していないわけではない。


 …そういえば、ミルアのあの血液をいろいろなものに変化させる魔法は…種族固有の魔法なのだろうか?


「レオ、依頼主が来た」


「ん?」


 話を戻そうか。…僕たちは今、街の入り口で一人の商人を待っている。

 組合の依頼で商人が王都アルフィリアに行くまでの護衛任務だ。安全な道を行くので報酬としては安いが…今は関係ない。


「あなた方が私の依頼を受けてくれた冒険者ですかな?」


 2頭の馬車と共にやってきた今回の依頼主で商人のイラードさんだ。


「はい、僕とミルア。二人です、ランクは僕の方がゴールドでミルアがシルバーです」


「シルバー冒険者のミルアです」


「おや、わざわざゴールド冒険者がこのような安全な依頼を受けてくださるとは」


「実は僕たち、王都アルフィリアに用があるのですよ」


「聞いてもよろしいですかな?」


「はい、実は僕がミスリル冒険者の試験を受けに行くために王都に行くのですよ」


「おぉ、それは良い事ですな。合格できるように祈りますね。…さて、そろそろ出発しましょうか」


「えぇ、そうですね」


「馬車の後ろの方でしたら乗ってもらっても大丈夫ですよ。…あぁ、一つ。中にあるのものを盗んだ場合警報魔道具が発動する仕組みになっておりますので」


「そんな事はしませんよ。ミスリル冒険者になる前に牢屋行きです」


「それもそうですな。…乗りましたかな?では、出発しましょう」


 馬車がガラガラと音を立てて進み始めた。何事もなく平和に王都まで行けますように…



 ◆



「ふと、気になったんですがお二人はどういうご関係で?」


 太陽の光が温かく降り注ぎながら馬車に乗っているとイラードさんがそう質問してきた。…ちゃんと警戒してるからな?


「僕とミルアは夫婦ですね」


 ちなみに出発してから既に6回、他の馬車や人と出会っている。人通りが多いなぁ、と感じたよ。


「おや、全然気が付かなかったですね」


「夫婦と言ってもつい最近結婚したばっかりですから」


「新婚なんですね。私にも妻と娘は居るのですが…こうして各地を飛び回ってると中々一緒に居られる時間が取れなくて愛想を尽かされそうで不安ですよ。気をつけた方がいいですよ?」


「教訓になります。…イラードさんは何処かにお店を持ってたりするんですか?」


「えぇ、王都にありますね。まだ一店舗目ですが」


「それでも凄いですね。王都アルフィリアに店を構えられるというのは」


「これも妻の応援のお陰です。部下も居るのですが目利きが出来る者、となったらそんなに居ないのが少し大変ですね。なので私がこうやって各地に足を運んで居るのですよ」


「それは大変ですね…王都アルフィリアには滞在するつもりなので利用させてもらっても?」


「えぇ、是非我がイラード商店をご利用下さい。場所は王都アルフィリアの」


「あ〜、すみません。初めて王都に行くものですから場所が」


「それは失礼しました。…イラード商店、と冒険者組合に聞いてもらえれば分かるかと思います」


「すみません」


「いえいえ、こちらこそ配慮が足らず申し訳ありません。…そういえば、先ほどからミルアさん、でしたか。貴方の奥さんは静かですが、大丈夫でしょうか?」


「ミルアですか?…えぇ、と…恥ずかしながら寝てますね。これでも敵が来たらちゃんと起きるので安心して下さい」


 僕の腕にもたれかかって、小さな呼吸音を鳴らしながらすやすやとミルアは寝ていた。…


「ははは、今日はとてもいい天気ですからな。寝てしまう気持ちも分かりますよ」


「すみません、うちの妻が。…それにしても、よく馬車で寝られるな、と思いますよ」


「馬車はそれこそ王家が使うよな馬車以外は振動をあまり吸収出来ないですからな。…この道がいかに舗装されていようと時折かなりの振動がくるのですがね…余程熟睡しているのでしょう」


「そんなものですかね?」


「もしかしたらそばに貴方が居るからかもしれませんよ。安心して、という感じで」


 なるほど…そういう考え方もあるのか。…それだったら、まぁ…嬉しいな。


「そうだといいですね…っ!イラードさん、馬車を止めて下さい!」


「っ!!」


 ヒヒーン!と馬が鳴いて馬車が急停止する。


「っ、レオ。敵居る」


 本当に起きた。…いや、今はそれより。


「イラードさん、馬車から離れないでください」


「え、えぇ…盗賊ですか?」


「恐らく、気配が少なくとも10はあります」


 僕とミルアは馬車から降りて周囲を確認する。


「私の目には周りには何も居ないように見えますし…それに、この辺りは平原で見通しも良い。盗賊が襲ってくるなど」


「…っ、来ました。森の方から」


「あれは、馬!?盗賊が馬を持っているなんて」


 木々が生い茂ってる森方向から馬に乗った盗賊がこちらへ武器を持って接近してきてる。


「逃げられないです、なのでここで全員倒します」


「わ、わかりました。…あれは、革の鎧を着ている。一塊の盗賊があんな物を用意できるはずが…それこそ、有名な、帷の狼くらいです」


「もしかしたら奪ったのかもしれません。…ミルア!」


「任せて。土よ、塊となって敵を地から貫け。土の槍」


 ミルアが地面に手を付けながら魔法の詠唱をし、魔法名を告げる。すると、こちらに向かってきている馬に乗った盗賊の真下と前法の地面から土の槍が一斉に生まれ、馬を串刺しにした。


「なんだこれは!?」「避けろ!馬を踏み台に回避しろ!」「魔法だ!!」「まさかこの距離をやられるとはな!!」「ぎゃっ!!」「一人やられた!」


 馬が殺され、身を投げ出された盗賊共は身軽な動きで土の槍を回避して、そのままこちらに走ってきた。…一人は回避を失敗して背中からお腹を土の槍が貫いて絶命した。


「一人だけしかやれなかった」


「馬を殺せたのはお手柄だよ、少し惜しいけどね。ミルアはイラードさんを守りながら僕を援護して」


「レオは?」


「僕は」


 ラルフ爺さんから貰ったアダマンタイト製の剣を鞘から引き抜いて、身体強化系の魔法を発動して構える。そして、言う。


「あいつらを全員倒す、盗賊は生死問わないからね」


「ん、分かった。援護と守護は任せて」


「うん、お願い」


 僕は足に力を入れて、一気にこちらへ向かってきている9人の盗賊目掛けて駆け出した。




だ!!やっちまえ!」「一人でやってきたぞ!魔法使いだけ警戒してこいつを殺せ!!」「この数相手に勝てると思ってるのか!!」


 動きは素人ではない、少なくとも慣れてる奴の動きだ。


 普通に戦えば数の暴力でやられるだろうが…この程度でやられる僕ではない。

 動きも見える、むしろ遅いくらいだ。それに、剣の軌道も分かる。装備とかのお陰で強気に行けてるのだろう。…だったら。


「【流】」


 体と剣を振る動作を最小限に、それでいて全速力、滑らかに素早く敵の弱点を斬るためだけの自己流の剣技。


「なっ、早っ!?が」


 まず一人、喉元を斬る。


「ぎゃっ」


 二人目、足の腱を切ってから心臓を剣で貫く。そして、剣を引き抜いて血が噴き出る前に移動して三人目の背後に回って頸を斬る。

 四、五、六人目何が起こってるのか理解できないうちに首の頸動脈をスルスルッと流れるように切り裂いていく。


「う、ぁあぁぁああ!!な、なんだよ、こいつ!」


 残った二人の盗賊のうち、一人が武器を手放し尻餅を付いた。そして、そのまま僕から離れようとするが上手くいってない。


「…っふぅ、ゴールド冒険者のレオだ」


「に、逃げろぉ…え」


 背後から飛んできた風の刃が逃げようとした盗賊の背中を切り裂いた。ミルアの仕業だ。


「さて、残り一人だ」


「こ、こんな筈では…か、簡単な仕事の筈が」


「仕事?」


 誰かに頼まれてこんな事を?


「っ…おぉぉぉ!!!」


 恐怖を無理矢理捻じ伏せたのか、剣を片手に乱雑に振り回してきた。


「お前らに恨みはない、が…死ね」


「あ…」


 剣を弾いて、そのまま首を斬る。


「…終わりっと」


 剣に付いた血を振り落として鞘にしまう。…しかし、この剣切れ味は凄いな。血や油ごと切ったのに切れ味は鈍らずそのままだった。


 人を殺すのに抵抗はない、既に過去にも殺したことはある。全員盗賊だけどな。



 僕は馬車へと戻ってイラードさんにもう盗賊はいない事を報告した。


「ありがとうございます。…それにしても、お強いですね。動きが見えなかったですよ。……しかし、盗賊の死体をどうしたものか、あのまま放っておけばアンデットになる可能性が」


「ミルア…悪いかもしれないが頼めるか?」


「任せて、ファイアボール」


 ミルアが次々と放った火球が盗賊の死体を骨ごと燃やしていく。…辺りに慣れない独特な臭いが漂い始める。


「うっ…これは中々に」


「あれでしたら出発しましょう。…あ、ミルア、風で臭いとかをこっちに来ないようにとか出来る?」


「多分…出来る。風の刃」


 フワッとした風が死体を焼く臭いを追い返してくれる。


「おぉ、魔法は本当に便利な代物ですな。私はほとんどの人が使える快適魔法しか使えませんから」


「ミルアは自慢の奥さんですよ」


「…レオ、恥ずかしい」


 顔を赤らめてそう言ったミルアに僕とイラードさんは先程までの出来事を感じさせないくらいの明るさでお互い笑った。






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