第9話

 



 鮮血の大賢者。


 鮮血の理由は彼女が戦った相手はそれはもう…身体中から血が撒き散らされるからだ。

 大賢者の方は簡単、どんな魔法でも使いこなすからだ。


 そんな彼女は昔?過去に街を四つも滅ぼしたとある龍を単独で倒したので、その二つ名に更に拍車がかかり有名になった。彼女の名前を知らない人はそれこそ赤ちゃんか誰も知らないような田舎に住んでいる人だけだろう。他にも様々な伝説がある。…死者の王、ワイドキングを倒したり、スタンピードを一人で終わらせたり…などなど。


「これは紹介状だ。これを組合に見せれば試験が行われる日にちを言われるだろう。無くすなよ?」


 サブギルマスが一枚の紙を渡してきた。


「鮮血の大賢者様には魔鉄級ミスリル冒険者以上であれば誰であろうと一度は会ったことのある人だ。かくいう俺も会ったことはある。…一つ、忠告だけしとく」


「…はい」


 そんな真剣な顔されたら怖いんですが…


「見た目について馬鹿にするな」


「…へ?」


 …は?


「俺からは以上。あとは自分の目で見て確かめろ。…そうだ、言い忘れた。何故、ミスリル冒険者になるには王都アルフィリアまで行かないとダメなのか、と言うと規則だ。更に、ミスリル冒険者の証を発行してくれる組合も王都アルフィリアのみにある」


「なるほど…分かりました。…期限とかはあるんですか?」


「いいや、無い。早めに行っておいた方がその分、早くミスリル冒険者の証を手に入れることになるくらいだ」


「分かりました。知り合いに一言言ってから旅立とうと思います」


「分かった。今回呼んだ要件は以上だ。」


「分かりました。では、失礼します。ミルア、行こっか」


「うん」


「あ、言い忘れてた。ミルア、お前は今日より石級ストーンから昇格して銀級シルバー冒険者だ。あとで、発行してもらえ」


「はい」


「…凄いなミルア。シルバーだってよ」


「…嬉しい」


「幼生竜の動きを止めるような拘束をしたんだ。…なんなら金級ゴールドでも良かったのだが流石にストーンからゴールドは色々と不満が言われるからな」


「なるほど…ありがとうございます」


「うん、ありがとうございます。サブギルマス」


「おう」


 ミルアも僕の後にお礼を言い、僕たちは部屋から退出した。


「…ミルア、どうする?いつ、王都に行く?」


「1週間後…とか?レオももう少しその剣を使いこなせるようになりたいんでしょ?」


「…だな。よし、1週間後に王都アルフィリアに行こう。まずは、知り合いに一声かけてから行かないとな」


「うん、まずはミラさんから」


「ミラさんには今夜言うよ。まずは、レイドさんからだ」


「ん」



 ◆



「おぉ!!ようやくか、レオ。おめでとう」


 宿に戻りレイドさんに先程の事を大まかに説明したら祝福された。…ちなみに、今更だけど…レイドさんもミスリル冒険者だ。


「いや、まだミスリル冒険者になった訳じゃないからね?」


「レオの実力なら最早、なったも同然だ」


「まだわかりませんよ…どんな事をされるのか分かりませんし、鮮血の大賢者様にも会わないといけないんですから」


「あの人…まぁ、あれだ。人は見た目で判断してはいけないという文字が擬人化したのが鮮血の大賢者様だ」


「どういうパワーワードなんですか…逆に気になりますよ」


「ま、お楽しみだ。で、1週間後に行くのか?」


「えぇ、そのつもりです」


「なら昼あたりの馬車がいいだろう。一番人も多く似たような目的で道を行き交う奴らが多いから盗賊も手を出しにくい」


「なるほど…分かりました。昼頃に出発します」


「おう。んじゃ、俺はそろそろ依頼に行きますかね〜。お二人はお部屋で頑張って貰って」


「……レイドさん、寝る時、殺されないように、気をつけて、下さい」


「俺を殺すつもりだな!?」


「…ふふふ」


「ミルアも静かに笑ってるな…こぇぇ、何されるんだろ」


「大丈夫、体の血液が無くなるだけ。そう、一滴も残らず」


 …なんか、本気でやりそうな雰囲気があるのは気のせいだろうか?


「そっちの方が嫌だわ!!…さ、さぁて…俺はそろそら行く」


「…えぇ、頑張ってきてください」


「もちろんよ」


 レイドさんが愛用している普通の剣より刀身が少しだけ長い特注品である剣――本人は剣にアルーとダサい名前を付けてる――を片手に出て行った。


「どうしよっか、まだお昼…そろそろお昼だな」


「うん、先にご飯食べて…それから他の人、知り合いに言いに行く?」


「うん、そうしよっか。今日はどこか露店で買って食べよう」


「はーい」


 ミルアの言動は…時々分からなくなる。冷静だったり無感情だったり…そして時々お茶目だったりなどなど…基本的に僕と一緒だとお茶目になったりする。


 まっ、今はそれよりお昼だ。


 僕は硬貨を入れた袋を持ってミルアと一緒に出かけた。



 ◆



「おっちゃん、兎のタレ串焼き。…そうだな、取り敢えず4本くれ」


 銅貨を6枚渡す。値段を効かずとも分かっている。


 ここの串焼きは定期的に買いにいっている。…美味しいからね。おっちゃんとも顔見知りだし…というよりこの街のある程度の人とは顔見知りだ。


「あいよ。……なぁ、レオ。前来た時にはその嬢ちゃんは居なかったが…どんな関係なんだ?」


「ん?嫁さん」


「嫁さん!?お前結婚してたのか!」


「数日前にな…少し訳ありだけど、一応俺とこいつ、ミルアは夫婦だ」


「ん、私はレオの奥さんのミルア」


「おう、よろしくな。…いやぁ、あのレオもついに結婚かぁ。…っと、ほい。兎串焼き4本だ」


「5本あるが?」


「俺からのささやかなお祝いだ」


「お、それは嬉しい。また来るよ」


「おう」


 おっちゃんに感謝を伝えてから串焼き片手に僕とミルアは腰がかけられる場所に移動した。


「はい、ミルア」


「ありがとっ、あむっ……っんん〜、美味しい」


 串焼きを頬張った後、頬に手を当てて嬉しそうにミルアが言う。


「タレと兎のお肉が丁度良く絡み合い、これは…微かに香辛料の香りもする。焼き加減も絶妙でパリッとして噛んだ瞬間肉汁が溢れる。それもまたタレと丁度いい……」


 …本職の方?


「…レオ美味しい!」


「間にちゃんと兎の串焼きって入れようね?…僕が食べられてるみたいになってるから」


「…?あとで食べるよ?」


「飲む、の間違いでしょ?…まぁ、それは宿に戻ってからね」


「はーい。あむ…んんん〜」


 美味しそうでなにより…さっ、僕も食べよっと。



 ◆



「…レオ、血!」


「はい、どうぞ」


 最早慣れたものである……慣れてよいのか?…今更か。


「いただきます。…んむ、コク、コク、コク」


 最近は抱きついて首筋から吸血するのがミルアのお気に入りらしい。…抱きつかれる側としては支えないといけないので色んな意味で大変なのだが。


「コク、コク、コク」


 ちなみに、僕にも吸血されている時に毎回する事はある。それは、ミルアの尻尾を触る事だ。


「んっ…コク、コク」


 ミルアにも事前に言ってある、というよりミルアも触られる事をここ最近毎回やっているせいか理解しているようで怒ったりはしない。でも、強めに握ったら怒る。…ガチの怒りとかじゃなくて恥ずかしすぎて怒るみたいな?


 ミルアの尻尾は触り心地がいい。サラサラとしていて…フワフワ、モフモフしている。…あと、少し面白いのが撫でる度にミルアの体がピクッと動くのだ。ちなみに軽く握ったらビクッとする、


「コク、コク…ぷはぁ、ご馳走様」


 ミルアが吸血し終え、僕の首筋に空いた穴を回復魔法で治す。


「うん」


「……?離していいよ?」


「あ、ごめんごめん」


 つい尻尾を愛でる事に意識が…


「…尻尾、そんなにいいの?」


「え、うん」


「……また今度思う存分触れさせてあげる」


「いいの?」


「うん。触られる側としては…少し恥ずかしいけど」


「恥ずかしいって…どんな?」


「…セクハラだよ?レオ」


「え」



 …獣人族の感性?って難しいんだと再度理解した僕だった。



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