第8話

 



「おーい、新婚レオ」


「レイドさん?新しく貰ったこの剣の試し切りの相手になってもらってもいいですか?」


「じょ、冗談だ」


 部屋でアルフ爺さんから貰ったアダマンタイト鋼の刀身をミルアと一緒に眺めていたらレイドさんがノックもせず部屋に入ってきて、開口一番冗談を言ってきたので僕は剣を構えたら、レイドさんは面白いくらいに慌てた。


「…レオ、いきなり動くのやめて?びっくりした」


「あ、ごめん…」


「レオってあれだよな、尻に敷かれてるよな?」


「うるさいですよ?…それより、なんですか?」


 剣を鞘に仕舞う。ここ数日でこの剣の重量とかは把握して自分の手先のように…とまでは行かないけど満足に振るえるようになった。切れ味も良いということも分かった。


「おぉ、そうだそうだ。サブギルマスから呼び出されてるぜ。聞いたか?」


「いいや?」


「そうか、あと2日以内に組合に来いだってよ。何した?…まー、俺はある程度予想はついているが」


「何した?…うぅむ、思い当たる点といえば、この前幼生竜討伐の時に、眼に深い傷を入れた事かな?」


「あれか、なんで俺が居なかったんだろうな…あぁ、真反対の所で依頼を受けていなければ」


「タイミングだから仕方ない。それより、行ってくるよ」


「レオ、私も行く」


「じゃ、行こうか。ミルア」


「うん」


 剣を腰に差して僕とミルアは最早、慣れたように手を繋いだ。


「ひゅう、お似合いだねぇ。少し身長差があるせいか、父と娘…いや兄と妹みたいな構図に見えるが」


「レイドさん?」


「レイド…死ぬ?」


 ミルアから殺気が…落ち着いて〜?


「ミルア…気にしてるんですよ?」


「す、すまん…お前夫だろ?奥さんの怒りを鎮めておいてくれ。俺は逃げる!!」


「あ、レイドさん!?」


「……レイド、次会った時覚えとく」


「ミルア〜、落ち着こうね?」


 ちょいと強めに手を握るとミルアから怒りのオーラが徐々に、徐々に…収まっていった!


「……うん、よし」


「落ち着いた?なら、組合へ行くか」


「うん」


 …ミルアを怒らせた時は、手を握れば大丈夫なのか?…一応覚えておこう。



 ◆



「やぁ、ミラ。サブギルマス、居る?」


「レオさんですか?話はサブギルマスより伺っています。2階の部屋に居るかと思われます」


「ありがとう」


 受付嬢であるミラさんとは最低でも3年の付き合いだ。時々一緒に飲んだりする。…大抵、ミラさんの愚痴を延々と聞かされるが。


「そういえば、レオさん。そちらの方は?聞こうと思ってて聞かなかったので」


「あぁ、こいつは。ミルアだ、ほらミルア。自己紹介」


「うん、私の名前はミルア。冒険者に成り立て。…レオとは夫婦」


 ミルアは現在石級ストーンの冒険者だ。…まぁ、ミルアなら直ぐに僕と同じ金級ゴールドまで行けると思う。



 ミルアの言葉を聞いたミラさんが目を見開いた。…言うの忘れてたな。


「えっ!?…レオさん?いつ結婚したんですか?あ…お祝いしなきゃ。えっと…レオさん、ご結婚おめでとうございます。…あっ!そうです!今夜飲みましょう」


「お、いいですね。…それと、結婚したと言っても両者合意って訳ではないんですがね…詳しい話は今夜しましょう」


 ここで言うのもあれだ…周りに人が多すぎる。


「分かりました。いつもの場所で」


「了解です。では」


「はい」


「ミルア行こっか」


 僕とミルアは組合の2階に上がる階段へと向かう。


「うん。…レオとあの人」


「ミラさんだね」


「レオとミラって仲良し?」


「仲良し…仲良しって言うより友人かな?親友と友人の間くらいかな?若干親友よりだけど、いや…親友かな?……考えた事ないな」


 なんか、こう…気づいた時には仲良くなってたからな。


「レオはミラ好き?」


「うん、直球だね?もう少し言い方があると思うんだけどね。…で、質問に答えるならなんとも言えないかな?彼女を異性、恋愛対象として見たことは少ないからね、かと言って無いとは言えないからね〜」


「なるほど、この世界は一部の国を除いて基本的に一夫多妻、レオ」


「うん、何を言おうとしてるのか分かるけど…しないからね?そこまで強欲じゃないから」


 それに、平民とかでも二人以上の妻が居るよ〜って人はそうそう居ない。

 二人以上の妻が居るのは大抵は大商人、貴族、王族辺りだ。…王族はもっとか。


「沢山奥さんが居るのは強欲ではない。むしろ、誇ること」


「誇る?むしろ、肩身が狭くなるだけだよ。…それに、僕を好きになった人も居るかもしれないけど、僕の方がその人を好きになる可能性が少ないよ」


「大丈夫、ずっと一緒にいれば好きになる」


「あのなぁ……っと、また後でこの話の続きをしよう。サブギルマスの部屋だ」


「ん」


 深呼吸をしてからノックをすると中から「入っていいぞ」と返事が返ってきた。

 サブギルマスと話したことは…多分ない。緊張はしている…


「失礼します。呼ばれたとレイドさんから聞いて来ました。レオと…つ、妻のミルアです」


 …言い慣れない。というか、初めて言った。


 サブギルマスは書類が軽く30枚は積み重なったテーブルの向こう側に座っていた。ほんと、お疲れ様です…


「レオ?すっと言い切って欲しい」


「よく来てくれた。今回呼んだのは他でもない先日の件の幼生竜だ」


「…やはりそうでしたか」


 予想はしていた。呼ばれる理由としては幼生竜の事かミルア関係の事しか思い浮かばなかったからだ。


「あの時、お前が竜の眼に深い一撃を入れてくれたお陰で他の冒険者が続けるように攻撃してくれた。誰だって一番最初は嫌だからな……お前には感謝している」


「ありがとうございます。…しかし、逆に暴れてしまい危険になったと思うんですが」


「あの程度避けてもらはないとな。ただのたうち回ってる竜の動きなどあの時接近して攻撃を仕掛けた冒険者にとっては簡単に避けれた。そして、ミルアと言ったな?」


 …あの程度避けてもらはないと?中々、大変なことを言いますね?サブギルマス。


「はい」


「竜の動きを止めてくれた事、感謝する。あの束縛が誰によって行われたのか特定するのに時間はかかったが、そのお陰で君だと言うことが分かった。

 あれのお陰でトドメをさせたと言っても過言ではない。

 レオの方は他の冒険者に近接攻撃を続けさせた、ミルアは安全にトドメを刺せる事が出来た、どちらか欠けていたら幼生竜は逃げていた可能性が高いだろう」


「…一ついいでしょうか」


「なんだ?」


「僕の攻撃は、僕じゃなくても他の冒険者が仕掛けてたと思います」


「無理だったな、全員微かに足が震えて緊張、不安、恐怖の感情が伝わって来た。あれでは攻撃を仕掛けようにも仕掛ける事が出来ない。…でも、お前のお陰であいつらから不安などの感情が消え、目に闘志が宿った」


「そうなんですか?…気づきませんでしたね」


 …というより、そこまで気が回らなかった。


「そうか?お前なら気付けたと思っていたが…まぁいい。つまり、お前ら二人のおかげで竜を倒す事が出来た。冒険者組合を代表して、感謝する。

 本当にありがとう」


「お礼を言われるほど凄いことした感覚はないんですが…あの後続けて攻撃も出来なかったので」


「あの場面は避けるのは難しいだろう。なにせ、攻撃をし終えた後、無防備な状態で空中に居たのだからな。…とは言え、避けるのは不可能ではない。お前なら行けるだろう」


「…何故そう思えるのですか?」


「直感だな、お前ならもっと強くなれる、とな」


「はぁ……いえ、ご期待に添えるように頑張ります」


「頑張れよ。…さて、ここに呼んだのはさっきの事ともう一つある」


「はい、なんですか?」


「今回の件での働きは素晴らしかった。よって、金級ゴールド冒険者、レオ。貴公を魔鉄級ミスリル冒険者へ推薦する」


「え…」


「ミスリル冒険者になるには俺の一存で決めることはできない。よって、王都アルフィリアへ赴き…そこの冒険者組合のギルマス、お前も知ってるだろ。

 鮮血の大賢者。…あの方に認めてもらえ」


「えぇぇぇ……まじですか」


 大声は出なかった。…代わりに出た声は不安、驚愕が入り混じったなんとも言えない声だった。


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