第6話


 




「凄いな、ミルア。お前のお陰だよ」


 タコ殴りにされている幼生竜を見ながら僕はミルアにそう言った。


「そう?…なら良かった」


 ミルアの頭を撫でると嬉しそうにする。…手、治ってるな。


「なぁ、手はなんで治ってるんだ?魔法使ってないだろ?」


「吸血族と獣人が持つ特殊能力の掛け合わせのおかげ。吸血族は自動再生、獣人は治癒力が速い。この二つのお陰で私は軽い傷なら自分で止めない限り一瞬で治る。深い傷でも…ものによるけど大抵は10分あたりで治る」


「…強くない?」


「強い、だけどその分代償…というよりデメリットもある」


「どんな?」


「血を多く吸わないとダメな事」


「血を?」


「そう、純粋な吸血族は一回の吸血に数十秒もかけない。数秒で十分、それは必要とする血液が少ないから」


「…?」


「分かってない様子?…私たち吸血族が生きているもののみの血を吸うのは生き血の中に含まれている生気…いわば生命力を吸収するため。

 純粋な吸血族はそれを満遍なく活用することが出来るけど、私のようなハーフはその機能が十分に使えない。だから、沢山飲んで沢山生気を吸収しなければならない」


「なるほどな……デメリットって言ってもそんなにやばい感じゃなくてよかった」


 こう……えーと、月一回動けなくなる、とか?


「でも、ハーフはメリットがある」


「メリット?」


「そう、私の血には獣人族の血が混じってる」


「うん、そな狐耳と尻尾だな」


「そう。そして、獣人族には発情期が存在している。これは獣人によってバラバラだけど、私の場合は3月から4月」


 この世界は主に12ヶ月ある。…まぁ、だから?だけど。使うことなんてそうそうない。…強いて言うなら季節を分けるときくらいだろう。


「今が確か8月だから……ふぅ」


 良かった。…そういう意味を込めて、ふぅ…と息を吐いた。


「…ふぅ?どう言う意味」


「え?いや…特に深い意味はない」


「…どうせ私に迫られなくて良かった、って意味」


「違うよ?」


「……発情期が来たら覚えておいて?…絶対食べる、そう枯れ果てるまで…回復魔法を併用して」


「やめて?」


「ふふ」


 …僕、次の3月から生きてるかな?げっそりしてるかもしれない。迫られたら普通に…負ける気がする。この前ですら……普通に僕のあれ反応しちゃったし。…う〜ん、性欲溜まってるのかな?発散したことないから…なんとも言えない。その辺り得意なレイドさんに聞いてみよ。


「そ、それより…あー、幼生竜がみるも無惨な姿に」


 鱗はボロボロ、翼も穴が空きまくり、身体中から血がダラダラと流れている。その目からは既に光が無くなっている。……死んだな。


 祈っておこう…


 僕は手を胸に当てて目を閉じ、来世ではいい人生を送れるように、殺されないように、と祈った。


「…レオ」


「………うん、危険といえど相手は生き物。それも、竜からしたら子供みたいなものだ。今回は運が悪かっただけでもしかしたら進化して龍になっていたかもしれないからね。…なんてのは、だと良いなという希望論だけどね」


「祈り、それは不可能を可能にするかもしれない謎の力。そう私は思っている」


「僕もだよ、だからあの幼生竜が何かに生まれ変わり新しい生を送れたら良いな、と思ってるんだ」


「私も祈る…」


「うん」


 ミルアも両手を胸に手を添えて目を閉じる。


「…我々の勝利だぁぁぁ!!!」


『うぉぉぉ!!!!』


「………うるさい」


「あはは、祈れた?」


「…多分?祈れた」


「きっと届いているよ」


「うん」


 僕とミルアは互いに無意識に――不思議とそう感じられた――手を繋いで、勝利を喜んでいる冒険者達を見ていた。




 ◆




「領主様より依頼を受けて大至急やってきた!!幼生竜はどこ………終わったか?」


「俺が来たぞ!!わざわざ堕落を貪っていた俺を叩き起こした幼生竜は………あ?」


 なんともタイミングが悪い。


 前者は言っていたように領主様の兵だ。かなり質の良い武具を装備している。

 後者は…ギルマスだ。説明不要、よし!


「…これは、騎士様ですか。すみません、応援を要請しましたが私たちが先に終わらせてしまいました…」


 サブギルマスが兵士達の先頭に居た人と会話している。


「倒せたのか」


「えぇ、死者ゼロ。負傷者は数名居ますけど」


「…幼生竜相手に死者ゼロか」


「今回、あの幼生竜が戦闘にも慣れておらず、更にブレスも吐いてこなかったためです。幸運でしたね…」


「そうだな。今回の事について領主様が少し話をしたいとのことだ」


「でしたら、組合にある一つのパーティを共にしても?彼らがこの幼生竜の第一発見者ですので」


「分かった、全員聞いたか!幼生竜は勇敢な冒険者達によって討伐された!我々のすることは最早ない!帰るぞ!」


『は〜い』


 なんとも気の抜けた兵士達である。


「では、ヴィルバー殿」


「えぇ。…っと、その前に一つだけ」


「ん?」


「冒険者達にですよ」


「なるほど、わかった」


「ありがとうございます。…コホン、冒険者諸君!ご苦労だった!今回の危機、君たちの手によって街の平和は守られた!!そして、今回討伐した幼生竜は各自協力し街まで運んでほしい!それから報酬だ!…盗むなよ?盗んだやつは冒険者資格剥奪だ!!」


『はい!!』


 そう冒険者達が返事をした後、持っていた縄などで幼生竜を縛り始めた。


「さて…ギルマス?」


「あ?」


「…あなたもこっちですよ」


「ちょ、俺もか!?」


「当然ですよ、知らせたのにすぐ来なかった。この件は領主様にきっちり報告させてもらいます」


「あ、待て!おわぁぁ!!!!」


「さて、行きますか」


「分かった」



「…レオ、あれは?」


「ギルマス、顔だけ覚えとけばいいよ。強さだけが取り柄だから」


「分かった」


 …言いたい放題である。まぁ、実際そうなのだが。


「ミルア、帰ろうか」


「うんっ」


 大切な剣は折れちゃったけど幼生竜は倒せたので良しとしよう。


 僕とミルアは手を繋いで、一応周囲の警戒をしながら周りの冒険者と幼生竜の死体と共に街へと帰った。











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