第46話 募る

「はい、ということでね。直哉の雑談チャンネル〜。あ〜、もうね、俺は、今日は休もうかと思ったのよ、マジで。ショックがでかすぎて。あ……ちょっと待ってね、鳴らしてないわ」


 いつものジングルを鳴らす。


「『どした?』って? 心配してくれるの、aikoちゃん。うれしー。もっと心配してよみんな。あ〜、ありがと、ありがと。ホントにみんなに助けられて俺があります。感謝だわ。今、もうね、生きててよかった〜俺。って心から思ってる」


 直哉は、祈るように指を前で組む。


「俺、殺されてきた」

短く言って、組んだ手に額をつけうつむく。


 コメント欄がザワつく。


「中に入ってきたの?」

「殺されたってことは、見つかったってこと?」

「えー、映像ないのかよ?」

「自分が殺されてる動画とかあり?」

「あったらすげえよな」

「いや、それは尊敬するわ」


 尊敬か。それは悪くないな。そう思いながら、直哉は顔を上げた。


「撮れたの。動画」


 またコメント欄がザワザワする。


「俺が殺されるとこ、ホントに見たい? あのね、ショック受けるよ? 言っとくけど。グロいから。俺、死ぬほど吐いたから。ホントに流していい? これ流したのバレたら、もう二度とみんなと会えなくなるかもしれないから、周りの人、誰にも言わないでね。視聴数とか登録数とか、もういいから」


 コメント欄は、物凄いスピードで流れる。


 嘘に決まっている。視聴者数や登録数が伸びないのに、あんな恐ろしいことを発表する筈がない。期待通り、数はどんどん増えていく。


 よし。


「わかった。今から動画流すけど、これね、聞いて。俺が撮ったんじゃないの。殺されてるから当たり前なんだけど、俺を殺した男たちが撮ったの。俺はやつらの顔も見てるんだけど、何故か映像に映らないの。だから、何が起こってるのかわかんないかもしれない。でも、実際、ここで、俺は、男たちに殺されてるんだよね。信じられないやつはいいよ、それでも。流していい?」


 コメント欄の書き込みが凄いスピードでアップされていく。


「それと、余りにもグロいとこと、ヤバいとこは、画像処理してるから。そこは了承してよね。じゃ、流します」


 直哉は動画に切り替えた。編集してあるので、それぞれの場面の説明は、字幕をつけてある。最初から、コメント欄は、ザワザワしていたが、直哉が「よし!」と言ってしまった後からの画像は、みんなの想像を大きく超えていたらしい。

 流石に、自分の局部と、腕の切り口はぼかしを入れておいたが、それでも反響は物凄かった。何が一番凄いって、「どうやって撮ったの?」ということだった。


 そうだよなあ、やっぱり作り物に見えるよなあ。


 動画が終わった。


「これが、カメラが捉えた、俺の殺される風景。夢の中のヤツはね、ホントに映ってなかったの。殺されてる時の動画は、ヤツらが、俺の持ってたカメラを向けてたらしいのよ。着てたもの全部脱がされたら、装着してたカメラ、全部バレちゃったみたいで……」


 いつもとは全く違うトーンで話す。


「『殺される』って、俺らが思ってるより、ずっとずっと怖いぞ」


「いや、そうだろ、こんなん怖いにきまってる」

「マジこれはこわい」

「お前逃げられるの?」

「え、逃げられないと、もう一回?」

「そりゃエグいわ」

「なんとかなんないの?」


 そのコメントを受けて、直哉は言った。


「最初に、じいさんが言ってた言葉を思い出したんだ。『捨てる奴』を連れてって、あの宿に連れていけばさ、俺は助かるらしいんだけど……でも、捨てられたいヤツなんかいないよな?」


「捨てられたヤツも3回チャンスあるんだろ?」

「そーだよ、もっと上手いやついないの?」

「もしくは、死ぬの体験したいヤツな」

「グロっ!」

「ヤバっ!!」

「お前一緒に行って実況な」

「うわー、これ撮るのマジないわ」

「誰かいねえの?」


 そんな無神経で、他人の命など所詮他人事と思っている奴らが、どんどん他のヤツらをあおる。


「僕が行く」


 そう言ったヤツがいた。


 待て待て待て、マジか??


 直哉は、そいつの捕まえ方を考えた。まさかそんなことを言うやつがいるとは思わなかったので、考えてなかった。


 思いついて、紙にアドレスを書く。


「おい、さっきのヤツ、行きたいって言ったヤツ、必要だと思う情報書いて、ここにメールしてきて。他にも行きたいやついたらメールしてきてよ。でもイタズラメールはやめとけな。ホントに殺されるぞ、お前ら。いいな!」


 どうせアドレスはフリーメールだ。イタズラメールが山ほど来ることなど想定内。画面上からアドレスを隠すと、大抵のやつは、そこでわからなくなる、筈だ。


 早速メールが来始めた。


「5分以内。それ以上は待たない。読み上げもしない」


 そう厳しい口調で言うと、一変、いつもの口調に戻した。


「はい、そういうわけでね、今、メールがじゃんじゃん来てるね〜。そんなに死にたいのかねえ、みなさん。あはは。まあいいや、これから俺は、このメールの山、読まないといけないからさ、一旦配信止めるね〜〜。結果は、そうね、今夜25時な。カッコよくね?『25時に!』再度配信しま〜す。みんな、起きててね〜」


 そこまでで、直哉は配信を一旦止めた。


「さて…、それまでに、こんだけのメールを読まないといけないのか。こりゃ大変だな」


 直哉はため息をついた。

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