第43話 インタビュー

「さ〜て、始まりました、直哉の雑談チャンネル〜!! いつもご視聴ありがとうございま〜す」


 興奮しているので、ジングルを鳴らすのも忘れかける。


「なんとなんと、今日はですね、特ダネですよ〜。昨日のお題、『夢』でしたよね。覚えてます? 俺、あの夢、昨日また見ました!  『井戸の夢?』ちゃうわ。女這い出てこねえわ。そう、そうそう、mikiちゃんよく覚えてた! 『曲がり角の夢』ね。あれさ、俺、動画、撮ってきちゃいました〜!!」

沢山のコメントが一気に流れる。まずまずの反応だ。

「反応いいね〜、皆さん。え?  見たい?  あやぴょんも見たい?  ひ〜やんも?  しょうがねえなあ、じゃ、いくよ〜」

直哉は、録画し、編集した動画に画面を切り替えた。


 皆の反応は意外だった。

「フツーの曲がり角じゃん」

「そのへんで撮れるじゃん、これ」

「夢の中って証明できるの?」

「人とかって出てこないの?」


 ……そうか。夢の中の風景って言っても、実際こんなとこあるし、区別つかないよな。


 動画は2分位に編集してあった。


「いやいやいやいや、違うのよ。ね? ね? リアルでしょ? とても夢の中で撮ったとは思えないでしょ? いやさ、俺もびっくりしたもん。夢の中で見た風景、こんなに綺麗に撮れるなんてさあ。ちょっとちょっと、みんなさあ、焦りすぎ。焦りすぎだって。ミワちゃん、ピヨ太、待って。聞いて、聞いて聞いて。起きる寸前だったから、動画では見切れてるんだけどさ、俺、ここで、変な奴見たのよ。黒い影みたいな奴に、睨まれたの。それが何なのかわかんないでしょ? それに、さっきの裏口ね? あそこもさ、何かありそうじゃん? 今度は、そっちも撮ってくるから。」


 そこからいつもの雑談コーナーが始まった。話題は、直哉が撮ってきた動画の話に偏っていたけれど。


 

「どうやったら皆に信じてもらえるのかなあ……」

 そう思いながら、直哉は今夜もポケットにスマホを入れて眠った。



 ラッキーな事に、今日も曲がり角の前だった。よし。直哉はポケットからスマホを出して、動画モードにする。


「さて、今日も、ここに来ております」

そう言って、周りをグルッと映す。

「今日はですね、ここ」

裏門を映しながら、

「ここから、中に潜入してみたいと思います」

そう言ったものの、中から誰かが出てくるかも知れない。とりあえず、直哉は、そおっと2回ノックしてみた。何の反応もない。

「誰も出てきません。では、中に入ってみましょう」

キィと軋む音がして、直哉は門の中に入った。

「飛び石と、白い玉砂利。綺麗な庭です。この先に引き戸があります。開けてみたいと……」

そこまで言って、背後から声をかけられた。

「うわっ!!」

「ここで何をしている?」

目の前に、老人が立っている。直哉は、老人にスマホのカメラを向けた。

「イ、インタビュー、しても構いませんか?」

「勝手に入ってきて、その態度は何だ? とりあえず、出ろ」

直哉は老人につまみ出された。


 負けじと、カメラを老人に向けたまま問いかける。

「この夢をずっと見続けるんです。どうしたら見なくなりますか? ここの建物はなんですか? この曲がり角の先にある、あの屋台みたいのはなんですか?」

「一気に沢山聞くな、お前」

老人はため息をつく。

「まず、お前さんは『迷子』だ。お前さんは令和4年の人間だろう?」

「え?  ええ。今は、令和4年ですが」

「ここは、昭和40年だ」

「え?  マジで?  まさかのタイムスリップ??」

「そして、お前さんは今、夢の中だが、こっちは現実の世界だ」

「え?  何?  ねじれが起きてるってこと?」

「頭が柔らかいな。そういうことだ」


「この建物はなんですか?」

「宿だ。宿の裏口だ。わかったら帰れ」

「帰り方がわからないんです」

「ふむ……。向こうの屋台を見たと言ったな」

「あ……はい」

「ヤツに見つかって気に入られるとな、逃げられんのだ」

「え? マジで? 逃げられんてどういうこと?」

「ずっとずっと、この夢を見続ける」

「え〜、それは流石にイヤだわ。逃げる方法とかないの?」


 老人は、ハァと、またため息をついて言った。

「どいつもこいつもだな……」

「え?」

「こっちの話だ。……逃げる方法はな、2つある。1つは、お前自身が、この宿の中を通って、誰にも見つからずに、表玄関までたどり着き、そっちから脱出することだ」

「えっ? すげえ簡単じゃん。ってか、見つかるとどうなんの?」

「そう簡単なことではない。声を上げてもいかんのだ。見つかったら、お前さんは肉と骨にされる」

「げ。マジか? でも夢の中で、だろ?」

「夢から迷い込んだ者には3回チャンスがある。ただ、3回目失敗すると、現実でも同じことが起きる」

「うぉ。ゲームみたいだな」

「そんな軽い気持ちで考えていると、凄く後悔することになるぞ。肉と骨になる自分を想像してみろ」

「グロいねえ」

「肉は、通路の向こう側で待っている男が調理して、お得意様に提供する」

「うっわ。食うの? ヤバっ。カニバリズムかよ。この時代にそんなもんあったの?」


「お前さん、真面目に聞いてるのか? わしがこんなに丁寧に説明してやってるのに」

「悪い悪い。それで、2つ目は?」

「捨てたいヤツを連れてくることだ」

「『捨てたいヤツ』?  俺が消したいヤツってことか?」

「そうだな……。まあ、消したいやつ、……お前の代わりに消えたいという奇特なヤツでも構わないがな。」

「物騒な話だな、おい」


「まあ、どちらを選ぶか、よく考えることだな。どちらかが成功するまでは、お前さんは、この夢を見続ける」

「ふ〜ん、そうなのか」

「……ま、どっちにするか決まったら、この門を4回叩け。」

そう言うと、老人は中に入り、門を閉めてしまった。


 と、同時に、直哉は夢から醒めた。

「上手く撮れてるかな?」

ワクワクしながら、動画の確認に入った。



「今回は、随分と丁寧に説明してやったじゃないか」

「頭が悪そうだったしな。それに、急がないと。もう12月だ」

「そうだな。サッサとやっちまうか」

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