二人

第33話 二人

「客をそんなに連れてきては、間に合わないぞ?」

「評判がいいのだろう、予約制にしても、いつも満席だ」

「まあ、4席しかないからな」

「しかし、都合のいい場所があったものだな」

「元々、歪みがあったのだ。ここは、『令和4年』と『昭和40年』が繋がっている。夢と現実の間でな」

「まさか女将が交渉に乗るとは思わなかったが」

「全くだ。金が全てなのだろう。客の命よりな」


 しばしの、二人の休憩時間だ。

 客には出さない端肉を二人してつまむ。


「スープもあるが」

「おお。貰おうか」

「こないだの男の骨のスープだ。骨についていた肉の脂が、ちょっとくどくてな」

「いや、今日の寒さには丁度いい」

「それにしても、結局、人間の肉が一番旨いと、何故もっと早く気付かなかったんだか」

「恐らく、もっと前から知ってるやつは知ってたさ。しかし、それはタブーなのだ。わしらの時代でも、禁止されていることではないか」 

「まあな。だから、裏でこうして手に入れることしかできないんだがな」

「しかし、都合のいい通路があったものだな」

「確かに。昭和40年の入口は令和4年の夢の出口、本物は曲がり角までで捕らえねばならん。お前の大事な役目だぞ」

「ははは。たまに逃してしまうがな」

「夢から来た奴らは構わんよ。元々空間が自由なのだ。簡単に捕まる」

「そうだな。この前は悪かったな」

「ああ、あの女の時か」

「うっかり40年に実在する女を逃してしまった」

「ふふ。ちょっとだけ歪みができて、女が向こう側に行ってしまったな。すぐ引きずり戻したが、時空の歪みを直す時に、また夢の中から迷い込ませてしまったな」


フフフ、と男は笑う。

新鮮な肉は臭みがなくて旨い。


「お前さん、若い女を狙って迷い込ませているのだろう?」

「そんなことはない。が、やはり若い女の肉は柔らかくていいな。客にも評判がいい。大昔は世界中で子供たちが好まれて食われていたらしいが、さすがにな」

「どこまでが非道でどこからが許されるのかねえ、お前さんの中で」

「ふふふ。……ああ、そろそろ客が来る時間だ」

「お、わしのところにも来客らしい。40年の女だ。こちらに来ないよう、早く行くとしよう」


 男たちは、それぞれの持ち場に戻った。

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