第27話 どうやって?

 瑠奈と南は、夢の中、またあの曲がり角の前に立った。


 門を4回叩くと、老人が出てきた。

「聞きたいことがあるの」

瑠奈がいきなり切り出す。

「また二人で来たのか。変な奴らだな」

老人が呆れたように言うが、構わず瑠奈は尋ねた。

「捨てに来たい奴はいるんだけど、連れて来れないの。方法を教えて」

「人に物を頼むときは、『教えてください』だろうが」

「教えて。何か方法ってないの?」


「なくは、ない。が、ただでは教えられん決まりだ。それでも聞きたいか?」

「何? お金がいるの?」

瑠奈と南は困って顔を見合わせる。

「いや、金ではない。お前さんたちどちらかの『肉』だ」

「また、ここへ入って殺されろと?」

「そうだ」

「そしたら、教えてくれるの?」

南が言う。

「どちらかが入り、肉にされる。もう片方が、あの屋台の主人に、その肉を持って、聞きに行け。そうすれば、奴が教えてくれる」


 ゾッとした。殺されるのも、友達の肉を食べてくれと持って行くのも怖すぎる。


「あたしが行く」

南が言った。瑠奈は慌てる。 

「待って、あたしが行くよ。あたしなら、中に一回入ってるからさ、中の様子はわかってるし」

自分の夢の中で、親友が殺されるなんて耐えられない。

「あたしが行ったほうがいいじゃん。瑠奈、一回殺されてるから、おあいこじゃん?」

「いや、おあいこって、意味分かんないわ。やめてよ」

「それに、あたしは、屋台の男にみつかってないわけでしょ? なら、私がこの夢につかまっちゃうってことはないじゃん」

「……それは、そうかも知れないけど……」

「とにかく、あたしが中に入るから、あたしの肉を持って、瑠奈は、アイツから方法を聞いてきて」

「わ……わかった」


「中に入って、見つかって、殺されてくればいいのよね?」

南は、簡単そうに、老人に言う。

「まあ、そうじゃが……。お前さん、怖くはないのか?」

「んー。殺されたことないからねえ。まあ、夢の中だし、ホントに死ぬわけじゃなし、何とかなるでしょ」

「随分、簡単に考えとる。後悔することにならんといいがな……」


「じゃ、行くね。瑠奈、あとでね〜」

「う、うん」


 南は、靴を脱いで、そのまま中へ入っていった。殺されるために入って行くのだ。靴を下駄箱の鍵と交換する必要もない。



「さ、どこでみつかろうかね」

廊下の前に立って独り言をいう。


 次の瞬間、バタバタバタッと音がして、男たちが現れると、南の口に何かを突っ込んだ。

「早っ!」

南がそう思った次の瞬間、腹を強く殴られ、気を失ってしまった。


「こいつ、随分簡単に見つかったらしいぜ?」

「かくれんぼが苦手なのかもな」

 男が二人、笑いながら話しているのが聞こえる。手首と足首が痛い。縄で縛られている?チクチクするし、ギリギリと締められてくる。

「ウウウウ……」

痛みでうめくと、

「お。気がついたか。馬鹿な女」

男の一人が馬鹿にして笑った。

「この前の女みたいに、気絶してれば痛みも感じなかったのになあ」

痛くても一瞬だ。早く殺せ。そう南は思う。早くこの痛みから解放されたい。


「じゃ、お前の痛がる顔、楽しませてもらうとしようかね」

男たちはそう言うと、大きな斧のような刃物を、南の腕に振り下ろした。


 ザクッ!バキバキバキバキ!メリメリ…ドスッ


 右腕がもぎ取られる。信じられないほどの痛みが、南をつらぬく。

「ゔゔゔゔゔゔ……」

「いい顔だねえ〜。」

男たちは笑いながら、左側ももぎ取った。


「厨房からだ。すぐ使いたいから、早くバラしちまえってよ。」

若い方の男が言うと、

「なんだよ、もっと楽しませてくれよ〜。」

と大柄の男が言っている。

「早く殺してくれ! 早く!! 痛い痛い痛い!!」

叫んでも声は出ない。

「ヴヴヴヴヴヴ……」


「どうせだから、足も外しとくか」

「そうだな」

「どっちからの足がいい?」

「ヴヴ……ヴヴ……」

「そうかそうか、右足かあ〜。ほれ!」


 ザクッ!ザクッ!ザクッ!!バキバキッ!メリッ!…………


……南は、気を失った。そのまま息絶えた。



 外では、瑠奈が、「南の肉」を待っていた。考えたくもない。夢であってもこんなことは……。

「どうして……どうしてこんなルールなの?

酷すぎるでしょ?!」

「お前さん一人なら、わしが持って行くところなんだがな。お前さんら、二人で来たからな。決まりは決まりだ。仕方がない」


 そうしているうちに、老人が裏口に呼ばれた。手には、皿を持っている。

「ほれ、これを持っていけ」

薄い紙で覆われているので、直接は見えないが、赤い血が染み出してきている。

「……南の……肉……」

吐きそうになりながら、涙も止まらない。今、自分が持っているのは、殺された南の肉なのだ。

 

 オエッ、オエッ……ック……ヒック……オエッ、ヒック……


「ほら、泣いてないで早く持っていけ。あいつの死を無駄にするぞ?」

老人にそう言われ、瑠奈は、泣きながら、あの男の所へと走った。

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