第21話 勝ってやる

「夜中の電話なんだったの?」

南が言ってきたので驚いた。

「えっ? 嘘? ……繋がってた?」

「寝ぼけてたの? 曲がり角がなんとか言ってたよ?」

「それ、夢の中からだし……」

「いや、かかってきたし。履歴見てみ?」

南に言われて、瑠奈は恐る恐るスマホの履歴を見る。

「うわっ!!」

瑠奈が思わず放り出したスマホを、南がギリギリでキャッチした。

 

 通話履歴があった。深夜2時。


「嘘……電話したの、夢の中だよ?」

「えー。だって、あたし出たし」

「夢の中で、携帯ショップの前からかけたんだって」

「夢見ながら寝ぼけてかけてきたんじゃない?」

「そうなのかな……」


 瑠奈の中で、あの夢が、段々気持ちの悪いものになってきていた。


「あたし、もう、あの夢から逃げようかなぁ」

「どした?」

「なんかさあ、今朝とか、起きたら凄い疲れてるの。寝た気がしないっていうかさあ」

「あーね。怖い夢とかで、ずっと追いかけられる夢とか見たら、時々そうなるよ、あたしも」

「でしょ?」

「でも逃げる方法ってあるの?」

「うん。あるにはあるみたい。門のとこにいたじいちゃんが、門を4回ノックしたら出てきて教えてくれるって言ってた」

「ふ〜ん。じゃ、聞いてみれば?」

「うん」



 次に曲がり角の夢を見たとき、瑠奈は、なんとなく躊躇ためらいながら、門を4回ノックしてみた。

 老人が出てきた。

「どうした? 怖くなったんだろう?」

「怖いっていうかさ、気持ち悪いし、寝たのに疲れてるし、体調悪くなるから、もう見たくないんだよね、この夢」

「そうか」


「逃げられるって言ったよね?」

「そう……じゃな。……お前さんには、死ぬ覚悟はあるか?」

「はあ? なにそれ? あるわけないじゃん。そんな大変な感じ?」

「かくれんぼは得意か?」

「いや、言ってること全然わかんねーわ。見つかったら殺されますよ、ってか?」

「飲み込みが早いな」

「いや、なにそれ? マジで意味わかんないんだけど」


「この宿はな、ちょっと特殊な宿でな。ことがある」

「知られたら捕まったりしちゃう……みたいな?」

「さあ、どうなるのかな」

「何やってるのか、あたしが喋らなきゃいいことなんじゃ?」

「無理じゃな。お前さんは喋る」

老人はキッパリ言った。


「誰にも見つからず、何も見ようとしたりせず、表玄関まで逃げろ。そこで靴を履けたら、お前さんは自由になれる」

「それだけでいいの?」

「逃げられると思うか?」

「見つからなきゃいいんでしょ? 殺されるったって、夢の中だし。目が覚めたら普通の生活でしょ?」

「夢の中からここにきた迷子はな、2回だけやり直しがきく」

「ふーん。あたしが3機あるってわけね」

「3回目に失敗すれば、残念だが、現実でも夢と同じことが起きる」

「隠れるところってあるんでしょ?」

「使われてない部屋もあれば、布団部屋、柱の陰なんかもあるがな……」

「なら、いけるんじゃない?」

「ただな……、何を見ても聞いても、声を出してはいかん。声を立てるとすぐに見つかって殺されてしまうんじゃ」

「声出さないのは難しそうなルールだね」


 マップがないので、作戦が立てにくいなあ、と思う。

「どこに何があるか教えてくれない?」

「それはできんのだ」

「そっか。じゃあ、行くしかないか」

「これから行くのか?」

「ダメ?」 

「いや、構わんが、一度夢から覚めて、心の準備ができたら、またこの門を叩けば……」

「なんでよ、めんどくさい。今から行く」

「……そうか」

老人は瑠奈に靴を脱ぐように言うと、一旦中に入り、下駄箱の鍵を持ってきた。

「表玄関の靴箱に、この鍵を差し込め。そこまでできたら、後は、堂々と正面の暖簾をくぐって出ていくことができる」

「そしたら、あたしの勝ち?」

「勝ち、というより、この夢は見なくなる」

「よっしゃ。やってやろうじゃないの」

瑠奈は、鍵を握りしめ、裏玄関から入って行った。


 

「若い女の肉も悪くないな」

「お前が呼び寄せたんだろう?」

「さあな。また時空が歪んだだけじゃないのか?」

「あの客どもにも困ったもんだな……」

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