第10話「『普通に』論」

 今日は最近気になる言葉について。

 前回の続きで動詞のお話をしようと思ったけど、ふと頭に浮かんで書きたくなったことを書こうと思う。


 このエッセイをお読みの皆様は『普通に〜』という表現をお聞きになったことがあるだろうか。お使いになったことがあるだろうか。

『普通におもしろい』『普通においしい』『普通に上手』などなど。

 最近よく聞く言葉だけど、これの意味って何なのだろう。果たして褒めているのだろうか。

 というのも、少し前に大学の授業に学部生の見学があった。私の所属する大学は学部生向けの日本語教育の授業があるため、1学期に1週間ほど学部生が課題の一環として授業見学に来るのだ。私も学部生の時分に見学させていただいたのを覚えている。8年後に見学した授業の先生と同僚になり

 

「シンドー先生、私の授業来たことありましたよね?」

 

 と言われて度肝を抜かれたりもした。K先生、よく覚えてたな……。

 

 さて、この授業見学をした学生は見学した授業の感想をプリントに書いて提出するわけだが、何も考えずに授業を取っている学生の感想はびっくりするくらい薄い。そしてつまらない。お前、なんの自信があってそんなに上からなの?と言いたくなるような偉そうな感想もある。基本的に時分の授業の長所と短所を教えてもらえるプリントなので楽しみ半分、不安半分なのだがそういった感想が来ると大層テンションが下がるというもの。

 私の授業ではないが、先日の授業見学で他のクラスの先生が受け取った感想には

 

「普通にわかりやすい」

 

 と書かれていて講師室で同僚皆で唖然とした。まさか、本人はこれを褒めているつもりなのだろうか?であれば、この学生はこのまま社会に出たら痛い目を見るだろうなと感じた。


 つい口を突いて出る表現だが、私が使う際の意味合いは『通常より下だと思ったものが、実際には普通程度のものだった。想定外』というもの。例えばこのように。

 

「天気予報では最高気温20度で肌寒いと言っていたのに、実際には27度になった。普通に暑いじゃん!」


 いつ頃からこの表現を使うようになったのかはわからないが、私はこのような意味合いで使っている。

 そもそも褒めるのならば『わかりやすい』だけで十分なわけで、なぜ『普通に』を付けてしまうのだろう。個人的には『言い切り』の表現が苦手な日本人気質によるものではないかと感じている。

 日本語教師は学生たちに誤解なく伝えるためハッキリと話す人が多いように思う。そしてこれでも言語学者の集団なのだ。この感想を読んだときには『これはどのような意図で記入した表現なのだろう?』と検証する会が始まってしまった。私の務める大学の場合はね。


 これをお読みの皆様は『普通に』をよく使うだろうか。周りの人間の何気ない言葉が気になったら、あなたには言語学者の素質があるかもしれない。

 失敬。


 今回は短め。ご意見やご感想があればコメントを頂けると幸いです。

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