第18話
その後ミンに無理を言って、僕とジョンはなんとか退院ということにしてもらえた。頭の包帯は……ジョンは外れたけれど、僕はまだ巻かれたままだ。激しく動かすと痛みを感じるから、本当は安静にしていた方がいいんだろうことは分かっている。それでもみんなが王子を助けに向かう中、僕だけ病院のベッドで寝ているだけだなんてそんなのは嫌だった。ジョンは傷の治りが早いようで羨ましい。すでに平然と歩ける状態にまで回復しているようだ。
「で、王子を助けに行くと言っていましたが、場所は特定できているのですか?」
今は病室を出て、病院の廊下を歩いている。僕のすぐ前を歩くサンが、きっと僕ら全員に対してだろう、疑問を投げかけてきた。しかしその問いかけにはっきり自信を持って答えられる者はいない。僕らが全員押し黙ってしまったのを見て、サンは呆れたように溜息をついた。
「誰も分かっていないんですね。そんなのでよくまあ助けに行こうとか言えましたね」
「だって、これから作戦会議しようって時にサンさがやってくるから……」
先頭を歩くミンがいじけたような声音で言う。
「おや、それはつまり私のせいだと言いたいわけですか?」
「別にそこまでは……。サンさを悪者扱いしたいわけじゃないだすけど、それで話が逸れちゃったっていうだけで」
「……まあ、事情を知らなかったとはいえ割り込む形で来たのは事実ですからね。その点に関してはすみません、としか言えないです」
僕からは後ろ姿しか見えないが、謝罪を口にした後にサンのしっぽが悲しそうにだらんと垂れたような気がした。
で、今どこに向かっているかっていうと、ミンの家である。サンに指摘されたように、現段階では僕たちは誰一匹として王子の攫われた場所を特定できていないので、王子救出大作戦という名の話し合いを行うためだ。王子の護衛として出かけたはずなのに肝心の王子がいない状態で王宮に帰ったら、きっと国王様の部下であるお堅そうな貴族方から色々と聞かれたり嫌味を言われたりされるに違いない。さらに王子が誘拐されたことが国王様の耳に入れば僕やジョンはクビになってしまう可能性もある。そんな最悪の事態は避けたかった。
病院の外に出ると、空気が澄んでいておいしい。ここからミンの家まではぶっちゃけ隣なので目と鼻の先である。さて、と一歩踏み出した時、突如ユンが声を上げた。
「アレ? なんか、誰か倒れてナイ?」
そう言って彼が前足で示した方向に目を向けてみると、僕たちが今いる病院の出入口からそう遠くないところに一匹のにゃんと思われるかたまりが倒れているのが見えた。
「今日はどうしてこんなに
ミンが重々しい溜息を吐いて頭を抱える。まあその行倒れのうちの二匹って、ここにいる僕らなんですけれどね。
それでもやっぱり見て見ぬふりはできないあたり、僕らはとってもおにゃん好しなのだろう。倒れているにゃんに近づいてみる。纏っているフードはぼろぼろで、ところどころ破れていたり穴が開いていたりする。そのフードから見える毛もひどく汚れており、そしてひどく痩せた体をしていた。
「これ、もう死んでるんじゃ……」
「なんてこと言うんですか、まだ分からないでしょう?」
縁起でもないことを言うジョンをサンが叱る。
とりあえず意識があるかだけでも確認しないと。そう思った僕は倒れているにゃんにそっと声をかけた。
「あの……大丈夫ですか? 声聞こえてますか?」
すると、わずかにだがそのにゃんの耳がぴくりと動いた。
「う……」
辛そうに呻き声を上げたが、どうやら意識はあるみたいだ。ならば今のうちに、もっとひどい事態にならないうちに、何とか助けてあげなければ。
「まだ生きてるみたいだすね。とにかく中へ運ぶだす」
ミンが、ひょいとそのにゃんを自らの背に乗せる。幸い病院は目の前だ、急いで処置を施せば命は助かることだろう。そういうわけで、僕たちは病院内に逆戻りとなった。
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