第17話
どうしてサンがここに? 何で病院にいることが分かったのだろう?
様々な疑問が生じたのだが、それはどうやら他の三匹も同じらしい。みんな驚いて目を丸くしている。鏡を見ていないので分からないが、きっと僕も同じ表情をしていることだろう。
「はあ……はあ……。やっと……見つけました……」
喋るのもやっとなくらいに浅い呼吸を繰り返すサンを見たら、ものすごく急いで来たのだろうことが窺えた。
「サンさ、どうしてここに? いや、とりあえず先に座るだす。大丈夫だすか?」
「いえ、お構いなく……。それより、はあ……ソンさん。おう、じは……?」
ミンの気遣いをやんわりと断った後、サンは僕に問いかけてきた。見つけた、というのは僕のことを言っていたのかな。それよりここで王子について聞いてくるということは、今のところは王宮内に王子の誘拐の件は伝わっていないと考えていいのだろうか。
「王子はここにはいないけど。サン、どうやってここまで来たの? どうして僕が病院にいるって分かったの?」
「王宮の、どこを探しても姿が見えないから……まさかと思って色々な方に話を聞いて、ここまで辿り着いたって感じです……」
「そ、そうなんだ。えーっと……で、用件は何?」
正直聞きたいことだらけだったので、さっきから質問ばかりの僕。
すると心なしか、サンの目の色が変わったように思えた。眼鏡の奥できらりと目を光らせた彼は「そうなんですよ!」と言って、僕のベッドの方へと歩み寄ってくる。先程まで疲れ切った様子で立っているのすらやっとに見えていたのに、しっかりとした足取りでこちらに向かってきたので少し驚いた。
「ソンさん。一体王子をどこに隠したんですか。勉強の時間だというのに、どこにもいないんですけれど。まさかさぼったんじゃないでしょうね?」
ん……? えっと、まさかサン、勉強の時間だからって理由でわざわざ王子を探しにここまで来たんじゃないだろうね。
「全く。困りますよ、さぼり癖がついてしまったら。今までこんなことなかったというのに」
はあ、とサンは大きく溜息を吐いた。
いやいや、待って。まず何で僕が疑われているの? 確かに王子は勉強嫌いではあるけれど、さすがに王宮を飛び出してまでさぼろうとするお方ではないと思うよ。普段から出不精なうえに、今まで一度もなかったことなら尚更ね。
「……サン、心配して来てくれたんじゃないの? もしかして用件ってそれだけ?」
恐る恐る尋ねてみれば、さも当然というようにサンは大きく頷いた。
「ええ、そうですが。それだけとは何です? 王子を将来立派にするためにも、知識は必要でしょう。大切なのは日々の積み重ねですからね」
あまりにもはっきりと言い切ったので、僕は頭を抱えてしまう。仕事熱心なのはいいことだけど、なんかちょっとずれている気がするんだよなあ。頭痛がひどくなった気がした。
「悪いんだすけどサンさ、今それどころじゃないんだす。もっと大変なことが起きてるんだすよ!」
ミンが慌てたように告げると、サンの眉がぴくりと動いた。
「大変なこと? 勉強よりもですか? それより王子はどこへ……」
「だから、その王子が誘拐されちゃったんだすよ!」
「……何ですって? そんな嘘で私を騙そうというつもりですか、ちっとも笑えないんですけれど」
「嘘じゃないだす、本当だす! こんな心臓に悪い嘘つくわけないだす!」
するとサンはようやく信じたのか、目を見開いて口をポカンと開けたまま固まってしまった。しばらくした後、何とか声を絞り出して彼が問う。
「冗談、じゃないんですか……。一体何が……?」
「うーん。説明すると長くなるんだけど、何から話せばいいのかな」
僕は前足を顎に当て、考える仕草をする。そこへ、上手く説明できず困る僕を助けるように、ユンが口を挟んできた。
「なんか色々大変だったみたいだけど、今はみんなで王子サマを助けに行こうヨって話してたところなのサ。サンクンも一緒に行くカイ?」
いや、そんな「一緒に遊ぶ?」みたいな軽いノリで誘う内容じゃない気が……。
しかしサンは、ユンの誘いに迷うことなくこくりと頷いた。
「もちろんです。我が国の大事な第二王子が攫われたとあっては、じっと黙っているわけにいかないでしょう」
「え!?」
意外だ。サンなら「そんな真似は愚かです」とか言って止めてきそうだと思っていたのに。まさか二つ返事で承諾してくれるとは。そんな驚きから思わず声を上げてしまい、サンにジトッとした目を向けられた。慌てて口元を押さえるも、もう遅い。
「ご、ごめん」
「いいえ。ですが、そんなに驚かれるとは少々心外でした。これでも一応にゃん並みに心はあるんですけれどね」
うう。そこまでのことは思っていないのに。
「それに……あんなわがまま王子でも、一応大事な主ですから。心配くらいしますよ」
その言葉に、はっとなる。普段王子と勉強しろ、したくないだの言い合いを繰り広げてばかりのサンだから、てっきり王子に好感は持っていないと思っていたのだ。そして同時に感動を覚えた。サンを含め今この場にいるにゃんたちは、みんなが王子の無事を祈っている。王子を助けたいと思っているんだ。
よかったですね、王子。貴方は最高の仲間に恵まれたようですよ。
なんだか分からないけれど目頭が熱くなってきたので、僕は前足で目元を擦った。
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