第14話 ミンside

 いやあ、満足だす。いい買い物ができただすねえ。

 今おいらは最高にいい気分だった。せっかくのこんないい天気、しかも今日はちょうどお休みをもらっていたので、趣味の生物標本や新しいスカーフを好きなだけ買えた。


「悪いだすね、付き合わせちゃって」

「別にいいヨ。暇だったからネ」


 隣にいるのは、荷物持ちという名の付き添いをしてくれた友達のユンだ。好きなだけ買ったら一匹では持てないほどの量になってしまったので、助けてもらおうと呼んだ。電話をかけたら二つ返事で来てくれた。我ながらいい友達を持っただす。

 ふと隣を見たら、ユンがじっと恨めし気な目でおいらの買い物袋を見ていた。


「いいネ、お金がある奴は好きなだけ買い物できてサ」


 こういう時、何て返せばいいのだろう。ユンの家はあまり裕福ではない。生活が苦しいことはもちろん知っている。これでもおいらとユンは王宮で働く前からの仲なのだから。

 おいらが押し黙ってしまうと、ユンはすぐに困ったような笑顔を作った。


「ごめんヨ。困らせるつもりなかったネ。別にミンのせいじゃないもんネ、こればっかりは仕方ないことダヨ」

「……でも、確かにユンみたいなにゃんからしたら、おいらって贅沢なんだすよね。仕方ないけど仕方なくないっていうか」

「ウーン……。じゃあ、そんなこと言うならボクの用事にも付き合っておくれヨ! 荷物持ちしてやったんだカラ、それぐらい安いデショ?」


 先程の困り顔から一転、にやりと意地悪そうな笑みを浮かべてユンが言った。こちらの都合で急に呼び出したのは事実だから、おいらは何も言い返せない。小さく息を吐いてからおいらはこくりと頷いた。


「分かっただす。で、どこに行きたいんだすか?」

「本当カイ!? ベリベリサンキューヨ! あのネ、今日は市場でサーモン安売りしてるって聞いたネ。こんなチャンスないから絶対行きたいと思ってたのサー!」


 おいらが肯定した途端、目を輝かせたユンに前足を掴まれてブンブン振り回された。うーん、声が大きい。そして痛いだす。

 えっとここから一番近い市場となると、確か少し西に行ったところにあったような。あー、でもあの辺ってあんまり治安がよくないって聞いた気がするだす。そんなことを考えたら、なんだか行くのが怖くなってきた。嫌だなあ、何も起こらないといいんだすが。


「あ、そういやボクお財布持ってきてなかったヤ。ミン、お願いネ」

「……」


 底抜けに能天気なユンといたら何が起こっても大丈夫な気がしてきただす。

 そんなわけで市場の方へ向かって歩いていたら、道の先に何かの影が見えた。近づいていくにつれて、それはどうやら二匹のにゃんだと分かった、のだが……あれ? なんか倒れてないだすか……? 不審に思い、隣を歩くユンと顔を見合わせてから、そのにゃんたちのもとへ駆け寄った。

 近づいて、姿を見て驚愕きょうがくする。何故ならそのにゃんは、見間違いじゃなければおいらの知っているにゃんだったからだ。


「これ、ソンさじゃないだすか?」


 何でこんなところに。もう一匹は誰だったか、見たことあるようなないような。


「ワー、こんなところでお昼寝カイ? とっても呑気だネー!」

「いやこれ気絶してるんじゃないんだすか!?」


 呑気なのは君の頭の方では!? ここってもう少し先に行ったらスニャム街があるとか言われているほど物騒なところだすよね? そんな場所で昼寝できるとか、どういう神経してるんだって話だすが。いや、落ち着くだす。まだソンさと決まったわけじゃない。第一、サバトラのにゃんなんて沢山いるじゃないだすか。必死で自分に言い聞かせる。


「オーイ。モシモーシ。元気ですカー?」

「何してるんだすか!?」


 おいらが一匹で悶々もんもんとしている間に、ユンはうつ伏せに倒れていたソンさを仰向けにひっくり返して彼の脇腹をくすぐっていた。


「いや、くすぐったら起きるカナって思って。こんなところで寝たら風邪引いちゃうデショ? でも駄目ネ、全然起きないヨ。きっとよっぽどいい夢見てるんだネ」


 絶対違うと思う。でも見つけてしまった以上放っておくのは気分が悪いだすね。


「ネー、ミン。一旦王宮につれていこうヨ。こんなところに放っといたら可哀想だヨ」

「奇遇だすね、ユン。ちょうどおいらもそう思ってたんだす」


 というわけで、倒れている二匹をおぶって王宮までつれていくことに決まった。

 ハチワレのにゃんの体を起こした時、おいらは彼の頭に何かで殴られたような跡があることに気づいてしまった。


「これって……」


 彼らがスニャム街近くで倒れていたことと関係があるに違いない。なんだか嫌な予感がするだす。


「待つだす、頭に傷がある。もしかしたら、王宮よりもうちの病院につれていった方がいいかもしれないだす」


 ソンさを背負い王宮へ向かおうとしたユンに声をかける。すると、ユンは目を思いきり見開いて、驚いたような表情で尋ねてきた。


「エ、本当カイ!? それは大変ネ! ン? ということは、もしかしてソンクンも……?」


 背負っていたソンさを優しく地面に下ろし、恐る恐る傷の確認をし始めたユン。その目がまたも大きく見開かれた。


「ほ、本当ダ! これはヒドイ、どうしようミン!」

「落ち着くだす。だから病院でちゃんと診る必要があるかなって思ったんだすよ」


 おいらの言葉に、ユンはこくこくと何度も頷く。


「ウン、それがいいヨ! 何かあったら大変ダ!」


 よし。そうと決まれば行き先変更。かくしておいらたちは買い物袋を首に下げ、背中ににゃんを乗せて病院まで走ったのだった。


「そういえばユン、サーモンはいいんだすか?」

「仕方ないヨ。それよりにゃん助けの方が大事!」


 にこっと爽やかな笑顔で告げるユン。うん、やっぱりいい友達を持っただす。

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