第12話 今なら、出来る!(最終話)

「『フロムET』ウイルスを持ち込んだのは、君達?」


 と聞けなかった。

 宇宙には沢山の星々が有る。

 そのウイルスを彼女の星の人々が持ち込んだとは信じたくなかった。


「剛二は、ハーレムを望んでいるの。私を第一夫人にするなんて言っているけど……そういうのって、喜べると思う?」


 採血後、途中まで一緒に歩いて帰っていた和木さんがボソッと言った。

 

 ワクチンによる副作用には、未接種者の血清を注入する事で、病状が快方に向かっていった。


 ずっと弱者として生きて来た僕。

 献血さえ門前払いされた僕の血液が、こんなにも必要とされる時が来るなんて、誰が想像出来ただろう?


 問題は、男女とも急増していた不妊症や死産。

 女性の回復は早かったが、男性のダメージが強く、精子の回復は未解決のままだった。

 その為、未接種の男性は一夫多妻となる可能性が高まった。

 北尾なら、ハーレムを歓迎するのも無理は無い。

 

「和木さんも、逆ハーレムで対抗してみるのは?」


 冗談のように軽く受け流すかと思った。


「私は、女だから出産は限界が有るし、そんな事を望まない」


 和木さんも他の女性より優遇されるが、嬉しそうには見えなかった。

 僕も、そんな和木さんを目にして、ハーレムなんかに甘んじるつもりはなかった。


「僕は医大に進んで、この先、日本人が同じような遺伝子にならないように、男の失われた機能を取り戻す事に全力を注ぐよ!」


「そうなの? せっかく、ハーレム状態になれるのに?」


 意外そうな和木さん。


「僕には、そんな沢山の奥さんをもてるほどの甲斐性なんて無いから。結婚相手は自分が望んでる1人だけいてくれたら十分だよ!」


「だとしたら、その女性は、幸せね」


 まるで他人事のような感じの言い方……

 和木さんの事を想っているって、予想もしてないかな?


 脈無しなのに告るって、今までの僕なら絶対ムリだったけど……

 今なら、出来そうな気がする!


「僕の研究の成果が出たら、ライバルを増やしてしまう事になるけど……」


 僕は、立ち止まって、和木さんの左手を両手で握りしめた。


「戸波君……?」


「その時には、僕を和木さんの結婚相手の候補の1人として見て欲しい!」


 円らな瞳をより大きく見開いたと思ったら、次の瞬間には大粒の涙を溢れさせた和木さん。


「あっ、そんな、困らせるつもりは無かったんだ、ゴメン! 返事はもちろん、まだまだ先で! 僕が何かの成果を出してからでも遅くないから!」


 和木さんの反応を見て時期尚早だったと気付き、慌てて前言撤回しようとした。


「ううん、今さらで、ゴメンね。戸波君が不登校になる前から気になっていたの。そうなる前に、何か私に出来る事が有ったかもって、ずっと後悔していた。だから、嬉しくて……これからは、二人三脚で頑張ろう!」


 あの声の言っていた通りだ!


 僕は、こんな大きな転換期を1人じゃなく、最高の形で迎える事が出来るようになった!


 同じ志を持つ2人が一緒なら、1人で頑張るよりも何倍も心強い!


 それを大好きな和木さんと出来るなら、言うこと無しさ!



            【 完 】

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君の人生は今、始まった! ゆりえる @yurieru

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