第11話 より多くの人達に役立てるように

 部活で疲れていたはずの真由実は、座りもせず廊下を行ったり来たり。

 超過労働を断り病院に駆け付けたお父さんは、椅子に座り、寝落ちしては、ハッと覚醒を繰り返した。


 一方、僕はやれるだけの事をした充実感が有ったせいか、ゆったりと構えていられた。


 そんな僕ら家族が見守る中、お母さんの頭部の手術は成功した。

 輸血には、僕の血液300mlと北尾の血液150mlが使われた。

 

 術後、2日間は付き添ったけど、お母さんの意識が戻らなかった。


 家に戻り、爆睡して起きた後、また病院に向かおうとした時、僕の生活を一変させる電話が鳴った!


 病院へ行く前に、少しだけ寄り道した。

 目覚めたお母さんに、朗報を伝えたかった!


 今までの僕だったら、かなり気重だったと思うけど、今の僕にとっては、嵐が終わった後の青空のような爽快感が有った。

 この流れなら、きっと、そろそろ、お母さんも目覚めてくれそうだ!


 僕の願いを聞き届けてもらえたかのように、僕が病室に入った微かな物音で、お母さんの瞼がビクッと動いた。

 そして、医師達も目を見張るほどの回復の早さを見せたお母さん。


「まさか、引きこもっていた功太に命を救われるなんてね!」


 頭の傷以外は、今まで通りに見えるお母さんが、僕の目の前で笑っている!

 少し嫌味っぽい口調も変わりないけど、今はそれが何より嬉しいんだ!


「お母さんが喜ぶ知らせも有るよ! 僕、南高に特別に転入させてもらえるんだ!」


 南高は、この辺では進学校で、和木さんや北尾も通っている高校。

 僕は、引きこもっている間も、通信制で高卒レベルまで単位が取れる見込みとなっているのが有利に働いた。

 それ以上に、僕が未接種者という事が大きく影響したようで、まるで顔パスのようにラクに転入できる運びとなった。


 いつの間にか、世の中が、未接種者に優しい流れに変わっていたんだ!

 あの声の言っていた通りなのかも知れない!


 そうだ、あの声は……?


 あんなに僕を励ましてくれていた、あの声が、お母さんの病院を訪れて和木さん達に再会した時点から、全く耳にしなくなっていた!


 僕は、高校転入の手続きや準備とかで、そんな事にも気付かず、ずっとバタバタしていたんだった。


 僕は、まだあの心地良い声で励まされていたかったのに……

 どうして、ささやいてくれないのだろう?


『私の事を覚えていてくれたのね……もう、私は必要とされてないのだと思っていた……』


 僕の疑問に答えるように、あの声が戻って来てくれた!

 良かった!!


「そんな事無いよ! ただ、慌ただしかっただけで……」


『ううん、いいのよ。実際、そろそろ、私は引き上げる頃合いなの。君は、しっかりと君自身の道を歩む事が出来るようになったのだから!』 


 引き上げる頃合い……?

 つまり、もういなくなってしまうって事?


「いや、僕はまだ不安でいっぱいだよ! 君が色々教えてくれたから、僕は前に進めただけで……」


『これからは、その役目は、私ではなく、君のお友達が担うようになるわ! 良かったわね! 私のような実体の無い存在ではなく、これからは、肉体を持ったお友達が君の周りにいてくれる』


 和木さんや北尾の事を言っているんだ。

 確かに、2人は心強いかも知れない。


「君にもいてもらいたいって言ったら、欲張りかな?」


『そう、欲張りよ! 私は、また、私の役目を果たす相手の所へ行かなくてはならないのだから』


 一瞬、責められるかなと思ったら、小さな鈴が転がったような、優しい声音だった。


「そうか……君は、僕が独占出来るような存在では無いんだよね。最後に教えてくれるかな? 君は……何者だったの?」


『私は、地球人達が素晴らしい未来を築けるように、宇宙から志願して来た者よ。つまり、宇宙人なの! 他の人には小馬鹿にされそうだけど、君には信じてもらえるよね?』


「もちろんだよ! 君がいてくれたおかげで、僕の存在してる意味を知って、自信を持って生きる事が出来るようになった! ありがとう!」


 そう、僕はこれから自分でしっかりと前向きに生きて行かなくては!

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