第10話 思わぬ助っ人

 和木さんは不服そうだったけど父親に説得されて、注射器1本分で血液検査だけする事になった。

 その結果、僕も和木さんも共に、正常な血液と確認された。


 正常な……とは?


 和木さんは、未接種者の血液が貴重って言っていた。

 ワクチンを接種済みの人の輸血用の血液とはどう違うのだろう?


「君のお母さんは、頭を打って出血量が少し多いから、輸血を必要としている。ここだけの話だが……最近、輸血用の血液が、何故かどれも凝固してしまう事態が起きているんだ」


 和木さんの父親が周囲を気にしながら、小声で話し出した。

 輸血用の血液が凝固?

 それじゃあ、お母さんに輸血出来ない!


「あの……僕は過去に輸血した事が有るんですが、それでもかまわなかったら、僕の血を使って下さい!!」


「それを君に是非お願いしたかった。未接種者の血液の場合、そのような事は起こらなくて安全だ。お母さんに、さっき採取した血液と足りない分を君から更に採取させてもらう事に同意してもらいたい」


「モチロンです! 僕なんかの血液で、お母さんを救えるなら、沢山使って下さい!」


「君は400mlまでなら献血出来るだろうから、それくらいまで引き受けてくれ。もしも、それで足りなかったら、穂香も協力してもらえるだろう?」


 貧血気味の和木さんに、お母さんを救う為にお願いするのは、申し訳ない気がしてならなかった。


「戸波君のお母さんの命を救う為なら、貧血なんて言ってられないわ! 私の血液も使って!」


 快く引き受けてくれた和木さん。

 和木さんのそういうところが、大好きなんだ!


「そういう事なら、俺のも使ってもらっていいぜ!」


 いきなり背後から声がしたかと思って振り向くと、僕の苦手な存在の北尾剛二ごうじが、右腕に包帯を巻いている状態で立っていた。


「剛二、また怪我したの?」


 和木さんは、北尾と付き合っているって噂が有ったけど、本当なのかな?

 って呼び捨てしてるし、やっぱり付き合っていそう。


「こんなのは、ほんのかすり傷さ!」


 北尾は、中学校の時から柔道部で、全国大会でも指折りの強さだった。

 意地悪な性格をしていたけど強いし、いざという時は、こんな風に声をかけて来るくらい面倒見の良い性格をしているから、僕なんかより、和木さんとはお似合いかも知れない。


「あっ、剛二も未接種だったもんね」


「あたぼうよ! 俺はそんなのに頼らなくても、ウイルスの方から逃げていくんだ! 穂香は、あれだろう? あのうさん臭いやつ」


 小馬鹿にしたように笑った北尾。

 まあ、確かに、ウイルス自体、北尾には近付きたくないだろうな~。


「失礼な~! うさん臭いなんて! 私のペンデュラムを使ったダウジングは、すごく当たるのよ~!」


 ペンデュラム……?

 ああ、あのパワーストーンが吊り下げられていて、ブラブラするようなやつ?

 和木さんに、そんなオカルトっぽい趣味が有るなんて、意外でしかない!

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