EPISODE6 『鳥のさえずり、か?吹いている風音も優しいな』

 キュウカクからソレを受け取ると、オレはソレに意識を集中した。みんなが言う通り前回と違うソレからはちゃんと何かの音がしている。もう少しちゃんと聞こえるように、と顔に近づけてみた。


 ――ちゅん、ちゅん

 ソレから聞こえてきたのは……

 「鳥のさえずり、か?」

 それにたぶん、これは木の葉をゆする優しい風の音。あぁ、これはいい音だ。

 「森の中にいるような音がするな。鳥のさえずりがする。吹いている風の音も優しい」


 「ってことは、やっぱり嫌な音ではない訳だ!」

 ショッカクが少し眉根を寄せてそう言った。訳を聞けば、他のみんなは基本的にはこのソレに対して良い印象のようだったが、ショッカクとミカクだけ、少しの違和感を覚えたらしい。

 「チクチク、っていうのがさぁ……」

 「ボクも、味はおいしかったんだけどー。ちょこっとだけ、堅くてー。」


 「だけどオレには嫌な音には全く聞こえない。むしろ音だけで言ったら、オレはこの音めちゃくちゃ好きだぞ」

 「チョウカクが言うなら、きっと嫌なものではない気がしますね」

 シカクが丸メガネを押し上げながら言う。オレはこのソレをさっさとアノコの所に持っていく提案をした。

 「結局オレたちだけじゃ埒が明かねぇよ。アノコの所に行こうぜ」

 その言葉にみんな頷いて、五人揃ってアノコの家へと向かうことにした。


 アノコの家は六人の中では一番デカいはずだ。そのほとんどが落ちてきたソレで埋まっていて、加えてアノコの肩掛けカバンの中にも溢れるほどのソレが入っている。よくもまぁ、こんだけの量を管理しているな、とつくづく感心してしまう。


 チャイムを鳴らすと中から『はーい』という声と足音が聞こえてくる。『たぶんみんなだから、フゥロもおいでよ』という声が聞こえて、足音が二人分玄関に向かってくるのが聞こえた。

 「よ」

 「あ! みんな、いらっしゃい!」

 玄関を開けた先、やっぱり聞こえた会話通りこの前と同じく、アノコの横にはフゥロ、って名乗った影もいた。フゥロもこっちに気が付いて会釈をする。

 「どうも」

 「おう」

 まだ、フゥロとの距離感を測りかねているオレら五人はどうしていいかわからずにその場に固まってしまう。いつもそういう空気をいい感じに壊してくれるのがアノコだ。


 「もしかして、チョウカクの持っているのが落ちてきたソレ?」

 「あ、あぁ。今回はみんな感覚がちゃんとあった」

 その言葉を聞いたアノコは『今日はどんな感じだったの?』と聞いてくる。


 「温かいんだけどね、少しチクチクするんだ」

 「見えたのはコーラルピンクとレモンイエローでしたよ」

 「新緑の爽やかないい香りでした」

 「ケチャップとソースとお肉の味ー、だけどね、ちょっとだけ硬かったかな」

 「鳥のさえずりと、優しく吹く風の音だ」


 五人の言葉を聞いて、アノコは少しだけ引っかかったように首を傾げた。

 「ショッカクのチクチクと、ミカクのちょっとだけ硬い、が気になるね」

 そう言ってオレの抱えているソレに手を伸ばしながら、『ボクにも貸して』とアノコは言った。

 「おう」

 返事をしながら抱えていたソレを、アノコの腕へと優しく渡す。

 するとアノコは小さな声で『あぁ、なるほど』と呟いた。

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