EPISODE5 『わー!ケチャップとソースとお肉の味ー!』

 キュウカクから少しだけ分けてもらったソレ。今日はみんなそれぞれの感覚でソレを感じられているって話だから、きっとこのソレは何かしら味がするだろう。少なくとも前みたいに無味ってことは無いはず。


 「いただきまぁす」

 そう言って受け取ったソレを口の中に押し込める。むぎゅむぎゅと咀嚼すると、少しだけ硬さがあるなとは思いつつ、口の中に広がった味に思わずテンションが上がってしまった。


 「おいしー! これ、ケチャップとソースとお肉の味がするよー!」

 おそらく全体のバランス的にハンバーグの味。しかもお店の物っていうより、お母さんの手作りの味。きっとそういう思い出なのかもしれない、そう思った。


 ただちょこっとだけ引っかかったのは、ソレの硬さだった。味は申し分ない、なのにその硬さだけがなんでだか気になって。

 「ハンバーグ、だと思うよー、この味。……だけど、ちょこっとだけ、堅さが気になるー」

 「え、堅いの?」

 ショッカクがボクの話に食いついてくる。だから誤解を与えないように説明を付け加えた。

 「うーんとね、嫌な硬さじゃないんだー。ちょっとだけ凝り固まっちゃっている感じっていうかー。お肉焼きすぎちゃったかなー、みたいな硬さー。」

 

 「なるほど。総合しても、特段嫌な感じがするわけでは無いんですね」

 シカクがボクの話を聞いてそうまとめた。間違っているわけでもないので素直に頷く。

 「うん。嫌な感じは全然ないねー」

 「じゃ、あのチクチクは……」

 ショッカクの表情が“解せぬ”って感じで面白くて、声に出さないように少しだけ笑っちゃったのはナイショ。あと一人、意見を聞いていないのがいるじゃない。

 「チョウカクにも聞きに行こうよー」

 ボクが言うとキュウカクが頷いた。

 「そうですね。チョウカクさんのところに向かいましょう」


 チョウカクは皆の家から少しだけ離れたところに住んでいる。音が大きいのが苦手なチョウカクは、それくらい離れている方が、聞こえる音の調子が良いんだって。

 

 ボクと同じでチョウカクの家にはベルが無い。って言ってもチョウカクの場合、誰かが着たら足音で誰が来たか、何人来たかとかもわかるらしいから必要ないって言ってたっけな。


「……今日はアノコ以外で来たのか。」

 僕らがチョウカクの家の前についたと同時に扉が開いてチョウカクが中から出てきた。人数もアノコだけがいないのもお見通しなのがすごい。

「さすがチョウカクー、あたりー」

「今日のソレ、流石にこの前みたいなのではないよな?」

 キュウカクの手元に抱えられているソレを見て、ボクらと同じく少しだけ疑いのまなざしを向けるチョウカク。それにボクらは『大丈夫!』と言い切る。


「温かくて、少しチクチクする」

「コーラルピンクとレモンイエローです」

「新緑の爽やかさでした」

「ケチャップとソースとお肉の味ー」


 それぞれの感想を聞いたチョウカクはヘッドホンのスイッチを切りながら、『みんながそれだけわかってるなら何か聴こえるな』って言った。そのあと少しだけ眉がキュッと寄る。周りの音になれるまで少し時間がかかるんだって。


 やがて周りの音になれたのか、キュウカクが抱えているソレに向かって手を伸ばしながら、チョウカクは言った。

 「おい、それ貸せ。どんな音か聴いてみる」

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