EPISODE4 『すっきりした新緑の香りがする』

 シカクさんから受け取ったソレ。前回の事があるから少しだけ疑ってかかってしまうのは、致し方のないことだと思う。だけど二人が『今回は大丈夫』っていうので、きっと大丈夫なんだろう。


 受け取ったソレを顔の前に近づける。くんくんっ、と鼻を動かすとすっきりとした爽やかな香りが鼻を通して全身に広がる感覚がした。

 「うわぁ……。すごくいい香り。すっきりしてて爽やかな感じがしますね」

 「すっきり爽やか、ですか」

 シカクさんに聞かれ、はい、と頷き続ける。

 「新緑の爽やかさ、に近いと思います」


 「う~ん……。つまり、嫌な臭いはしない、てことだよね?」

 ショッカクさんに確認されて、オレは思わず力強く答える。

 「嫌な臭い、どころか、ものすごくいい香りということに、間違いないです!」

 するとショッカクさんは一人、頭を捻った。


 「んー……。そしたらこのトゲトゲはなんだろう……」

 「どれくらい痛いんですか? そのトゲトゲ」

 「例えるなら、桃の皮をほっぺにこすりつけた時のチクチク感、らしいですよ」

 「あ、じみーに嫌なやつですね……」

 「そう。痛いんだけど、気になるんだけど、我慢できる、みたいな」


 絶妙な例えに手の中にあるソレをまじまじと観察してみる。二人のように色や形の詳細がわかるわけでは無いけれど、桃の皮の例えで何となく絶妙なチクチク感を思い出したオレは少しだけ微妙な気持ちになる。

 「あれ、結構嫌ですよね……」

 「そうそう、気になるんだよねー……」。

 でもそのチクチクがあったところで、香りについては何も嘘はついていない。


 「お二人でオレのところに来たってことは、他のみんなはまだなんですよね?」

 そう聞くと二人は揃って頷いた。それを確認してオレは二人に提案をする。

 「それなら次は、ミカクさんの所に行きませんか? ミカクさんもトゲトゲに関して何かあるなら、嫌な味がするかもしれないですし」

 それを聞いた二人は『その案で行こう』と言って、オレら三人はミカクさんの家へと向かうことにした。


 ミカクさんの家はいろんな調味料を中心に、たくさんの食べ物、中には薬剤・薬草なども揃っている。とにかく口に入れられるものは一通り揃っていると、随分前に話していたことがあったような……。


 ミカクさんの家にはチャイムが無いので、玄関前から大声で呼ぶ必要がある。チャイムは前に一度壊れてから、『直さなきゃー……』とぼやいていたのは知っているけれど、たぶんミカクさんの事だからまだ直していないと思う。


 「ミーカーク―さーん!!」

 オレが大声で呼ぶと中からくぐもった声で『今出るー』と一言。もごもご言いながらの返事だったから、なにか食べていたかな……。


 「いらっしゃいー。みんなお揃いでどうしたのー?」

 「ミカクさん、このソレ、今日落ちてきたものらしいんです」

 オレは自分が受けた説明をそのまま、ミカクさんへと説明をした。するとミカクさんも説明を受けたオレと同じように確認してくる。

 「今回のは、前とは違った?」

 その言葉にオレら三人は『大丈夫だった』と答える。

 「ふーん、そっかー。そしたらきっと味もするよねー」

 『そしたらそれ、すこーしちょうだい』と言いながら両手をこちらに向けてくるミカクさんに、ほんの少しソレを分けた。

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