第4話 那須愛莉


 授業がすべて終了した放課後。


 潤一は学校をぶらぶらと散策していた。


 久しぶりの学校に多少なりともテンションが上がり、校内の内装を確認してみたくなったのだ。


 体育館、職員室、グラウンドとあちこち気分に従って適当に回った。


 それぞれ潤一が異世界に行く前と一切変わってなかったが、長期的に現実世界を離れていた彼にとっては感慨深かった。


 てくてくと歩を進めていると、潤一は裏門に到着した。


 人気の誰も通過しないのではないかと、イメージさせる裏門だった。


 潤一は初めてここに足を運んだ。


「そろそろ教室に戻って帰るか」


 潤一は小さな声で独り言をつぶやき、踵を返そうとした。


「いきなり呼び出して何?」


 裏門近くの人気の無いやや広い空間から女性の声がした。


 その女性から潤一は見えていなかった。


 潤一は「こんなとこでなにしてんだ?」と疑問を抱き、付近にあった壁に隠れながら、人気の無い空間に視線を向けた。


 そこには肩にややかかる桃色のボブヘアーに、切れ目のやや薄い赤色の瞳をした女性があった。


 その女性は潤一が通う学校の規定の制服を身に纏っていた。


 白のセーラー服に緑のスカートが岡西中学校の女子の制服だった。


 彼女の名前は那須愛莉(なす あいり)。潤一の隣のクラスの生徒であり、身長は150センチ後半でありつつ、出るとこは出ている発育の良い女の子だ。


 愛莉はかわいいと美人を併せ持った顔立ち、切れ目のやや鋭い目つき、豊満な双丘を所持していることから、学校でも有数の人気を誇った女子生徒である。


 愛莉は入学してから現在までで50回以上は告白を受けていると言われている。


 しかし、彼女はその告白をすべて断っていた。


 その理由は定かではないが、付き合うなら真剣に好きな人と交際したいらしい。


 彼女の振り文句は「好きじゃないから付き合えない」だった。


「ああ。悪いな。ちょっとに那須に伝えたいことがあるんだな」


 愛莉に対面する形で今田が佇んでいた。


 彼は潤一と同じ、上下紺色の制服を着ていた。


「用件は?」


 愛莉は面倒臭いのか、今田に次の言葉を促した。


 今田は高身長で、肌が程よく焼けており、整った男らしい顔立ちをしている。その上、サッカー部のエースでもあった。


 そのモテる要素を幾つも兼ね備えた今田に対して、愛莉は微塵も彼に対して興味を示していない様子だった。


「那須。俺と付き合わねぇか?」


 今田は愛莉に迫るなり、単刀直入に告白を申し込んだ。


「はぁ・・・」


 愛莉は前置き無しの直球の告白に思わず、呆れたようなうんざりしたような表情を作った。


 今田の行動には自尊心が高いことを暗示していた。


 愛莉は腕を組みながら、わずかに頭を傾けた。


 告白を受け入れかどうかを彼女なりに考えているのだろう。


「悪いけど。あなたの希望に沿えないわ。理由は申し訳ないけど、好きじゃないから付き合えないの」


 愛莉は姿勢を変えずに告白の返事をした。


「な!?」


 今田は愕然とした表情をおくびにも隠さず露わにした。


 振られることは頭で予測していなかったことが垣間見えた。


「・・・」


 今田は口を半開きにしたまま、呆然と佇んでいた。


「もういい?私もこれから用事があるから」


 愛莉は胸の前でクロスした腕を解き、前に歩き出した。


 愛莉が今田の横を通り過ぎようとした瞬間。


「キャッ!?」


 今田は愛莉の腕を強引に掴み、潤一が隠れている壁に向かって彼女を壁に叩きつけた。


 愛莉が壁にぶつかった際に発生した振動が潤一に伝達された。


「待てよ。待てよ!まだ、話は終わってねぇんだよ」


 今田は心から搾り出した声を発し、不気味な歪んだ笑みを浮かべた。


 潤一はその光景を目にできず、ただ癪に触る今田の声を彼の鼓膜が無意識にキャッチした。

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