第3話 以前とは違う


「おお!久しぶりだな!俺専用の人間サンドバッグ!」


 今田は朝の会の前に登校してきた潤一を視認するなり、歪んだ笑みを浮かべた。


 おそらく、ストレス発散できる道具が再び、学校に帰還してくれたのが嬉しいのだろう。


「不登校になってたみてぇだが、どうして今日、学校に来たんだぁ?」


 今田は心底軽蔑した口調で潤一に疑問を投げ掛けた。


 今田は腕と足を組みながら座り、偉そうな態度を取っていた。


「・・学校は行かなければ行けないところだからかな」


 潤一は平然とした顔で今田の疑問の解決に貢献した。


 以前とは異なり、今田に恐怖を感じている様子は一切無かった。


「・・なんだその態度は?腹立つな。まだ、朝の会まで5分ほどあるから、ちょっとトイレまで着いて来い」


 今田はイスから腰を上げ、教室の出口に向かった。潤一も素直に指示に従い、今田の後ろをゆっくりと追いかけた。


 このとき、潤一と今田には一定の距離が意図的に作られていた。


「おい。お前。調子に乗るなよ。なんださっきの態度は?」


 潤一はトイレに入るなり、冷淡な口調で潤一を非難した。


 先ほどの潤一の平然とした態度が気に食わなかったのだろう。


「・・・」


 潤一は挑発するように沈黙を貫いた。


 顔は以前とは異なり怯えた様相がまったく見えなかった。


「何か言えやコラァー!」


 今田は怒鳴り声を上げながら、拳を振り上げた。


「・・・」


 しかし、その拳は空を切った。


 潤一が軽い身のこなしで今田の拳をするっとかわしたのだ。


「お、おおっと」


 今田は拳が避けられたことで、バランスを崩し、数歩ほど前に進んでしまった。


 潤一はその有様を目だけ動かして確認していた。


「なに避けてたんだよ!中森のくせに生意気だぞ!!」


 次に、今田は勢いに任せて回し蹴りを繰り出した。


 素人の蹴りだった。


 しかし、これも残念ながら空を切った。


「ちぃ。なんで当たらねぇんだよ。前は1回も外れなかったのによ」


 その後、5分ほど今田はパンチやキックを披露した。


 だが、すべて潤一によって回避される始末となってしまった。


 そうこうしていると。


 キーンコーンカーンコーン。


 朝の会の開始を伝えるチャイムがトイレ内に勢い良く反響した。


 とてつもなく大きな音であった。


 潤一は久しぶりのチャイムの音を知覚した。


 廊下にいた生徒たちは教室に足早に向かっていると推測できる。


「はぁはぁ。まじで覚えてろよぉ!1時間目の休み時間には必ずボコボコにしてやるからな」


 潤一は息を荒しながら、そう宣言するなら、駆け足でトイレを退出した。


「・・・」


 潤一も今田のこうどうに倣うようにゆっくりと歩を進めながらトイレを後にした。


 ちなみに、休み時間でも今田は潤一をトイレに呼び出し、拳や蹴りをどうにかしてヒットさせようとした。


 しかし、放課後までの計4回の休み時間を使ったとしても、今田は潤一に指1本触れることも叶わなかった。

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