文化祭は思いっきり楽しむ


「ま、真衣が目を覚ました……!?」


 その連絡を担任から聞いたのは、文化祭が始まる前の一時間前。担任は良かったなと心底喜んでいたけど、かくいう俺は愛想笑いを返すしかできなかった。あんな光景を見てしまったんだから、今更真衣への気持ちなんてあるわけがない。でも、それを今の俺は隠さなくてはいけないわけで、複雑な心境になる。


「先輩、大丈夫ですか?」


「あ、ああ花蓮。うん、大丈夫」


「とてもそうは見えませんよ。やっぱり、日高先輩が目を覚ましたことが気になるんですね?」


「……まぁな」


 もうすぐ開始時刻という中で、部室で待機していると結局花蓮には見破られていた。もう花蓮には俺のことなんてなんでもお見通しなんじゃないかって思えてくる。


「安心してください、あの人たちは私が犯人だって言えませんから」


「で、でも……そんなのわからないじゃないか」


「大丈夫ですって。いざという時には、私にいい案がありますから。それよりも今日は文化祭、思いっきり楽しみましょう? この日のために、いっぱい頑張ってきたじゃないですか」


 自分が危害を加えた相手が目を覚ましたというのに、花蓮は動揺なんて一切見せずに淡々としていた。そんなに自信があるなら、俺が気にすることなんてないのかもしれない。そうだ、花蓮の言う通り今日のために色々と頑張ってきたんだ。真衣なんか気にして、台無しになんてしちゃダメだよな。


「ありがと、花蓮。そうだよな、思いっきり楽しむぞ!」


「ええ!」


 それから数分後、文化祭が幕を開けて在校生から外部のお客さんまで、多くの人たちで学校中が溢れ出す。ガヤガヤと賑やかな雰囲気の中、文芸部である俺たちの部室は異質なぐらい静かな雰囲気で、訪れた人たちが俺たちの書いた小説を読んでいく。


「これ、とても面白かったです!」


「あ、ありがとうございます!」


 ふと、私服姿の中学生くらいの男子から小説を褒めてもらった。ああ、こうやって自分の書いた小説を褒めてもらえるのが一番嬉しい瞬間だよな……!


「先輩、広角ゆるゆるですよ」


「う、うるさい! 褒めてもらえたら嬉しいもんだろ!」


「まぁそれもそうですね。でも懐かしいです。私も、中学生の頃にこの学校の文化祭で先輩の小説を読みましたから」


「ああ、前に話してたな。花蓮は去年も来てくれてたって。俺も覚えているよ」


「ほんとですか?」


「そりゃ花蓮みたいな美人が来たら誰だって記憶に残るよ。それに、あの時の花蓮食い入るように俺の小説読んでたし」


「とても面白かったですから。この学校に入ったら、この部活に入ろうってきっかけになりましたし」


「そうだったのか。なら去年も頑張って書いた甲斐があったな。花蓮とこうして一緒の部活に居られるんだから」


「……ですね。さて先輩、そろそろ一旦部室を閉めて私たちもどこかに行きませんか? 私、クレープとか食べたいです」


「お、ならそうしよう。俺も何か食べたかったし」


 そんなわけで俺たちは二人で色々回ることにした。怪しまれるか心配してたけど、みんな浮かれ気分なのか俺のことなんて気にする人はおらず、俺たちも思いっきり楽しむことができた。


「あ、花蓮。クリームがついてる。ほら」

「……ありがとうございます」


「花蓮、うまく取れた!」

「お上手ですよ、先輩」


「こ、怖かったなぁ……お化け屋敷」

「先輩の悲鳴が可愛くて全然気になりませんでしたよ」

「え」


 あっという間に時間は過ぎて、気づけば夕方。文化祭は終わりを告げ、みんな後片付けに追われていた。


「あー疲れた。温泉とか行きたくなるわ」


「そうですか? では、混浴とか一緒に行きます?」


「まだそんな覚悟はないよ……」


「……私は、あるんですけどね」


「え」


 片付けの最中、花蓮は密着するように俺の側にやってきた。


「私、今日を通じて改めて確信しました。やっぱり、私は先輩のことが大好きなんだって。だから、もっと関係を深めたいんです。な、なので……こ、この後……」


 その言葉の意味を、俺は理解した。……花蓮なら、いいかもしれない。いや、花蓮だからいいんだ。俺のために、本当に色々としてくれた花蓮のためにも、その気持ちに応えるべき——


「ライン……!?」


 ふと、ラインの通知音がなる。見てみると、それは……真衣からだった。


【明彦、会いたいよ……早く病院に来て】


――――――――――

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