第47話 サーム
◇
「さて、勢いで買ってしまったものの……どう調理するかな」
マーヤの目の前には立派な魚が一匹。サームという旬の魚で、今の時期は脂がのって非常にうまい。
ふらりと立ち寄った港町を散策していると、たたき売りされているサームがあまりにもうまそうで、思わず一匹丸ごと購入してしまった。
前に釣りをした時のように、近くの料理屋に持って行くというのも手だが……自分で調理するのもまた一興だろう。
そう考えたマーヤは、市場で適当に他の食材を買い込み、宿泊している宿屋へと戻る。
宿屋の主人に頼んで台所を借りたマーヤは、買ってきた食材を並べてニンマリとほほ笑んだ。
「さて……やろうか」
慣れた手つきで魚を捌き、いくつかの切り身に分ける。
せっかく台所を借りているのだ。野外ではできない料理をつくろう。
鉄なべに買ってきたバターを落とし、焦がさないように弱火で溶かす。
よく熱されたバターに、軽く塩を振ったサームの切り身を投入。
ジュっという音と共に、切り身が熱されていき、バターの豊潤な香りと魚の焼ける香ばしい香りが部屋に満ちていく。
軽く焦げ目がついた当たりで鉄なべから皿に移し、軽くレモンを絞った後、刻んだ香草をパラリとかけて完成だ。
料理は一品完成したが、魚や食材はまだ十分にある。
続いて2品目に取り掛かる。
そこが深めの鍋に水を入れて火にかけ、湯を沸かす。
その間に買ってきた野菜やイモなどを適当な大きさに切り分けて鍋に放り込み、ぶつ切りにしたサームの切り身もどっさりと鍋に入れる。
塩を少々と大きめに切ったギネの葉で味を調えればあとは煮込むだけ。
スープを煮込んでいる間にもう一品。
薄くスライスしたサームの切り身を軽く炙り、酢と砂糖、塩と香草を混ぜたソースに漬け込む。
少し硬めのパンをよく切れるナイフで適当な大きさに切り、直火であぶる。
香ばしくあぶられたパンに軽くバターを塗り、先ほどソースに漬け込んだ薄切りのサームをのせる。
その上に一口大に切り分けたチーズをのせれば完成だ。
テーブルの上に並んだ魚料理の数々。
大きなサームを丸々一匹使っただけあって、その量は圧巻だった。
宿屋で食事をしていた他の宿泊客が、何事かと遠巻きにマーヤのテーブルを見てくるが、そんな視線は無視して早速食事に取り掛かる。
まずはスープ。
たくさんの野菜と一緒にホロホロに煮込まれたサームの身をスプーンですくい、一口。
野菜の甘みとサームから出たうまみ。ギネの香りがふわりと鼻を抜ける。
たまらずもう一口。
味付けはシンプルだったが、サームの切り身や野菜・イモから出た出汁がスープに深みを与えている。
続いて酢漬けサームンとチーズを乗せたカリカリのパン。
さっくりとしたパン、ねっとりしたサームの切り身とチーズのそれぞれ違う食感が楽しい。
酢漬けにしたサームの切り身は爽やかで、チーズとよく合う。
スープとパンを心行くまで堪能したマーヤ。
最後はメインのバター焼きだ。
上品にナイフで一口大に切り分け、フォークで口に運ぶ。
バターで揚げ焼きにされた外側の身はカリカリと、中はふんわりと仕上がっている。
嚙みしめると上質な脂が口いっぱいに広がった。
「ふぅ……うまかった」
所狭しと並べられていた料理はあっという間に間食。
自身の腹をさすりながら、充実した食事に満足げな笑みを浮かべるマーヤだった。
◇
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