第46話 ゆで卵
◇
卵は万能の食べ物だ。
茹でても焼いてもうまく、単品でも他の食材と合わせても大概うまい。
そしてマーヤの目の前には拳ほどの大きさがある、真っ白な卵が5つ。
たまたま木の上に鳥の巣を発見し、運よく5つの卵をゲットすることに成功したというわけだ。
巣の形から察するに、この卵はダムダム鳥の卵だろう。
ダムダム鳥は1メートルほどの大きさをした肉食の鳥。個体数は多く、温かい場所であればどこにでもいる鳥といっていいだろう。
ダムダム鳥自体の味はまあまあで、個体数も多いことから庶民に親しまれている。
しかしその最大の特徴は、なんといっても卵のうまさ。
拳大の卵は、他の鳥の卵に比べて味が濃厚で、それこそ煮ても焼いても絶品だ。
だからこそマーヤは悩んでいた。
ゆで卵にして食べるか、目玉焼きにするか……卵焼きという手もある。
なにせダムダム鳥の卵は絶品だ。これは非常に悩みどころだった。
5つの卵を睨みつけるようにしてしばらく悩んでいたマーヤは、今回はゆで卵にして食べる事を決断する。
他の選択肢も捨てがたいが、ゆで卵こそがこの卵を最も活かす料理だと判断したのだ。
そうと決まれば善は急げだ。
手早く焚火をおこし、調理用の壺に小川で水を汲んで火にかける。
湯を沸かしている間に副菜の準備。
近場で採取した食べられるキノコ類数種。適当に塩を振り、枝に突き刺して遠火であぶる。
そうしている間に湯が沸々と沸いてきた。
卵を割れぬよう、慎重に湯に沈めてしばらく待つ。
やがてキノコの焼ける良い香りが漂ってきた。
程よく焦げ目のついたキノコを串から外し、木皿に盛り付ける。
茹で上がった卵も壺から取り出し、同じ皿に盛り付ければ完成だ。
いたってシンプルなゆで卵とキノコの塩焼き。
しかしそれは実にうまそうだった。
まずは副菜のキノコからいただく。
遠火でじっくりと火を通したキノコ。外側はカリっと香ばしく、噛みしめると適度な塩味とキノコのうま味が口内に広がる。
毒キノコの見極めは困難だが、適切な知識さえあればキノコは極めて優秀な食材だ。
続いて今日のメインディッシュであるダムダム鳥のゆで卵に取り掛かる。
熱々の殻を剥き、ぱらりと塩を振る。湯気を立てる真っ白な卵に大口を開けて齧り付いた。
ホクホクとした淡泊な味わいの白身に、トロリと濃厚な半熟の黄身の見事な調和。
ただ茹でただけとは思えぬ完成度にマーヤは驚く。
拳大もある卵を一気に平らげ、すかさず2個目に手を伸ばす。
先ほどは塩を振ったが、それすら余計かもしれない。
2個目も殻を剥き、齧り付く。
やはり塩はいらなそうだ。完璧なその味にマーヤは思わず笑みを浮かべた。
いろんな場所に行って、いろんなものを食べてきた。
もしかしたら舌が肥えてしまって、普通の食べ物では満足できなくなるのでは?
旅を始める前は、なんとなくそう考えていたが、どうやら杞憂だったようだ。
珍しい食べ物も高級な食べ物も良いが、安価な食べ物も、ありふれた食べ物だって悪くない。
完璧なゆで卵をひょいと口に放り込んで、マーヤは満足げに微笑むのだった。
◇
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